大和古伝、桜花姫ヨシノの物語

ムーンライズ


 
 (2) 春の宴に、女神達は美しく舞踊る・・・

 桜花姫ヨシノの舞によって、大和の国に春が訪れた。
 多くの人々が心待ちにしていた麗しの季節である。
 高天ヶ原から降り注ぐ桜花の光・・・それは桜の花のみならず、全ての草木を芽吹かせ花を咲かせた・・・
 人々は喜び、神を讃える祈りを捧げて春を祝した。
 そして神々もまた、春を呼ぶ桜花の姫君を褒めたたえ、称賛した。
 「ヨシノ姫、此度の舞は最高でしたぞ。そなたこそ春の姫君・・・いや、春を司る女神でありましょう。」
 神々による称賛ほど名誉ある事はないであろう。
 初めての舞で神々に讃えられたヨシノ姫は、喜びよりも戸惑いの表情で感謝の言葉を述べる。
 「あ、あの・・・恥ずかしいですわ女神だなんて・・・私は舞が初めてなのに、そんなに褒めて頂けるなんて・・・」
 モジモジと恥ずかしがる仕種も初々しいヨシノ姫に、男神達はすっかり萌え萌え状態。
 春満開の高天ヶ原であるが、男達の頭も桜色に染まっているのだった。(^^;)
 「ヨシノ姫ちゃ〜ん、ぼく達と一緒に踊ってくださーい♪」
 舞の相手を男神達に求められるヨシノ姫であったが、麗しの桜花姫として汚れなき桜の神殿で育まれた彼女は、舞の相手はおろか男と手を繋いだ事もなく、男性に対して全く免疫がない。
 しかし相手は神さまであるがゆえに断る事もできず、ヨシノ姫はすっかり困ってしまった。
 「え・・・あの・・・わたしその・・・殿方と踊った事はないですし・・・ええっと・・・」
 「そんな事言わないでぇ、踊ってちょうだい♪」
 しつこく迫る男神達にヨシノ姫が戸惑っているその時であった。
 高天ヶ原一の踊り手と称される美貌の女神が、ヨシノ姫をかばうべく推参した。
 「こらぁ!!ヨシノ姫が困ってるでしょっ?まったく男ってのは、どうしょうもないスケベなんだから。」
 肌も露な衣装を纏った女神の名は、アマノウズメ。
 彼女は、その美しき(全裸の)舞で天の岩戸からアマテラスを救い出すと言う大活躍(?)をした女神である。
 アマノウズメは、豊満な胸を揺らしてヨシノ姫に寄り添う。
 「ねえヨシノちゃん。こんな男どもなんかほっといて、私と一緒に踊りましょ♪」
 高天ヶ原一の踊り手から舞の相手を求められ、さらに戸惑ってしまうヨシノ姫であった。
 「こ、光栄ですわ・・・アマノウズメさまと踊れるなんて・・・でもあの・・・私はアマノウズメさまほど上手く踊れませんし・・・」
 固くなっているヨシノ姫を見て、声も高らかに笑ってしまうアマノウズメ。
 「あははっ。なぁに言ってるの、あなたの舞は最高よ。そ・れ・に、私の事はウズメって呼んでいいわよ。ウズメ様なんて堅苦しい事は言いっこなし。私達、友達になりましょう。」
 「は、はいっ。喜んでお友達になりますわっ。」
 豊満な胸同様に心豊かなアマノウズメに言われ、嬉しく喜ぶヨシノ姫であった。
 手を取り合う女神と姫君の間に、麗しい桜色の光が溢れる。それは友情の光、いや、愛情の光かもしれない・・・
 そんな2人にヤキモチを焼いた男神達は、悔しそうに騒いでいる。
 「ちょっと待った〜っ!!ウズメちゃんは女でしょーがっ。女同士で萌えてどーすんのっ!?」
 「女同士でもいーじゃないっ。むさ苦しい男衆は退いた退いた〜っ!!」
 ドッカ〜ンと男神達を蹴っ飛ばすアマノウズメ。(^^;)
 目を点にしているヨシノ姫の手を取ったアマノウズメは、優しい笑顔でヨシノ姫を(えすこーと)した。
 「さ、行きましょうヨシノちゃん。」
 「ええ、ご一緒しますわウズメさん・・・」
 そして、一緒に屋敷の外へ出る2人・・・

