『騎士で武士な僕と皇女様005』(14)
小さい人間
旧マーシア公都に着くやいなや軍議が開かれた。
議題は進軍を開始したヨーク軍の目標と、それに対する今後の行動方針であった。
今までの軍議とは違って、この場には皇女様が参加している。
バラッハ子爵領を略奪し尽くしてきたジェオフリー将軍も戻ってきていた。
「……敵の目標は、この旧マーシア公都でしょう」
僕がそう言うと、向かい側にいたロビン伯爵が口を開いた。
「奴ら、この短時間で兵站を整えたのか……だったら、防衛戦しかねえな」
ロビン伯爵の言葉に、ほぼ全員が首肯する。公都内には食糧も武具もそろっていたし、何より、城跡で囲まれた都市を攻略するのには通常三倍の兵力がいる。まともに考えればここは旧公都にこもるのが最上の策に思えた。
「……そしたら多分、奴ら旧公都周辺を荒らしまわるぞ」
意義を唱えたのは意外にもこれまで沈黙を図っていたジェオフリー将軍だった。
ジェオフリーは片足でトントンと床を落ち着かないのか踏みしめながら意見を続けた。
「俺だったら、少なくともそうするね。軍団も維持できる日数が増えるし、何もしない支配者への支持はなくなる。 今度は旧公都にいる俺達が孤立しちまう」
一同、言葉がなかった。
僕はその戦術に聞き覚えがあった。日本の戦国時代、後詰めの計と呼ばれ、立てこもる敵君主をおびき寄せるため、支城に攻撃をかけるのだ。後詰め、すなわち、援軍をよこさない君主に部下は従わない。よって国は滅びる。
これは国民国家の様に兵士が国家への忠誠心で動く国へは通じないが……ここは封建制社会の国である。
「と……なりますと、我々は打って出て戦うことになりますな」
ふと、会戦の二文字が頭をよぎった。
実際に戦うとなれば、アングリア軍の歩兵は一万一千、マーシアで帰依させた部隊が二千ばかりいたが、それでもヨークの重兵二万二千にはかなわない。
その事実は、この軍議に参加する全ての物が熟知していた。
「ふむ……ではどうするのじゃ?」
一段高い椅子にもたれかかっていた皇女様が口を開いた。
「お主……何か申せ」
顎でしゃくって僕に発言を求めた。
「……やるしかないでしょう。 野戦となると不利ではありますが……勝算が無くもありません」
その言葉に反応したのは実戦経験豊富なロビン伯爵だった。
「馬鹿な……『黒髪の騎士』殿! ヨーク軍は歴戦の傭兵を中心に成り立っている。マーシアの腰ぬけ共とは違うぞ?」
「……わが方の有利を生かします。 機動力です」
そうして僕は、頭の中に出来上がった古代の名将がとった一つの戦術を、僕風にアレンジしたものを披露した。地図を中心に集まった男たちはその見事さに声を漏らし、壇上にいる皇女様は満足そうな表情を終始崩さなかった。
………。
…………。
「……お主……」
皇女様と僕は、皇女様のために用意された部屋に二人、明日の出陣を控え、二人でいた。
「……解っているだろうな?」
熱みを帯びた皇女様の御顔が、僕のすぐそばにあった。
「今夜は……寝かせんぞ」
そう言うと、徐に僕の唇を奪う。
深く、熱い口づけに、頭の中がトロリとしてくるのが解った。
「んん……んぱぁ……」
ヌメっとした糸ができた……。
皇女様は赤らめた顔を放し、後ろから何かを取り出した。
「主……服を脱いで後ろを向け!」
「……はい」
僕は力なく肯く。
正直、僕は若干疲れていた。強行軍に次ぐ強行軍、連戦に次ぐ連戦、そして初めて生きた人を殺めた、あの嫌な感触……。
しかし、戦争が始まるまで僕は毎日のように皇女様と交わっていた。
皇女様の騎士である以上、何より、心は武士である以上、他の女性に手を出すわけにもいかない僕は、ずっと禁欲を強いられていた。
「なんじゃ、お主の物、脱いだだけでパンパンじゃな……どうやら、余以外の女子には手を出しておらんようじゃ……感心したぞ」
そう言って、皇女様は僕の腰に両手を回した。
「へ? こっ皇女様!?」
僕が抵抗しようとすると、皇女様は僕の後ろから抱きつき、僕の物を掴んだ。
「まったく……いくら仕事が忙しかったからって読者と私を散々待たせおって……お主」
そう言いつつ、妖艶な吐息を僕の耳にかける。
「覚悟は……出来ておろうな?」
と呟いた……。
「次回分……いやその次回分に亘って攻めてやる! 日の昇るころまでくたばれると思うなよ!!」
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