第一機動部隊(1)
kinshisho
オランの隣国に位置する大国、グランディア。そこは今、熱気に包まれていた。そう、1年後に新国王の即位を控え、その前には更にオルフェ王太子と隣国オランから嫁いでくるオーロラ姫との結婚が2ヵ月後に迫っていたのだ。これだけ国家レベルの祝い事が重なって熱狂するなというのが無理というものである。
しかし、その祝い事の主人公であるオルフェの表情は物憂げであった。隣国とはいっても海を隔てているため嫁ぐには船に乗らなければならない。海を行くということは、難破する危険もあるし、最悪の場合オーロラ姫は船と運命を共に……それだけならまだしも、あそこは海賊が頻繁に出没する危険海域なのである。彼らの拠点がシアン湾にあることは既に判明していた。
だが、水深が浅く幾つもの岩礁があるせいで並みの軍艦では操鑑は困難。いくら軍艦でも地の利が彼らにある以上攻撃を受ければ各個撃破されるのがオチだ。事実、他国からも海賊討伐のため幾度となく大艦隊を送っていたのだが全て返り討ちに遭っていた。言わば寡を以って衆を制することのできる場所なのである。
しかし、大海では海軍のほうに軍配が上がる。こうした条件が重なって、艦隊が遊弋している限りは海の安全が辛うじて保たれているのだった。グランディアでは他国とも相互条約を結んでおり、ローテーションを組んで安全を図っていた。
だが、これは少数の海賊のために多くの艦隊が拘束されることを意味し、当然のことながら国家予算を圧迫していた。大国だから問題ないようなものの、こうした状況が望ましい筈もなかった。
オルフェの悩みは深かった。。海賊は何とかしなければならないし、経済を圧迫する事態がいつまでも続くことにも終止符を打たねば国王となってからの自分の立場も危うい。しかし、どうすることもできないのが現状であった。
力なくダイニングに向かうオルフェ。エンジ色の波紋染めシルクとカエデ材を使った豪華絢爛な宮殿自慢の一室。既にテーブルには白絹のテーブルクロスがかけられセッティングが整えられている。向かい合わせになっている奥の椅子には既にファミーユ姫が座って待っていた。最近、ファミーユ姫は交友関係である皇国の飛鳥姫からプレゼントされた大臣服姿でいることがあり、よほど気に入っているのだろう、今日もその格好である。
コンチネンタルスタイル(控えめな洋朝食)の食事を早目に済ませると、妹のファミーユ姫と会話を交わすこともなくそそくさと自室に戻った。何か味に違和感があるような気がしたが、そんなことに構ってはいられなかった。
「お兄様、何でそんなに無愛想なの?」
普段は会話をしながらゆっくりと食事が進むのでファミーユ姫は不満である。しかし、二つも大きな国家行事を控えていてはこんなこともあるかと敢えてそれ以上は言わないことにした。今日は休日だし、自室に篭りたいことだってあるだろう。ファミーユ姫もそれがわかる年頃になっていた。末っ子だからといっていつまでも我侭ばかり言ってもいられなかった。大人になるとはそういうことなのだ。
自室に戻ったオルフェは、扉に鍵を掛けるとマホガニーで作られた重厚な本棚を左右に寄せる。すると、そこに隠し扉が現れた。そう、本棚の奥に隠し部屋があるのだ。
そこは通常の鍵はない。特殊な構造で、ダイヤルを合わせないと開かない。
ダイヤルを慎重に回していくと、微かな金属音がして鍵が開いたことを知らせる。誰も見ていないにも関わらず、周辺を確認しながらゆっくりと扉を開ける。そこから先は階段が続いているだけで何も見えない。オルフェはランプの灯りを頼りにゆっくりと降りていく。階段の終わりに再び頑丈そうな扉。ここもダイヤル式である。慎重にダイヤルを回すと、微かな金属音とともに鍵が解除される。最後の扉を重々しそうに開くとその先には、旧世界に属するグランディアに似つかわしくない物が鎮座していた。
木板が貼り付けられただけの簡素な部屋で一際異彩を放つ配線が複雑に張り巡らされた無機質な質感の箱。見る人が見たらそう見えるだろう。しかし、これは新世界の人が見たら余程の無知でない限りこう答えるだろう。
無線機と。
オルフェは革張りに鋲打ちの簡素な椅子に腰掛けると、スイッチを入れて対応表を見ながらダイヤルで周波数を調整しタイプを打ち始める。
