大和古伝、桜花姫ヨシノの物語
ムーンライズ
(4) 友達を呼ぶ女神の悲しき叫び・・・奪われた桜花姫
屋敷が次々と破壊され、逃げまどう侍女や巫女達が悪烈なる輩に連れさらわれる。
華やかな宴の場は、略奪と破壊の惨状が繰り広げられる悪夢の場に一変した。
オモイカネは倒れたアマテラスを庇いながら、暴虐を繰り広げる悪漢どもを睨んだ。
「うむむっ・・・おのれ禍神どもめっ。日蝕に乗じ、不意打ちで襲ってくるとは卑劣であるぞっ!!」
しかしその憤る声は、悪しき者にとって賛美の言葉にしかならない。
禍神の総大将が、大胆不敵に笑う。
「卑劣とは最高の褒め言葉だぞオイボレ〜。禍神に卑劣もへったくれもあるもんか、目的のためなら手段を選ばん、欲しい物はどんな手を使っても奪い取るのが禍神なのだぁ〜っ!!」
そして傍らの酒を一気飲みすると、獣の如く吠えた。
「今日こそは禍神の恐ろしさを思い知る事になるっ、禍神の総大将・・・オニマガツ様の恐ろしさをなあ〜っ!!」
総大将オニマガツの声と共に、手下の禍神どもが襲いかかる。
神々も応戦したが、虚を突かれ、武器も用意する間もなかった神々は即時退去を余儀なくされた。
「急ぎ神宮へ入るのじゃっ!!奴らは日蝕の間しか活動できん、日が戻るまで持ち堪えるのじゃっ。」
オモイカネの的確な指示で神々達は神宮に逃げ込んだ。
神宮は光を司る神の宮殿であり、闇の者がおいそれとは入り込めない聖域である。
神々を追った手下どもは、神宮に張られた結界に阻まれて大騒ぎをした。
「ゴルア〜ッ!!オノレらさっさと出てこんか〜いっ!!」
ギャアギャア喚く手下達を尻目に、オニマガツは門を守るオモイカネを睨みすえる。
「ちっ、小賢しい爺ィだ。年寄りの冷や水って言葉知らんのか?」
「フン、老いたりと言えど、うぬら如きに侮られはせぬぞっ。」
悪神を相手に一歩も退かぬオモイカネであったが、姑息なオニマガツは卑怯な笑いを浮かべる。
「ワシ達が入れんのなら、お前達も出て来れないってわけだ。太陽が出てくるまで好き勝手させてもらうぞ。」
神宮への突入を諦めたかに見えた禍神どもだったが、略奪の手は一切緩めなかった。
結界のない屋敷へ侵入し次々と金品を、そして若い女子達を強奪する。
「いやあーっ、たすけてええーっ!!」
轟く悲鳴と泣き叫ぶ声・・・そんな逃げ後れて手下に捕まった巫女や侍女達の中には、ヨシノ姫の侍女であるカレンとハルカもいたのだった!!
「・・・お、お願い・・・酷い事をなさらないで・・・」
「・・・こわいですぅ・・・」
怯える2人の声は、神宮内に避難していたヨシノ姫の耳にも届いたのだ・・・
「カレンッ、ハルカッ!?今助けに行きますわっ!!」
大切な侍女を助けるため、ヨシノ姫は走り出した・・・が、2人の侍女は結界の外にいるのだ。
血相を変えたオモイカネが叫ぶ。
「ま、待つのじゃヨシノ姫っ、結界の外に出てはいかーんっ!!」
だが・・・遅かった・・・結界の外に禍神が待ち構えていたのだ。
背中にコウモリの翼をもった悪鬼が、ヨシノ姫を抱えて飛び去った。
「け〜けけっ、桜のお姫さまを捕まえたぜ〜♪」
「いやあっ、誰か助けてぇ!!」
連れ去られたヨシノ姫を追って、オモイカネや神々が動いた。
「卑劣漢どもめっ、ヨシノ姫は渡さ・・・ふぎゅ!?」
いきなり、オモイカネを踏み越えて何者かが神宮から飛び出してきた。
それはヨシノ姫と友の契りを交わしたアマノウズメであった。
「待てぇっ!!ヨシノちゃんを返しなさーいっ!!」
懸命に走るアマノウズメであったが、それは余りにも無謀な行為だった。
相手は禍神達の群勢である、如何に女神と言えどヨシノ姫の奪還は無理と言えよう。
しかし・・・アマノウズメは諦めない。友達を救うため・・・単身群勢に挑んだ。
ヨシノ姫を抱えて飛ぶ悪鬼を引きずり下ろしてブン殴り、一旦はヨシノ姫を取り戻したアマノウズメであったが・・・すぐに大勢の禍神に囲まれてしまった。
「よ、ヨシノちゃんは渡さないわ・・・かかってきなさい!!」
ヨシノ姫を庇うアマノウズメの前に、邪悪なオニマガツが立ちはだかった。
「おうおう、なかなか威勢がいいじゃねえか。でもたった1人で何ができるってんだ女神ちゃんよお、ああ?」
女神の手から強引に姫君を奪い取るオニマガツ。またしてもヨシノ姫は悪の手に囚われてしまった・・・
懸命に逆らうアマノウズメであるが、群がる手下達に取り押さえられてしまう。
「ぐっへっへ、でっかいオッパイしてるじゃねーか。動くなよ女神ちゃん♪」
「や、やめてっ。離しなさいっ、どこ触ってるのよお!?」
押さえつけられたアマノウズメの目に、泣き叫ぶヨシノ姫の姿が映った。
「ウズメさああーんっ!!」
「ヨシノちゃああーんっ!!」
無情にも、引き離される2人。
暴虐は、全てを奪い尽くすまで続いた・・・
ヨシノ姫を戦利品としたオニマガツは、略奪が大方片付いた事を確認して手下どもに命令する。
「よおしっ、もうそろそろ日が出てくる時間だ。奪ったもんをまとめたら、とっととズラかれいっ。」
高笑いを残し、禍神どもは闇の中に消えて行く。
禍神が去った後、日蝕の終わりと共に日の光が戻り始めた。
だが光が戻った後に残されたのは・・・余りにも悲惨な状況だった。
神宮を除いたあらゆる場所が、略奪と破壊によってメチャクチャにされている。
日の光が復活した事で、ようやく力を取り戻したアマテラスが、ヨロヨロとした足どりで神宮から出てきた。
「お・・・オモイカネ・・・ヨシノ姫は・・・ヨシノ姫は大丈夫ですの?」
そのアマテラスの前で深く頭を下げるオモイカネは、悲痛な事実を告げるのだった。
「申し訳ありませんっ、ヨシノ姫が・・・禍神どもの手に堕ちました・・・このオモイカネ、一生の不覚にございますっ。」
「ああっ・・・なんということですの・・・」
酷く落胆し、地面に座り込むアマテラス。
そして禍神討伐に向った兵達は、踏みにじられた宴の場で、禍神に痛めつけられ、ボロボロ状態になっているアマノウズメを助け起こした。
「おいっ、ウズメちゃんしっかりしてっ。」
「・・・は、うう・・・ヨシノ・・・ちゃん・・・ヨシノちゃんを返して・・・ヨシノちゃああーんっ!!」
友達を呼ぶ悲しき女神の声が、闇へと虚しく吸い込まれて行った・・・
そして囚われたヨシノ姫は、恐ろしい辱めに苛まれる羽目となったのである・・・
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