大和古伝、桜花姫ヨシノの物語 (ヨシノ姫とアマノウズメの外伝♪)
ムーンライズ
(2) ヨシノ姫、聖桜母から休暇をもらう
その後もヨシノ姫は、様々な災害によって苦しむ人々の救済と、草木の蘇生のために奔走した。
このまま働き続ければ、うら若き姫君は疲労で倒れてしまうだろう・・・
人々はヨシノ姫を案じていたが、その中で最もヨシノ姫を心配していたのは、桜の女神である聖桜母であった。
ヨシノ姫が、その聖桜母から呼び出しを受けたのは、残暑も厳しい夏の夜である・・・
一日の勤めを終えて桜宮に戻ったヨシノ姫は、真っ直ぐ聖桜母の待つ桜帝の間に赴いた。
「失礼します、お呼びでしょうか聖桜母さま。」
桜帝の間には、ふくよかな体型の女神が待っていた。この女神こそ桜の女帝、聖桜母である。
聖桜母はヨシノ姫の姿を見るなり、不安と安堵の入り交じった表情でヨシノ姫に走り寄った。
「おお、ヨシノや。今日は本当に疲れたでしょう、ささ、ここにお座りなさい。立っていたら疲れが取れませんわよ。」
「え、あの・・・お気遣いありがとうございます・・・わ、私は大丈夫ですわ。全然疲れておりませんので・・・」
「なにを遠慮しているのです、若いからと言って身体を粗末にすれば、後で大変な事になりますからね。あなたが勤めの途中で倒れたりはしないかと心配で心配で、夜も眠れませんでしたわ・・・」
そう言ってヨシノ姫を抱きしめる聖桜母。
聖桜母とヨシノ姫は実の母娘ではないが、子供に恵まれなかった聖桜母は、ヨシノ姫を自分の後継者として引き取り、実の娘以上に愛情を注いで育ててきた。
愛しいゆえに、日々勤めに奔走するヨシノ姫が心配でならなかったのだ。
ヨシノ姫もまた、聖桜母を実の母のように慕っており、聖桜母に心配かけまいと笑顔を見せるのであった。
「うれしいです聖桜母さま。私の事を、こんなに心配してくださって・・・」
笑顔のヨシノ姫の気持ちを、聖桜母は痛いほど理解していた。自分も若き日には、先代の聖桜母や人々の心配を受けるなか、桜花姫としての勤めに奔走していた頃があった・・・
「私も桜花姫だった頃、若さに任せて無茶な勤めを続けていましたのよ。それで身体を壊して先代さまに心配をかけてしまって・・・ですからヨシノ、あなたにしばらく休暇をあげましょう。たまには姫君である事も忘れて、存分に遊んでらっしゃいな。」
「えっ、お休みですか?では・・・今期分のお勤めが済みましたら休暇を頂きますわ。」
「なぁにを言ってるのです、休暇は明日からですわよ。すでに海辺の保養地に休暇用の屋敷を用意しましたし、カレンとハルカも連れて行って来なさい。」
突然の事に目を丸くしてしまうヨシノ姫。
「ええ〜っ!?あ、明日ですか?あ、あの〜、着替えとか色々・・・ええっと・・・ど、どんな衣装を持っていけばよろしいのでしょーか?」
連日休みなく勤めていたので、急な休暇に何をすれば良いかわからなくなってるヨシノ姫であった・・・(^^;)
次の日の早朝、休みの雰囲気もうれしさもままならぬ状態で、ヨシノ姫は保養地に向って行った。
その道中は、いかにも(お姫さまの御旅行)と言うべき?ものであった。
保養地までの旅は大層な神輿に乗っての事で、しかも神輿の担ぎ手も護衛の兵士も全員、女である。
護衛の兵士まで女にしたのは、(無粋な男をヨシノ姫に近づけたくない。)とゆう聖桜母の思惑があっての事だが、この兵士達を女と侮るなかれ。いずれも鬼の首をヘシ折るが如き、豪腕の女傑ぞろいである。
その兵士達をまとめる女武将が、自信満々と言った顔でヨシノ姫に声をかける。
「姫さま、休暇の合間はこの私、タケノタツメが護衛を勤めさせて頂きます。如何なる不逞の輩が来ようとも、姫さまの御身には指一本触れさせませぬゆえ、どうか御安心してお過ごしくださいませ。」
胸をドンと叩いて豪快に笑う美貌の女戦士、猛之竜女(タケノタツメ)。その鎧を纏った逞しい身体には、歴戦の闘いでついたであろう無数の傷跡が刻まれており、頼もしい勇猛さが全身から漲っていた。
ヨシノ姫もカレンとハルカも、女戦士の護衛を心強く思っている。
「良かったですわね姫さま。あんなに強そうな女性が守ってくれるんですから。」
「ええ。まるでスサノオさまみたいに、頼りがいがある方ですわ。」
ヨシノ姫は、かつて自分を救ってくれた心優しき闘神のスサノオを思い浮かべていた。
勇ましいタケノタツメに任せておけば、何者が襲って来ようと案ずるに至らない・・・そう思っていたヨシノ姫だったが、ふと・・・保養地がどんな場所かと思い、それをタケノタツメに尋ねた。