先ず無線機の傍らに貼られているコード表を見ながら対応している初期コードを打つ。しばらくすると、確認したことを意味する初期コードと同じ文字が帰ってきた。これが通信可能となったことを示すものである。送受信の初期コードが一致していないと正しく解読されない。次に、特定の個人コードと国家コードを二回続けて打つ。発信者が誰なのかを報せるのである。すると、今度は違うコードで返信が送られた。そして、ある変換機に接続。これで漸く依頼内容を送ることができるのだ。
そこから、オルフェは時間が切迫しているとばかりに急いで依頼内容をタイプで打った。
詳しく説明すると、この無線機はただの無線機ではない。言わば暗号式通信機である。タイプで打たれた文章は途中の無限乱数変換機で暗号へと変換され、次に送信機でアナログ信号からデジタル信号に変換されて電波となって飛んでいく。当時、無限乱数方式を使っている上デジタル信号に変換されたこの暗号を解読することは不可能だった。それでも交信を頻繁に行なっていると、どうしても特定のパターンというものが出てくることが避けられない。このパターンを掴むことで、ある程度の内容を類推することができるため、極めて重要度の高い情報は、暗号を更に隠語に置き換えることが多い。『ニイタカヤマノボレ』や、『トラトラトラ』がその典型である。
因みに無線機のある部屋は外から見ると側に川が流れていて傍らに水車小屋があるだけであった。この中にアンテナ類が全て隠され、その水車小屋は城の最奥にあるため近付く者はまずいない。それに、ここでは水車小屋などありふれた存在であり、わざわざ注意して見る者など誰もいない。水車小屋の地下に無線室はあり、万が一の時はここから脱出できる。水車はダイナモとバッテリーに直結しており、電源も不要だった。
この無線室の場所と入るため、通信のためのコードを知るのはオルフェのみである。無線機は皇国が友好関係にある旧世界の国々との連絡手段として贈ったものである。旧世界の場合は魔導師を使っての遠距離通信も可能だが、この方法だと新世界とのやり取りがかなり面倒になる。
通信内容は以下の通りである。
“発信国 グランディア王国 発信者 オルフェ・ド・グランディア 宛 日本皇国皇帝陛下 今上 将臣”
親愛なる皇帝陛下、私はオラン公国の姫君、オーロラとの結婚を2ヵ月後に控えております。しかし、そのためには海賊の遊弋する危険海域を渡らねばなりません。我々も八方手を尽くしているのですが、相手は神出鬼没の上拠点も近付くのが困難な場所にあり、最早どうすることもできません。それに、周辺国も彼らのせいで経済的圧迫が日に日に強まっており、このままでは日干しです。どうか、周辺国のためにも、そして我が妻オーロラを守るため、貴国の海軍力による御力添えを。
この文章を発信し終えた時、オルフェは安堵にも似た溜息を吐いた。そして、薄暗い部屋で独白する。
「これできっと、オーロラは、我が妻は救われる……」
オルフェは確信していた。同時に、新世界の海軍がどれ程の実力を持っているのか気になっていた。以前大使として来日したときも瑞穂姫に謁見はしたが結局全貌はわからずじまい。
噂では船から鉄の鳥を飛ばして攻撃するとのことだが、一体どうやって?それ以上はさすがに想像できなかった。グランディアにも魔法を用いて空を飛ぶ者がごく少数いるが、威嚇効果がせいぜいで、鉄の鳥ほど強力ではない。だが、あの富嶽という巨大な鉄の鳥を飛ばすくらいだから、かなり期待はできると思った。
最後に、変換機との接続を解除し、初期状態に戻すと、何事もなかったかのようにその場を後にした。
無線室から自室に戻ると、扉を忙しなく叩く音が聞こえる。音のパターンからしてファミーユ姫しかいない。まったく、と呆れつつもオルフェは扉を開けた。すると、脱兎の如く飛び出してオルフェに抱っこをねだる幼児の如く抱きつき腕を首に回す。
「お兄さま、どうしたというの?ここのところ元気がないから心配で心配で……」
いくらお転婆我侭お姫様といっても、やはりファミーユ姫も芯は繊細な心の持主。無視されれば傷つくし、自分の兄が元気がなければ心配するのは当然の行動である。
「おいおい。誰だってそんなことくらいあるさ。ファミーユだって元気をなくすようなことの一つや二つはあるだろ」
「ううん。でも、最近のお兄さまはおかしい。絶対変よ」
