大和古伝、桜花姫ヨシノの物語 (ヨシノ姫とアマノウズメの外伝♪)

ムーンライズ


 
 (1) 可憐な桜花姫は夏も大活躍?

 春に桜の花を咲かせ、華やかな季節の訪れを促す大和の巫女姫・・・桜花姫ヨシノ。
 桜花の化身である彼女が活躍するのは春ですが、では春以外の季節にヨシノ姫は何をしているのでしょうか?
 美しく心優しいヨシノ姫は・・・春以外の時も、人々に幸せをもたらすために大活躍(?)しているのです♪


 大和の国は今、夏真っ盛り。
 とある山村では連日続く猛暑のために、畑の作物も山の木々も枯れる寸前にまで追い込まれていた。
 このままでは村は滅びてしまう・・・村人は深刻な危機に苦悩した。
 太古の人々は大自然の猛威に対向する術もなく、ひたすら神々に祈りを捧げて救いを求めていた。
 猛暑に苦しむ村人も然り。
 「尊き高天ヶ原の神々に、恐れ多くも御願い奉ります・・・夏の暑さに苦しむ我らを救い賜え。枯れた草木と作物に潤いをもたらしたまえ。」
 神官が玉串を掲げ、村人達が平伏して祈る前には、神を迎える祭壇が設けられている。
 切なる村人の願いを聞き届け、今・・・高天ヶ原より可憐なる姫君が降臨する!!

 ーーーシャン・・・シャン・・・シャン・・・

 涼やかな雅楽の音色が響くなか、両脇に侍女を従えて祭壇に現れた巫女姫は、麗しい仕種で名を名乗った。
 「私は桜の女神、聖桜母さまの直弟子にして桜花の姫君であるヨシノ。あなた方の願いを叶えるべく、この地に参じました。」
 その美しき姫君を、村人達は喜びと感動をもって迎えた。
 「おおっ、これはヨシノ姫様っ!!姫様の御降臨、心より歓迎いたしますっ。我らの村を、山を救ってくださいませっ。」
 平伏し、懸命に嘆願する村人達を前にして、うら若き姫君は驚きと戸惑いの表情を浮かべて尋ねた。
 「あ、あの皆さん・・・そ、そんなに頭を下げなくてもよろしいですわよ・・・それよりも、村の状況を教えて頂けますか?」
 ちょっぴり焦った顔も初々しいヨシノ姫。そのヨシノ姫の前に恭しく進み出た村長が、詳しい状況を説明する。
 「はい申し上げます。今年は夏になってから雨が降らず、池や川の水も干上がってしまい、山も田畑も壊滅寸前なのです。収穫の時期を前にして作物が採れなくなったとなれば・・・我らは生きてゆけませぬ。もはや姫様にお縋りするしか・・・」
 切迫した村人の有様に心打たれたヨシノ姫は、自身の全てを尽くしても村人達を救わねばと決意したのであった。
 「心配なさらないで。この私が・・・桜花姫ヨシノの名にかけて、あなた達を救ってみせましょうっ。」
 ヨシノ姫は心優しい・・・困った者を救う事が桜花姫の勤めであると考え、心を込めて救済に尽くすのだ。
 桜花姫の持つ能力は、その美しい姿と舞によって(華)を咲かせ(萌え)をもたらし、生きる者全てに活気を与える力である。
 だが、(華)と(萌え)の力だけでは暑さと乾きを克服する事はできない。
 両手を組んだヨシノ姫は、大空を見上げて祈った。
 「・・・天にまします八百万の神々よ、苦しむ村人の救済のため、非力なる我に力を授けたまえっ・・・風の精霊よ、獄炎の如き暑さを和らげたまえ。水の精霊よ、乾いた大地に潤いをもたらしたまえっ。」
 目を大きく開いたヨシノ姫が、凛と祭壇に立つと同時に、シャラン・・・と鈴の音が辺りに響き渡る。
 ヨシノ姫の傍らに控える年少の侍女ハルカが鈴の音で音頭をとると、もう1人の年配の侍女カレンが笛で舞の調べを奏でる。
 侍女達の奏でる調べに合わせ、桜花姫ヨシノは舞った・・・

 ・・・タン、タタン、タタタン、タン・・・♪

 その美しき舞・・・見事としか言い表せない、感嘆すべき舞であった・・・
 枯れた大地に恵みの水を注ぐかのような、活力ある足踏み。凄まじい猛暑を払うかのような、涼やかなる手さばき。
 活力あふれるヨシノ姫の夏の舞は、春の桜花の舞とは明らかに異なっていた。
 それは舞だけではない、ヨシノ姫の姿も春の様相とは異なっているのだ・・・

 ここで桜花姫の容姿について説明をせねばなるまい。
 桜花の化身である桜花姫は、春夏秋冬における桜の様相に大きく影響される。
 春・・・麗しの桜花が咲く季節には、萌える桜花の如き姿に・・・
 夏・・・深緑の葉が覆い繁る季節には、眩しい夏の如き輝ける姿に・・・
 秋・・・収穫の恵みがもたらされる季節には、サクランボのような甘〜い姿に・・・
 冬・・・寒さに耐え春に向けて蓄える季節には、母なる大地のように優しく慈悲深い姿に・・・

