黄金の日輪*白銀の月
 第4話/悪夢

Female Trouble


 都城から遥か西の山脈の地底奥深くに広がる、数千年前の古代文明が築いた巨大地下
迷宮が、魔女シーマの住処だった。だがそれすら、哀れな美姫姉妹には知る由もない。
今や二人は、迷宮の最地下層の片隅に据えられた地下牢の囚人となっていた。
 自然石同然にゴツゴツした石畳の上は、やはり石造りの低い天井から滲み落ちる地下
水の雫にぐっしょりと濡れている。これに比べれば、死刑囚ですらもっとまともな待遇
を与えられるに違いない。
 人の世の最も高貴な存在だった二人は、あまりにも突然すぎる運命の転回に、嘆くこ
とも忘れて虚脱したまま、ただ抱き合って互いの体温で地下の冷気から身を守るしかな
かった。

 震える王女を抱きしめながら、アンヌは自分の無力を呪った。
『なにが、ドラゴンスレイヤーよ!大切な妹を守ることさえできず、何の抵抗もできな
かった…。せめてなんとか、クレアだけでも救わないと…』
「お姉さま…」
 いきなりの呼びかけに、アンヌははっと顔を上げた。
「私のために、無茶はしないでね…。約束したでしょ、これからはいつも一緒だって…」
「クレア…」

 床や壁にはびこるひかりごけの微かな薄明かりだけの暗がりに慣れたころ、いきなり
まぶしい灯りが室内に点いた。魔法の灯りに目がくらんだ二人の前に、いつのまにかシ
ーマが立っていた。

「ごきげんよう、クレアちゃん、アンヌちゃん」
 馴れ馴れしく呼びかけるシーマを、二人は睨んだ。
「あら、かわいくないわね。でも、ペットを飼うときは最初が肝心、甘い顔を見せずに、
誰がご主人様かをよくわからせなきゃダメなのよね」
 子供っぽいシーマの言いようが、これからの悪夢をひしひしと予感させる。

「まず、ペットに服を着せてかわいがる飼い主がいるけど、あたし、あれ、大っ嫌い」
 そう言い放って、シーマは軽く指を鳴らした。
 その瞬間、スライムの粘液のためにもうボロボロになっていた二人の服が、一瞬に消
え、互いの裸身が露わになった。
「いやあ!」
 羞恥にうずくまる聖王女を、アンヌは気丈にも、自分を気にせずにかばう。

「それと、これね」
 もう一度シーマが指を鳴らすと、一糸も纏わぬ姉妹に、愛玩動物としてふさわしい唯
一の装身具が与えられた。二人の細い首に、ごつい革地に銀の鋲が付いた、大型犬用の
首輪がはまる。
「さ、かわいいワンちゃんたち。仲良くしましょうね。アハハハハハハハ…!」
 シーマが二人を見て哄笑した。

 この仕打ちは、さすがに屈辱に過ぎた。それまで泣き言一つ言わなかったクレアが、
耐えきれずに涙を流して嗚咽した。アンヌも崩れそうな自分の心を何とか保って、妹を
抱きかかえて支える。

「こんなこと、やめて!お願い、妹にはひどいこと、しないで!」
「ふふ、ダメよ、言ったでしょ、二人ともあたしのペットなんだって」

 二人の首輪から鎖が伸び、シーマの手におさまる。
「あ、ワンちゃんなんだから、ほら、四つん這いになって」
「…ふざけるなあ!」
 耐えきれなくなったアンヌが、怒りにまかせてシーマに突進する。杖を奪って叩き臥
せれば、なんとか…。しかし次の瞬間、シーマに触れる直前、烈しい電撃がアンヌをは
じき飛ばした。
「ぎゃふっ!」
「お姉さまあ!無茶はやめて!」

 壁際まで吹っ飛ばされたアンヌは、痺れて動けなくなった。
「お行儀の悪い子ね。さあ、クレアちゃん、痛い思いがイヤなら、わかるでしょ」

 抵抗できない、と悟ったクレアは、目を閉じて、おずおずと両手を床につけた。そし
て、腰を突き上げるようにして両膝を立てる。
「そうよ、素直。おねえちゃんも妹を見習わなきゃ」
 ようやく痺れが抜けたアンヌは、妹のみじめな姿に目をそむけながらも、自分も四つ
ん這いになってクレアの隣りに並んだ。
「よくできました。じゃあ、今度はお散歩。二人とも、行くわよ」
 シーマが鎖を牽いた。

(つづく)
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