淫曝 第1話
隠者
女は華麗な衣装を脱ぎ、その白き美肌を月光に晒すと、銀色に輝く仮面へと、 手を伸ばした。─裸体に銀仮面。女は巨大な鏡の前にたち、自分の姿をゆっくり と眺めた。 手入れの行き届いた完璧な肉体。細くしなやかで、女の魅力を匂わせている。 透き通るような肌は、月光に染まり蒼白く、淫靡だった。女の視線は足の指先か ら、ふくらはぎ、太股へ移った後、今はぴったりと閉じられている秘裂で止まっ た。秘裂を強引に指で開くと、身体を弓なりに反らしながら、鏡の前にラビアを 映し出した。 「あぁ…」 女の媚肉はぴくぴくと痙攣し、氷のような美しさを持つ肉体の真ん中で、唯一 たぎる ほどの熱情をほとばしらせている。まさに氷原に咲く、淫らな紅い花。 仮面の下にある女の瞳は、くびれた腰回りから、乳房の膨らみまでを舐めるよ うに眺め、やがて細工をちりばめた銀仮面へと辿り着いた。 「ふふふ」 女の口から笑みが漏れた。だが鏡にその蕩けんばかりの笑顔は映らない。鏡はた だ、完全なる美体にのった無表情な銀仮面だけを反射した。 人間が持つ肉体の持つ美しさ、淫らさは、その「顔」によって「価値」が決ま る。どんな地位、どこに所属する人間が、その肉体を支配しているのか。それを 決定するのはあくまでも「顔」なのだ。人とは酷いもので、肉体が持つ「顔」が 醜ければ、その美しさはあまり礼讃されない。唇、乳房、足首など美しきパーツ だけを愛する者もいるが、その数は少ない。 「だが」。女は思う。「これほどまでに美しく気高き肉体を持った私に「顔」 は要らない」と。「私の持つ「顔」にどれほどの魅力があるか。その事は生まれ た時から知っている」。男たちがこぞって褒め称える女の顔は、肉体と極めて調 和が取れた秀麗なものであり、「王女」という女の地位も他に並ぶものがない。 ─女はいわば「恵まれ」すぎていた。 だから、女は試してみたかった。自分の肉体が持つ価値がどれほどのものか。 冴え返るこの身体が、どれほどの男を虜にできるのか。どれほどの男が、この美 体を汚そうと群がるのか─。再びラビアに視線を落とした女はごくりと生唾を飲 み込んだ。 「さぁ」 陶磁器のような女の足が扉へと向かう。扉の向こうは飢えた淫獣たちの世界な のか? 裸体に仮面を纏っただけの「王女」は興奮と不安、そしてたぎる疼きを押さえ、 扉を押した。
(つづく)