黄金の日輪*白銀の月
 第5話/羞恥

Female Trouble


 ダンジョンの最下層の通路を、全裸の王女と姫将軍は四つん這いで歩かされた。その
後ろを首輪の鎖を持って、悠然とシーマが歩く。
 通路の石畳には、正体不明の粘液や血糊があちこちにこびりついていた。だが、二人
にはそれを気にする余裕はない。歯を食いしばって、この屈辱に耐えるしかなかった。
裸身に冷気が直接まとわりつき、床の汚物に指を突っ込むたびに、悪寒が背筋を貫く。
二人の掌と膝が前に進むたびにぺたぺたとたてる音と、首輪の鎖がチャラチャラと鳴る
音だけが、暗い迷宮に反響した。

「ほうら、もっと早く進みなさいよ。ここにはあたしの放った怪物どもがうろうろして
るんだから。ぼやぼやしてると、食べられちゃうよ、あはは」
 シーマがおぞましいことを気軽に口にした。はっとして通路を見つめたクレアの耳に、
暗闇の奥から響く魔物の唸り声が聞こえたとたん、四肢の力が抜けた王女は動けなくな
ってしまった。
「あら、腰が抜けたの?みっともないわねえ」
 嬲るようなシーマの言葉にうなだれたクレアに、アンヌがそっと寄り添って無言でう
なずいた。何が二人にできるはずもない、でも、すぐそばにお姉さまがついていてくれ
る。そのことだけを励みに、王女は再び手足を動かしはじめた。

 アンヌも、余裕などあるはずはなかった。自分を奮い立たせるのに精一杯ではあった。
だが、妹の崩れそうな様子を見たとたん、アンヌの心はいつの間にか、妹が膝をすりむ
いて痛い思いをしないだろうか、ということだけに占められてしまった。
 石畳が割れてとがっているところがクレアの膝と掌に触れないようにと、心優しい姉
はそっと身を寄せて、妹が比較的安全な場所を進めるようにしてやった。
 そんな姉の心遣いに、クレアはすぐに気が付いた。やはり自分は姉の負担になるだけ
なのか、と心苦しく思いながらも、同時に、自分も庇護されるだけじゃいけない、と強
いて気を張るように努めた。

 クレアはそっと姉を見つめた。アンヌもその視線に気が付いて妹を見つめかえす。目
と目だけで、二人は無言のまま励まし合った。
 だが同時に、クレアは四つん這いになった姉の姿に胸を締め付けられながら、同時に
奇妙な感覚が沸き上がってくるのを禁じ得なかった。薄い褐色の肌にまとわりつく銀髪、
重たげに揺れる乳房、引き締まった四肢と腹筋…。そして、脚の付け根にちらちら垣間
見えるグレイのヘア…。
 心臓の鼓動が早まるのが、自分でもわかった。身体の芯が熱くなってきた。クレアは、
姉の裸身から目を離せなくなっていた。

***

 実際はたいした距離ではなかったろうが、二人には無限にすら思える拷問だった。も
との地下牢にようやく戻った姉妹は、ぐったりと床にへたり込んだ。

「二人とも、いい運動だったでしょ。さ、お食事にしましょうね」
 そう言ってシーマは、大きめの深皿を一枚床に置き、真鍮のポットからミルクを注い
だ。
『ああ…、やっぱり…』
 屈辱的な食事をさせられることが、すぐに予想できた。だが、もう逆らう気力すら残
ってはいなかった。
「さ、二人ともおいで。あわてちゃだめよ」
 シーマの声に、二人はのろのろと身を起こし、四つん這いで近寄った。一枚のお皿で
二人分。それを犬のように…。いったい、私たち、どこまで堕ちていくんだろう…。

「素直でいい娘になったよね。ほうら、まだ、おあずけよ…。よし、おあがり!」
 幼い少女の合図に、聖王女と姫将軍は一枚の皿に顔を寄せ、舌だけを使ってペチャペ
チャとミルクをすすりはじめた。互いの頬が触れあった。恥ずかしさに真っ赤になった
火照りと、涙の跡が互いに伝わった。だが、二人ともミルクを飲むのをやめられなかっ
た。疲れのために空腹だったせいもあったが、何よりもこの屈辱的な行為の中に、いつ
のまにか二人は痺れるような感覚を見いだしてしまっていた。
 人間の尊厳も、王女の誇りも全て奪われて、ここで永久に、飼い犬になって生きてい
くしかないの…?
 狭い地下牢の中に、高貴な美少女姉妹がミルクをむさぼる、その音が、いつまでも響
いた。



(つづく)
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