大和古伝、桜花姫ヨシノの物語
ムーンライズ
(3) 桜花姫を狙う悪神ども・・・神の御国に罷り越す!!
春の光溢れる高天ヶ原を見上げ、闇に潜む者達が薄笑っている・・・
「ふふん。神々どもめ、ずいぶんと浮かれてるではないか、気に入らんぞ。」
妬みと恨みの籠もったセリフが薄気味悪く響き、それに呼応して矮小な雑魚もグチを言う。
「ほーんと、気に入らねえっすねぇ。俺たちがシケたとこで腐ってるってのに、あいつら美味い酒呑んでメシ食ってさあ。」
「け〜けけ、お、おれたちも花見ってのやりってよなあ〜。桜見ながらよお〜、カワイイねーちゃんと踊ってヤリまくってよお〜。」
その愚劣な言葉に品格などカケラもない。闇の者の目は薄汚れ、性根は腐り切っている・・・
ドロドロとした欲望が吹き溜まる、闇の場所に蠢く奴らの名は・・・
光ある高天ヶ原の神々とは対極に位置する悪の神・・・人は彼らを禍神(まがつかみ)と呼ぶ・・・!!
欲望のままに全てを喰らい、本能のままに悪行三昧を繰り返す禍神は、大和の国に災厄をもたらし、人々を困窮と混沌の地獄に陥れていた。
そんな悪しき者どもを、善を重んずる光の神々は許さない。
苦しめられた人々を救うため、太陽の女神アマテラスは禍神に天の裁きを下したのだ。
高天ヶ原の神々にまで楯突き、狼藉の限りを尽くしていた禍神達も、太陽の女神の敵ではなかった。
瞬く間に悪しき者どもは駆逐され、闇の彼方へと追放されたのだった。
一切の暴虐を封じられた禍神であったが・・・執念深い彼らは神々への恨みを募らせ、闇の中で復讐の時を待ち続けていたのである・・・
比類なき光の力を誇る神の国であったが、そこには決定的な弱点がある。
光の元である太陽の恵みを失えば、如何に神々と言えど無力となるのだ。
禍神は待っていた・・・暗い闇の底で待ち続けていた・・・
太陽の恵みが断たれるその時を!!
禍神どもは邪悪に笑う・・・奇しくも、禍神が狙っていたその時は、春の宴が高天ヶ原にて催される時であった。
「ぐっふっふ・・・この日が来るのをどれだけ待ち望んだか〜。神々どもよ、楽しく遊んでいられるのも今のうちだ。今までの借り、残らず返してくれるぞ・・・ぬははっ。」
禍神の総大将らしき者が、高台に上って手下どもに檄を飛ばす。
「皆の者っ!!今こそ我ら禍神の宿願が叶うときぞっ。積年の恨みを晴らすときぞっ!!襲撃の狼煙をあげろ、出陣じゃあ〜っ!!」
おおっと鬨の声をあげ、禍神どもは光に向って突き進む。
目指すは神々の国・・・狙うは・・・汚れなき姫君であった!!
神の国、高天ヶ原にて行われている春の宴は、今まさに最高潮を迎えていた。
3人の美しい女神達の舞により、花は大いに咲き誇り、喜びは極みに達していたのだった・・・
だが、余りにも大きな喜びは、時として恐ろしい災厄への危機感を緩ませる。
宴に酔い痴れる神々に、迫る危機を知る術はなかった・・・
そして、その時はついに訪れた!!
舞を終えたアマテラスが、不意に表情を曇らせて膝をつく。
「・・・うっ・・・く、苦しいですわ・・・」
苦悶に喘ぐアマテラスを見たヨシノ姫とアマノウズメが、慌てて駆け寄った。
「あ、アマテラスさまっ。如何なされましたか!?」
「・・・はあはあ・・・なにか・・・恐ろしい事が起きようとしています・・・わ、わらわの力が・・・奪われてゆきますわ・・・」
尋常ならざる事態に、周囲の神々も騒然とする。
事の重大さをいち早く察したオモイカネは、事態の原因を追求した。
「アマテラスさまの御力が失われようとしているとは一体・・・アマテラスさまの御力・・・太陽の力・・・太陽の・・・まさかっ。」
知恵の神の脳裏に、最も恐るべき凶事が浮かび上がった。
そして頭上に輝く太陽を指差して叫んだのだ。
「むむっ、皆の衆っ・・・あれを見るのじゃっ!!太陽が・・・太陽が欠けておるぞっ!!」
空を見上げた神々は驚愕の声をあげる・・・なんと・・・漆黒の影が太陽を覆い尽くそうとしているではないか!!
宴の歓声は、恐れ戦く神々の悲鳴と、泣き叫ぶ巫女達の声に変わった。
明るかった祝宴の場所を、徐々に暗黒が包み始める。
やがて・・・神の国高天ヶ原も、大和の国も・・・全て闇に覆われてしまった・・・
夜よりも暗き闇に閉ざされ、生きとし生ける者全てが恐怖に震えた。
一体何が起きたと言うのか・・・?
それは月の影が太陽を覆い尽くす現象、日蝕であった。
日の光が突如として失われるこの現象を、古来より人々は最悪の凶事として恐れていた。
そして・・・その最悪の凶事を、最も悦ぶ者どもが・・・大挙して押し寄せてきたのだ!!
ーーーひゃ〜っはっはっは〜、イ〜ッヒッヒ、ケ〜ッケッケ〜・・・
地の底から響く邪悪な笑い・・・
暗黒の中より現れたのは、醜悪なる面相を歪めて笑う禍神どもであった・・・
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