オルフェを見つめるその穢れない瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。明らかに内心を見透かしている瞳。その純粋さは謁見したことのある飛鳥姫とも一脈通じるものがあった。オルフェも女性の内心を見透かす勘の鋭さについて認識はあったもののまさかこれほどとは思っておらず苦笑いするしかなかった。
「わかった。全て話すよ」
結局オルフェが根負けした形で何故今までつれない態度を取っていたのかとうとうと語り始めた。1年以内に二つの大きな国家行事を抱えプレッシャーで一杯なこと、そして、何よりも妻となるオーロラ姫が海賊に襲われる可能性があり何としても排除せねばならないのだが思うに任せないことを。
「あ、あのオーロラお姉様が?!」
そう聞いて余計涙ぐむファミーユ姫。あの優しいお姉様が、海賊に……。まだ性的な知識は僅かしか持合わせていなかったが、それでも女としての本能はオーロラ姫がどのような目に遭うかを容易に想像させる。そのおぞましい光景にますます涙が止まらなくなる。そんなファミーユ姫をオルフェは優しく抱き締める。
「だからこそ、僕はさるやんごとなき御方に依頼した。本来なら我々だけで始末をつけねばならぬことだが、こんな時に大国の面子を持ち出しているわけにはいかない」
そう聞いて、ファミーユ姫の顔が灯りを点したように明るくなる。そのやんごとなき御方といえば、彼女たちがすぐに思い浮かぶ。
「もしかして、それって、あの皇国のお姫様たち?!」
「ああ」
皇国のお姫様……それは、お姫様でありながら各軍の最高司令官を務めるあの日本皇国の姫君のことである。オルフェもやはり彼女たちには最初は驚きを隠せなかった。お姫様でありながら軍服に身を包み、最前線で自らの危険も顧みず戦う。ドレスに身を包み、か弱く守られる存在という通常のお姫様とは明らかに一線を画していた。
「ねえ、私も実は不安なの。お兄さまがオーロラお姉様に取られたら、お兄さまは私のこと、もう相手にしてくれなくなるかもって」
「そんなことはないさ。僕が結婚しても、ファミーユは大事な妹には変わりない」
それはオルフェの偽らざる想いだった。いや寧ろ兄妹でなければファミーユ姫を選んでいたかもしれない。オーロラ姫を我が妻にと選んだのは、その似たような容姿にファミーユ姫を無意識に感じていたからかもしれなかった。
「私が大事な妹というなら、もっと可愛がって欲しいの……」
「今更何を言っている。今だってこうやって可愛がっているじゃないか」
だが、ファミーユ姫はそんなこととは違うとばかりに首を激しく横に振る。その時、長く美しいブロンドも合わせるように左右に靡いて少女特有の甘い匂いが拡がりオルフェの鼻腔を刺激する。
「お、おい、何をしているんだ」
狼狽するオルフェ。しかし、そんなことにはお構いなくファミーユ姫はオルフェを見つめながら徐に大臣服を脱いでいく。一枚、そしてまた一枚と、衣擦れの音と床に舞い落ちる音が交互に響き渡る。全てを脱いだ時、通常ドレスの下に纏うのとは明らかに異なる下着が露わとなった。上こそ淡いピンクのフリルで縁取られ、繊細なレースが縫込まれた純白のビスチェだが、下はドロワーズではなく最小限度の範囲しか隠しておらず、股間部以外は全て不要とばかりに布地がギリギリまでカットされている。サイドはヒモで結んでいた。ビスチェと同じく繊細なレースがふんだんに使われている。
実は新世界で用いられている女性用下着なのだが、通常ドレスの下に履くドロワーズだと身体にぴったりするように作られた皇国の正装ではスカートがモコモコして見苦しくなってしまう。このため下着を目立たなくさせた結果必然的にこうなるのである。
一歩間違えると一瞬下半身スッポンポンのように見えてしまう、まるで小悪魔のような印象を与えるファミーユ姫に、オルフェは否応なく反応するのだった。妹であるにも関わらず反応する自分を諫めようとするほど、妹であることを意識すればするほど、反って反応してしまう。
「ねえ、どう?お兄さま。私を、抱いて……私に、兄妹であることの証を刻み付けて……兄妹だった頃の思い出を刻み付けて欲しいの……」
先程の純粋さはそこにはなく、脇を見せるセクシーポーズで兄を誘う小悪魔なファミーユ姫。しかも息遣いが荒い。ファミーユ姫の顔がほんのり紅く染まっている。
「ファミーユ、いい加減にしろ。一体何処でそんなことを覚えたんだ」