 表では春を祝う祝宴の真っ最中であった。
 神宮が建てられている丘に祝いの場が設けられ、神々は酒を酌み交わし、春の日を喜ぶ。
 宴の主催であるアマテラスは、祭りを楽しむ神々にご満悦であった。
 「皆さん大いに喜んでおりますね、此度の宴はヨシノ姫の活躍で盛り上がりましたし。」
 隣では、祝いの酒で出来上がっているオモイカネが、上機嫌に振る舞っていた。
 「いや〜、実に喜ばしい事でありまする。アマテラス様も今日は日頃の勤めを忘れて楽しまれませ。ささ、まずは一献♪」
 「しょうがないですわね。」
 酒を勧められ、杯を手にするアマテラスであったが、ふと・・・飲みかけた酒を傍らに起き、屋敷の方に目を向けた。
 そこには・・・アマノウズメに蹴り飛ばされた男神達が、屋敷の壁に大の字状態でメリ込んでいたのである。(笑)
 「まあ、あの男衆はどうなさったのでしょう。」
 「ヒック・・・う〜む、あれはきっとウズメちゃんにイタズラでもして蹴っ飛ばされたンでしょうなあ。ウズメちゃんの蹴りは凶悪ですからして。」
 「オモイカネも蹴られた事があるのですか?」
 「お尻を撫でて・・・あいやっ、そ、そんな事はございませ〜ん。(汗)」
 身に覚えがあるらしく、オモイカネは大いに焦ってる。
 そんな状況の中、祝いの花道をアマノウズメとヨシノ姫が手を取り合って歩んで行く。
 互いを見つめ合う2人の間には、美しい桜色の光が溢れていた。
 桜の木々に囲まれた祭壇に上がった2人は、多くの観衆が見守る中、春の舞を踊り始めた・・・
 官能的に踊る女神と、初々しさも麗しく舞う桜花の姫君に、神々は拍手喝采を送る。
 高天ヶ原が誇る女神と舞姫の供宴は、あらゆる者達の心を安らげる。アマテラスも立ち上がって2人の舞を称賛した。
 「すばらしいですわっ。あの2人こそ・・・人々に平和をもたらす舞姫と言えるでしょう。わらわも一緒に舞いますわ。」
 舞踊る2人を心より祝すべく、太陽の女神は自ら舞の舞台に立った。
 「おおっ、アマテラスさまも舞をご披露なされるぞ。」
 最高神直々の舞とあって、皆総立ちで喝采を送る。
 雅楽の奏者達が壮麗なる調べを奏で、多くの巫女や侍女達が一同に集い、手拍子も軽やかに唄を歌う。
 舞踊る3人の女神達を中心に、高天ヶ原は・・・いや、平穏なる大和の国は、春の喜びが広がっていく・・・
 暖かな桜色の光に包まれながら、ヨシノ姫は麗し微笑みを浮かべた。
 「アマテラスさま、ウズメさん、とっても楽しいですわ・・・うふふ♪」
 そんな桜花姫の麗しい笑顔に、アマテラスもアマノウズメも至福の想いに浸るのであった。
 「かぁわいい〜っ、ヨシノちゃん最高ですわね〜。」
 「・・・ええ、あの子の笑顔は世界を幸せにしますわ・・・」
 人々はヨシノ姫を讃え、その麗しの舞に喜ぶ。
 女神達は、光に集う数多の人々と共に喜びを分かち合い、幸せに舞う・・・

 春の良き日が平穏に過ぎて行く・・・
 皆、この良き日が永遠に続けばいいと思っていたが・・・

 だが、世界には平和と博愛を求める者ばかりがいるわけではない。
 平和よりも戦乱、博愛よりも欲望を求める者が・・・闇に潜んでいる。
 光ある地に、恐るべき闇の手が忍び寄ろうとしているのだ・・・!!


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