大和古伝、桜花姫ヨシノの物語

ムーンライズ


 
 (5) 逃げ場のない闇の世界。ヨシノ姫、絶体絶命!!

 大量の強奪品と、大勢の侍女と巫女を抱えた禍神達は、薄汚れた闇の世界に戻ってきた。
 彼らは本来、闇の中でしか活動できない。
 かつてアマテラスと神々との戦いに破れた禍神達は、光の下では存在する事すら許されなくされたのだ。
 悪行の報いとも言える事だったが、禍神どもはその事を陰湿に逆恨みして、復讐の牙を研ぎ続けていた。
 闇の世界は堕落の腐敗臭と、貪欲の汚泥で満ち溢れている。
 大量の汚れの全ては、禍神の邪悪な精神から発生した物だ。
 その汚れの真っ只中で・・・囚われた桜花姫は辱めを受けるのであった・・・

 高天ヶ原から強奪してきた金品や食料を地べたに投げ出した禍神どもは、さっそく勝利の宴を始めた。
 手下どもの前に立ったオニマガツは、意気揚々と勝利を述べる。
 「皆の者〜っ、我々はついに神々への復讐を成しえたっ。これこそ我らが禍神の大勝利と言えようっ!!今日は大いに呑んで騒いでヤリまくろう〜っ!!」
 それに応える手下どもの大歓声が闇の汚れた世界に響き渡った。
 ここに悪の祝宴は開始されたのである。
 まずは祝杯と、禍神たちは手にした酒を一気に煽る。そしてかっぱらってきたご馳走に喰らいついた。
 食欲を満たす禍神の目は獣のようにギラギラしており、底無しの欲望が伺える。
 かがり火に映し出される悪党どもの大きな影が揺らめき、その下では囚われてきた多くの巫女や侍女達が怯え震えていた。
 「ああ・・・わ、私たち、一体なにをされてしまうの・・・?」
 巫女も侍女も、男の欲望が如何なるものか全く知らない。自分達が如何なる目にあわされるのかも、知らない。
 ゆえに・・・恐怖も無限大に大きくなる。
 ここは悪しき者の本拠地・・・彼女達に逃れる術も、救いの希望もない・・・迫る悪夢に怯えるのみだ。
 その怯える彼女達の真ん中に、麗しき桜の姫君がいる・・・
 巫女も侍女も、姫君を悪党どもから守ろうと懸命だ。しかし・・・か弱き子女達は余りにも非力であり、狼の群れに囲まれた小羊達に等しい。
 そして食欲を満たし、酒をしこたま呑んだ禍神どもは、激しく興奮しながら子女達に目を向ける・・・
 そのギラギラした目・・・まさに飢えたケダモノだった。悪しき獣の欲望は尽きる事がない。
 「ぐへへ、メシは食ったし酒も飲んだし・・・次は女でお楽しみだあ〜。」
 ヨダレを垂らしながら迫る獣どもに怯え、巫女や侍女達は悲鳴を上げる。
 すると、オニマガツが指をチッチと振りながら手下どもを制した。
 「待て待て〜、お前達はせっかちだのお〜。速攻でヤッてしまっては面白くないだろ。ここには桜のお姫さまがいるのだぞ、神々どもを喜ばせたスバラシイ舞を、ワシらの前でも披露してもらおうじゃないか。」
 その声に、手下どもは頷く。
 「そうっすね〜。御大将の言う通りだ、桜のお姫さまに踊ってもらおう。お花見だ〜♪」
 騒ぎ立てる禍神ども。花見などと言ってるのだが、それは花を愛でる宴とは程遠い。
 欲望の視線が・・・ヨシノ姫に向けられた!!
 「聞いただろうが、お姫さまよおっ、早く前に出てきて踊れっ!!」
 問答無用の怒声が飛ぶ。しかし、姫君を守るべく、侍女のカレンとハルカが前に出てきた。
 「ぶ、無礼ですわよっ。こ、こ、この御方は聖桜母さまの直弟子にして、桜帝さまの皇女であらせられるヨシノ姫でありますわっ!!ヨシノ姫に対する非礼の数々、許し難き事ですよっ。」
 「そーですぅっ、姫さまに命令するなんて許せませんわっ。誰があんた達の言う事なんか聞くもんですかっ。」
 懸命に逆らうカレンとハルカ。その勇気に他の巫女や侍女達も応じる。
 「姫さまには指一本触れさせませんっ!!」
 そんな健気なる侍女達の行為を、オニマガツは一笑する。
 「ほ〜う、ずいぶんと忠実な侍女ではないか、健気過ぎて涙が出るわい。だがのお〜、か弱いお前達に何ができる。」
 オニマガツが目配せをすると、手下どもが一斉に侍女達に飛び掛かった。
 非力な侍女達は次々と引き離され、ヨシノ姫を守るはカレンとハルカだけとなった・・・
 「ひ、姫さま・・・どうかご安心を・・・私達が一命に代えましてもお、お守りい、た、いた・・・します・・・」
 「カレン・・・ハルカ・・・」
 なんとしても抵抗し続けようとするヨシノ姫達であったが、オニマガツの卑劣な罠が容赦なく襲いかかってくる。
 「逆らうのもそこまでだ、あれを見ろっ!!」
 オニマガツが指差す方向には・・・大勢の巫女や侍女達が人質にとられていた。
 少しでも逆らえば侍女達の命はないとの脅しに、ヨシノ姫は屈するしかなかった・・・
 「待ってくださいっ、舞を踊りますから・・・どうか女の子達には手出しをしないでください・・・」
 声を震わせて懇願する姫君に、オニマガツはニヤリと笑う。
 「よぉし、それじゃあ景気よく踊ってくれや。少しでも手を抜いたら承知せんぞっ!!」
 もはや逆らう事は一切できない・・・
 侍女を助けるべく、自身を生贄に差し出すヨシノ姫の優しき心に、侍女達は皆涙した・・・
 「ひ、ひめさまぁ・・・お許しください・・・」
 自分達のせいで姫君が危機に陥った・・・その悲しき苦悩を和らげようと、恐怖を堪えて侍女に微笑みかけるヨシノ姫。
 「気になさらないで、人々の安寧に尽くすのが姫君の勤めでありますから・・・」
 その優しさは崇高で尊い・・・ヨシノ姫こそ、万物に愛されるに相応しい姫君であろう。
 だが、その優しさを愚劣にも嘲笑う禍神ども。
 「優しい桜のお姫さま〜。早く踊れ〜、可愛く踊れ〜♪」
 囚われの巫女や侍女達の運命はヨシノ姫に委ねられている。
 もう選択の余地はない・・・
 苦悩の表情を浮かべながら、ヨシノ姫は桜の舞を踊り始める。
 カレンとハルカの2人も雅楽の調べを奏で、舞に応ずるが・・・しかし恐怖に支配された状態では舞にも雅楽にも身が入らない。手足はガクガク震え、まともな舞などできはしない。
 そんなヨシノ姫達に陰湿な野次が飛んだ。
 「おらおら〜っ!!チンタラやってンじゃねーぞっ!!」
 「ちゃんと踊れなきゃ、可愛い子ちゃん達がどーなっても知らねえぞ〜。」 
 いま一つ盛り上がらぬ宴に、オニマガツは目をギラリと光らせる。
 「普通の踊りじゃ満足できんなあ〜。お姫さまよお、裸で踊ってもらおうかい。」
 極悪非道の言葉で、ヨシノ姫は絶体絶命の境地に追い込まれた・・・


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