言っていることとは裏腹に反応してしまうオルフェ。男の悲しい性である。この時ファミーユ姫は下着にムスク系の香水を染込ませておりそれが余計にオルフェを刺激していた。
「お兄さま、私のこと、嫌い?」
潤んだ流し目でオルフェを見つめながら、わざとビスチェに包まれた膨らみを押し付けるファミーユ姫。この時パンティーの内側は薄らと水気を帯びていた。まるで男を誘うような仕種。それはあの有璃紗姫が、POPTEENなどの女の子向けのハードコア雑誌を掴ませて入知恵したものだった。
おかしい。ここでオルフェは違和感を覚えた。いくら年頃とはいえ、潜在的に慕っているとはいえ、妹に欲情するなど異常すぎる。しかし、自らの意思に反して湧き上がる欲情に抗うのにも限界が近付いていた。
「ねえ、お兄さま。私のこと、好き?実はねえ、今日の朝食に、有璃紗姫からもらったバイ○グラとグレートS○]とかいう薬を混入したの。私も今、同じ物を飲んで、お兄さまを好きで好きで堪らないの」
因みにこれをあげた有璃紗姫は、好きな人と一緒にいたいときに、相手に飲ませて自分も飲むのですよと教えただけだった。
今から数ヶ月ほど前、グランディア王国で開催された舞踏会に出席した有璃紗姫。ドレスではなく軍の最高司令官の正装で臨んだ彼女は当然注目の的であった。新世界の姫君を一目見ようとこの舞踏会に出席した者も少なくなかった。この時は他に飛鳥姫も参加している。
その出で立ちは一方で賛否両論の渦でもあった。その凛々しい姿が美しさを一層引き立てていると賞賛する者がいる一方、やはり姫君はロングドレスに限る、或いはロングスカートとはいえ僅かながら脚が露出しているのはけしからんという声もあった。また、歴戦の司令官としての証である数々の煌びやかな勲章を纏っていることに対してまるで君主のようだ、けしからん、女が戦場にでしゃばるなどとんでもないと批判する保守的な貴族まで様々。
ただ、確実に言えることは、旧世界では考えられないほど自由闊達な姫君という印象を受けた点では共通していた。
舞踏会が終わった後の静かな夜。その時ファミーユ姫のたっての希望で同室となったのだが、新世界に興味津々のファミーユ姫に有璃紗姫は様々なものを見せた。その中でも特にカラフルな書物に興味を持った。
「有璃紗姫、それ、見せてくれます?」
オーロラ姫と違い書物にはあまり興味を持たないファミーユ姫だが、有璃紗姫から渡されたそれを夢中になって読む。絵がコマ割りになっていて、吹きだしにセリフが入っている。ただ、どちらかというと絵でストーリーを見せるタイプの本だった。
「わあ、これ面白〜い。これなら夢中になって読めそう」
ファミーユ姫はすっかり気に入ったようだ。
「これは漫画といって本来は子供のために作られた挿絵付の児童書が起源なのですが、今ではそれが大きく進化して大人が読むに堪えるものも少なくないんですよ」
「そうなんだ。でも、こんな面白いものに大人も子供もないと思うけど」
ファイーユ姫は、これが子供向けと言われて?顔である。因みにファミーユ姫が今読んでいるのは元々小説として発表されていた童話を漫画に描き起したものである。そして、ここで有璃紗姫はイタズラ心を起こす。
「ねえ、ファミーユ姫。実は、これよりも更に面白い本もあるのですよ」
有璃紗姫はそう言ってある本を薦める。その本は厚みが薄く、先程読んだ本と比べ印刷が数段グレードアップしているのが特徴であった。本の隅には白地に赤い斜線が入っていて、18という数字が入っているものや、For Adult Onlyと入っているものが殆どだった。
早速読み進めるファミーユ姫。
「わあ、絵がとっても上手。どの本も、表紙がとってもキレイ……」
夢中になって読み進めるファミーユ姫。と、程なくしてその動きが止まり、顔がみるみる紅潮していく。
「こ、こ、これ、一体何なのですか?!や、やだ……スゴクかわいい女の子が自分から脱いで、あんなことや、こんなことを……」
しかし、ファミーユ姫はその本から目が離せない。因みにその本のタイトルは、『○は○に○は○に』であった。
「それは(18禁)同人誌と申しまして、我が皇国の誇る文化の一つです。これは普通の本屋ではなく同人誌即売会や同人誌専門店でしか手に入らないんですよ。毎年夏と冬には全国規模の即売会も開催されて、それはもう並のお祭りよりも楽しいですわ」
