*A week・第3日目(3)

T.MIYAKAWA



「それでは、試合開始!」
 審判のひと声で試合が始まった。
 周りの兵士達の歓声が辺りに響いた。
 声援は主に女性達の方が目立っていて、スカーレットへのものだった。
 その中には王子に対してのもあったが、当の王子にとってはそれが大きなプレッシャー
となっていた。
 というのも、王子が剣術の稽古を行った日は浅く、このような試合をした事など一度も
無かったのだ。
 そんな王子と目の前にいるスカーレットの力の差は明らかであった。

 お互いに向き合っている時、王子の剣の構え方のぎこちなさが目立っていた。
「じゃあ、いくよ。」
 その声と共に、スカーレットから仕掛けてきた。
 王子の動揺した反応などお構い無しに攻めてきたのだ。
「!?」
 王子は頭上に振りかかってきた剣を辛うじて受け止めたものの、その際に生じた反動が
強かった為に後ずさりをしてしまい、剣を握る手が痺れてしまうほどだった。
「まだまだ。」
 スカーレットは攻撃を緩めようとはしなかった。
 ひるんだ王子の方へ更に詰め寄り、追い討ちをかけてきた。
 このスカーレットの容赦の無い連続攻撃に、王子の体は次第に硬直し始めてきた。

(もう、ダメだ…)
 王子が諦めて目を閉じようとした時だった。
 「何しているの王子様、しっかりしなさいよ!」
 プラムが周囲の声をかき消す程の大きな声で叫びだしたのだ。
「!!」
 プラムのこの声に反応したのか、王子は咄嗟にスカーレットに向かって剣を打ち
返してきた。
 もちろんこれは王子の体が無意識に動いたからである。
「やる気を出したの?
 そうでなくっちゃね!」
 そう言いながらスカーレットは王子のこの思わぬ反撃を驚きながらも、喜んでいたのだ。
 彼女から見たら、このまま勝つのでは面白くないと考えたからだ。
 獲物をすぐに殺さずしばらく弄んでいる猫の動作と同じように、スカーレットは
王子との戦いを楽しんでいたかったのだ。

 実力の差がありすぎたのもあって、さっきの王子の捨て身ともいえる攻撃も
スカーレットはいとも簡単に防がれ、すぐに反撃にはいった。
 この攻撃で王子は剣を手から弾き飛ばされてしまった。
 剣は回転しながら宙へと舞い、そのまま地面に突き刺さってしまった。
 それは、まさに一瞬の出来事だった。
 丸腰にされた王子の両膝は、音もなくそのまま地面に着いた。
「あら、もうおしまい?
 もう少し頑張ってくれると思ってたけどなぁ…。」
 スカーレットは立ちすくんでいる王子に剣を向けてながら、覗き込むような姿勢で
呟いた。
「……。」
 王子は何も為す術を失ってしまい、何も言わずにスカーレットから視線を反らしていた。
「じゃあ、私の勝ちね。」
 黙り続けている王子を見下ろしながら、スカーレットは笑顔で勝ち名乗りをした。


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