 夏の時期、ヨシノ姫の容姿は繁る深緑の若葉のような元気さに満ちていた。
 とくに大きな変化があるのは、ヨシノ姫の長い髪である。
 春、桜花咲く時期には麗しい桜色に染まるのに対して、夏の髪は深緑色に染まっているのだ。
 ※ちなみに、秋は紅葉の朱色。冬は雪の如き純白に髪が染まります☆(でもって、眉毛や陰・・・も・・・♪)
 今、村人達の前で踊るヨシノ姫は、まさに(夏仕様)であった。
 深い緑色に染まった長い髪は、瑞々しいまでに艶やかで、潤いの水が迸るかのように輝いていた。
 美しい舞は萌えをもたらし、生きる者に気力を与える。
 やがて、ヨシノ姫に萌えた神々と精霊の声が響いた・・・

 ーーー麗しきかなヨシノ姫・・・そなたの願いに、速やかに応じようぞっ・・・

 その声と共に、一陣の涼やかな風が吹き抜けた。それは灼熱の暑さを吹き飛ばし、村に心地よい涼しさをもたらしたのだ。
 やがて風は雲を呼び、上空より恵みの雨が降ってきた。
 降り注ぐ雨は乾いた大地に染み込み、枯れる寸前の木々や農作物を潤す。そしてヨシノ姫の癒しの力によって、草木が一斉に復活したのであった。
 猛暑から解放され、神々と姫君に恵みを与えられた生ある者は、溢れる至福に歓喜する。
 「おおお・・・雨だ・・・恵みの雨だっ。我々は助かった・・・助かったんだ〜っ!!」
 村人達は皆、手を取り合って喜びあった。そして自分達を救ってくれた桜花姫に感謝を述べるのだった。
 「ありがとうございますヨシノ姫さまっ。姫様のおかげで我らは救われました、ありがとうございますぅぅ〜。」
 何度も頭を下げる村人達に、すっかり恐縮してるヨシノ姫。
 「あ、いや・・・私のおかげじゃなくて・・・神々と精霊が皆さんを救ってくださったのですから、そのお〜(汗)。」
 何事にも謙虚なヨシノ姫は、自分の事よりも神々への敬意を尊重する。だが、その健気さが逆に彼女の人気を上昇させているわけであるが・・・(^o^)
 そんなヨシノ姫に、村人達が御恩返しをしたいと申し出る。
 「姫さまに感謝の意を込めまして、祝いの祭を催したいと存じます。どうか存分にお寛ぎくださいませ。」
 だが、そんな村人の好意を丁重に断るヨシノ姫だった。
 「ありがとうございますわ・・・でも、今年の猛暑で苦しむ人々は他にも大勢おられます。私はその方々の元へ早急に向かわねばなりませぬゆえ、御好意だけお受けいたしますわ・・・では皆さま、ご機嫌よう・・・」
 そう言い残し、侍女と共に去って行くヨシノ姫・・・
 春の華やかなる活躍とは異なる、桜花姫の地道なる活動・・・それを己の使命と想い、民のため休みなく尽くすヨシノ姫なのであった。
 空を駆ける飛空術で、次の村へと向うヨシノ姫の横顔を、年配の侍女のカレンが少し寂しそうに見つめている。
 「・・・姫さま、村で少しお休みなされても良かったのではありませんか?このところ寝る間もないほどお勤めをなされていますから。」
 それに応ずるかのように、年少の侍女ハルカも口をはさむ。
 「そーですぅ。姫さま働きすぎですぅ〜。」
 上空から村を見れば、名残惜しそうな表情の村人達が見える。それを見て残念そうに呟くハルカ。
 「あ〜あ、残念ですぅ。あの村でいっぱい御馳走食べさせてもらえたのにぃ〜。」
 そんなハルカの頭をポカリと叩くカレンであった。
 「こらハルカ、不謹慎ですわよ。姫さまだってお腹がすいてるの我慢なさってるんですからね。」
 「ふえ〜ん姫さま〜。カレン姐さまがイジメるですぅ〜。」
 甘えて背中に隠れてくるハルカを、笑顔で撫でるヨシノ姫。
 「はいはい。今日のお勤めが終わったら、桜宮でお腹いっぱいご飯食べさせてあげますから、それまで辛抱してね。」
 ニコニコ笑っているヨシノ姫であったが、主君が疲労を隠しているのを、2人の侍女は知っている。
 カレンとハルカは、ヨシノ姫に気付かれないよう目を合わせ、主君の苦労を案ずる。
 姫君とは言え、ヨシノ姫も一人の女の子である。たまには勤めを忘れて無邪気に遊びたいであろう・・・そう思わずにはいられないのであった・・・


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