因みにこの同人誌即売会は皇族や華族まで楽しんでいる上、何故か世界各国の元首までが諜報員などを派遣して競って同人誌を入手しているほどである。
旧世界ではこの手の本は悪書、もしくは艶本に分類されて普通ならなかなか手に入らないであろう。新世界はどちらかというとこういう方面はかなり大らかなほうだが、中でも皇国はこうした本が世界一簡単に買える国と言っても言い過ぎではない。
そしてファミーユ姫はとある同人誌を手に取る。その時、有璃紗姫はその同人誌を見て激しく狼狽した。
「ファミーユ姫、それは読んではダメですっ。それはオルフェ王太子とファミーユ姫をモデルにした近親相姦同人誌……」
だが、時既に遅し。ファミーユ姫は驚くどころか夢中になって読んでいた。その内容とは、密かに兄王子を慕う妹姫が、王子の結婚前日に想いを打ち明けそして一夜限りの禁断の恋に落ちるというものである。
ファミーユ姫は瞳を涙で一杯にして有璃紗姫に向き直るなり言い放った。
「有璃紗姫、私をお兄さまと結びつける道具とか持ってませんの?お兄さまはもうすぐオーロラお姉さまと結婚して、そうなると、お兄さまはもう私のお兄さまではなくなってしまう。そうなる前に……」
純真なファミーユ姫は同人誌の内容をすっかり信じ込んでしまったのか、それとも自分の内に秘めていた想いがこの同人誌で呼び覚まされたのか、必至の形相で有璃紗姫を揺さ振る。
ファミーユ姫とて僅かばかりとはいえその手の知識が皆無なわけではなかった。加えてグランディアは大国である。それ故多くの侍女が宮廷に仕えていることを意味し、当然ながら侍女たちの猥談を耳にする機会もそれだけ多くなる。
いくら王女をこの手の情報から完全に遮断しようとしても無理であった。大きなものほど綻びも大きいものである。こっそり聞き耳を立てた情報から悶々とし夢の中でオルフェと睦み合ったことも一度や二度ではなかった。
そしてファミーユ姫の真摯な態度に根負けした有璃紗姫は、彼女の想いを成就させてあげようと例の禁断のクスリやハードコア雑誌を渡してしまったというわけである。
ファミーユ姫は湧き上がる欲情に身を任せ、自分の胸の谷間にオルフェの顔が埋まるように抱き締める。頬は桜色に染まり、息も荒く、そしてパンティーの内側は蜜に塗れていた。ドロワーズにはない感触が、ファミーユ姫の興奮を煽っていた。いけないことだとわかっている。もうすぐオルフェは自分の兄ではなくなる。オーロラ姫の夫となるのだ。けれど、だからこそ兄妹だった頃の思い出が欲しい。
顔に胸の谷間を押し付けられ、オルフェのなかで何かが切れた。もう我慢できない。
オルフェは衝動的にファミーユ姫を抱え上げると、自室の天蓋付きダブルベッドにまるで突き飛ばすように強引に押し倒す。そして衝動的なディープキス。荒々しく胸を揉み上げ、愛撫もそこそこにビスチェを、パンティーを剥ぎ取る。
「いくぞ、ファミーユ。覚悟はいいな」
「はあ、はあ……お兄さま、き、来て……」
クスリの効果かそれともオルフェもまたファミーユ姫を心密かに想っていたせいか、早くも限界が訪れる。
「う、ううっ、ファミーユの膣内が気持ちよすぎて、もう……」
「お、お兄さま、私も、何か来そうなの。こ、怖い、お兄さま、私をしっかり捉まえて」
焦点の合わない情欲に濡れた瞳でオルフェを見つめるファミーユ姫。刹那、二人の想いは同時に爆発した。
「あ、ああっ、な、何か、来る……お兄さま、来ちゃう、もうだめ、い、イク、イクううううう〜〜〜〜〜!!」
ファミーユ姫は絶頂を迎えて激しく仰け反り、同時にオルフェも限界を迎えた。白く熱い迸りが、ファミーユ姫の膣内を満たしていく。
「はあ、はあ、はあ、はあ、あ、はあ……」
息も落ち着いてくると、二人は見つめあい、軽く口付けを交わす。幸せそうな表情のファミーユ姫。
「お兄さま。私は、ファミーユは、今、とっても幸せなの。もう、想いを成就した私に悔いはありませんわ。例え禁断の愛でも。だから、オーロラお姉さまと幸せになってほしいの」
まだ子供だと思っていたら、大人びた表情を見せるファミーユ姫。その表情は晴れ晴れとしている。この二人はとうとう兄妹の一線を越えてしまったのであった。それでも共に後悔してはいなかった。
そして、この時の睦み合いは二人だけの永遠の秘密として封印されたのであった。
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