「・・・あの、タケノタツメさん。」
「何でしょうか?私の事はタツメと仰ってよろしいですわ。」
「ええっと、じゃあタツメさん。これから向う所まで、あとどれぐらいかかりますの?聖桜母さまからどんな所か聞いてませんでしたから・・・」
するとタケノタツメは、懐から地図を取り出し、余裕の表情で説明する。
「保養地には今日のお昼前に到着できます。場所は高天ヶ原の神々も御静養でお越しになられる、風光明媚な海辺ですわよ。神聖なる海辺で、護衛に守られて優雅に過ごす・・・これぞ姫君の休暇に相応しいかと、のっほっほ♪」
呑気にそう言っているタケノタツメを見て、なにやら急に不審な表情になるヨシノ姫。
「風光明媚なのは良いんですけど・・・その地図、上下逆になってるよーな気がしますわ。」
「何を仰います、御心配には及びません、って・・・あら?上下逆?」
なんと・・・タケノタツメは、地図をひっくり返した状態で見ていたのだった。(笑)
ものすっごいオマヌケな事をしていた女戦士に、全員の白〜い視線が集中する。
「え、ええ〜っと(大汗)。総員回れ右〜っ、目的地まで駆け足〜っ!!」
優雅なる姫君の御旅行が、ドタバタ珍道中となってしまった。これにはヨシノ姫達もあきれ顔。
「姫さまぁ〜。タツメさんってば、ノーミソまで筋肉でできてると思うですぅ〜。」
「わ、私もそー思いますわ。な、なんか心配になってきましたわ〜。(汗)」
タケノタツメの(超ドジ)により、保養地への到着が大幅に遅れそうになったが・・・ヨシノ姫に迷惑をかけてはならぬと、神輿の担ぎ手は大爆走する。
「全速前進〜っ!!なぁんとしても午前中に到着しますわよおお〜っ!!」
物凄い形相のタケノタツメが、兵士や担ぎ手達に檄を飛ばす。
土煙をあげ、疾風の如く走り去る有様に、道行く旅人や森の動物までビックリ仰天。
担ぎ手がメチャクチャな勢いで走るものだから、神輿の中のヨシノ姫達は、縦に横に揺られて目を回している。
「あ、あ、あうあう。ちょちょっと・・・ゆ、ゆ、ゆっくり走ってくださいませえええ。」
「ひ〜ん、気持ち悪いですううう〜。(ToT)」
「は、ハルカ〜ッ、は、吐いちゃだ、だめで・・・あうう〜。」
そんな優雅な旅行とは言い難いドタバタ珍道中も、目的地への到着と共に終了する。
「ヨシノ姫さま〜っ!!やっと到着しましたわよおお〜っ!!」
タケノタツメの素っ頓狂な声と共に、一行は急停車した。
やっと揺れが収まり、神輿の簾を恐る恐る上げて顔を出すヨシノ姫に、タケノタツメが青息吐息で声をかける。
「はあはあ〜、ぜぇぜぇ〜。ひ、ひめさま〜。こ、ここが目的の保養地で、あ、あ、りまするううう〜。」 (ばたん、きゅ〜。)
ひっくりコケたタケノタツメ同様に、女兵士達も担ぎ手も全員、目を×印にしてノビてしまった。
「ふぇえええ〜、も、もう、ぜんぜん動けませ〜ん。(x_x)」
鬼をも一捻りする頼もしい女傑達も、神輿を担いで全力疾走したのはさすがに堪えたようだ。
神輿から降りたヨシノ姫達は、申し訳なさそうにタケノタツメ達を見ている。
「・・・た、タツメさん、大丈夫かしら〜。」
「これじゃあ、護衛をしてもらうのはしばらく無理ですね。」
「早く起きてもらわないと困るですぅ〜。」
そんな困惑しているヨシノ姫の前に、大勢の侍女達が現れた。
「お待ちしておりましたヨシノ姫さま。私達は聖桜母さまより、姫さまのお世話を仰せつかっております。これより御屋敷にご案内致しますので、こちらへどうぞ・・・」
丁重な歓迎を受け、屋敷へと導かれるヨシノ姫達。
ドタバタ珍道中で困惑していたヨシノ姫であったが、ようやく落ち着きを取り戻して周囲を見回す。
行く先には黒く逞しい松の大木が林立しており、姫君の来訪を祝すかのように枝葉を揺らしている。
松林の向こうからは、潮風に乗って爽やかな波の音が響いて来る。
そして川や湖とは異なる、雄大な潮の香りに包まれたヨシノ姫は、戸惑いを浮かべて呟いた。
「・・・これが・・・海の匂い・・・」
ヨシノ姫が戸惑うのも無理はなかった。山育ちの彼女は、一度も海を見た事がないのだ。
やがて、松林の合間から眩しい光が迸り、真っ白に輝く砂浜と、蒼く美しい海がヨシノ姫の目に飛び込んできた。
その美しく雄大なる海は・・・純真無垢な姫君の心に、大いなる喜びと感動をもたらしたのだった・・・
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