バラステア戦記
第三十話
009
アイルランガを焼いた魔砲台の火柱は、その勢いの衰えることなく真夜中のゼキスードを
昼間のように照らし続けた。
リュウとクレファーはカルノアが惨殺されたゼキスートの要塞頂部で激しく打ち合う。
(ここでクレファーを討つ。バラステアとの戦いに終止符を打つ)
バラステアの暴挙により家族を殺され、国は焼かれ、そして愛する女性も奪われた。リュ
ウはその憎しみを、目の前のクレファーにぶつけていた。
「クレファー・・・・ここで終わりにする」
「雑兵・・・おまえごときにこの私が斬れるのか」
常に無表情なクレファーが不気味な笑みを浮かべる。その刹那、黒い一閃がリュウの左腕
を切り裂く。
「ぐっ」
血しぶきがあがる。クレファーは待たずに次ぎの攻撃を繰り出してくる。リュウは防戦一
方に追い込まれながら、壁際を使ってなんとかその攻撃をしのぎ続けた。
「どうした、それまでか」
リュウは大きく肩で息をする。斬られた左腕からは血が流れ続けている。
(かなり深い)
それでもリュウは剣を構えた。外からは戦闘の悲鳴とブラック・ドラゴンの咆哮がきこえ
てくる。
(仲間達が危ない)
外で戦っているスーチェンやレッド達はクレファーの策略により全滅の危機にある。リュ
ウは焦らずにはいられない。
「そろそろ遊びはお終いにさせてもらおう」
クレファーがブラック・ソードを高く掲げると、その剣先に黒い光が宿りはじめた。
(魔法剣か)
リュウが身構える。クレファーは何か意味不明の呪文を唱えると、リュウに向けて黒い光
弾を放った。
「ぐうっ!」
リュウはそれを剣で受けとめようとするが、強力な黒いエネルギーに耐えきれずに後方の
壁まで飛ばされ、さらにその壁を突き破って床に叩き付けられた。
「ぐはっ」
リュウはあまりの衝撃に大量に吐血した。しかしすぐに顔を上げてクレファーを探すと、
その黒い男は気配も感じさせずにリュウのすぐ側に立っていた。
「クレファー・・・・!」
「終わりだ」
クレファーがブラック・ソードを斜めに切り下ろす。リュウは最後の力を振り絞って剣を
構える。だがクレファーの一撃を剣で受けずに、リュウはクレファーに突進した。
「何!?」
クレファーの一撃がリュウの肩口に命中した。だが・・・・
「鍔元では俺は殺せない!」
リュウは肩に攻撃を受けながらも剣を振り切る。クレファーの横腹を鋭く切り裂くと、血
しぶきが上がった。
「ぐおおおおおっ!」
クレファーがよろめく。リュウはさらに渾身の一撃を繰り出す。クレファーは額から縦に
斬りつけられた。
「ぐうっ」
クレファーの黒い甲冑が血にまみれる。横腹と額から血を吹き出しながら、クレファーは
その場に倒れた。
(あの瞬間・・・・まさか攻撃を剣で受けずに突進してくるとは)
リュウもかろうじて立っている状態であった。鍔元で受けたクレファーの一撃は致命傷に
は至らなかったが相当のダメージである。
「ハア・・・・ハア・・・・ハア・・・・・」
瀕死の二人の男はそれでも剣を構え合うが、クレファーはブラック・ソードを杖にすると、
ずるずると階段の方向へ歩きはじめた。
「クレファー・・・・・・!!」
「まさかこの私がここまでやられるとは・・・・だが・・・私は・・・・こんなところで
は死ねぬ・・・・・・!!」
空から突如として激しい雨が降り出した。
全てを洗い流そうとしているのか、浄化の雨のごとき激しい降り方であった。
(リュウ・・・!)
スーチェンやレッドは、豪雨の中奮戦を続けていた。だが精鋭部隊であるバラステア軍の
前に、正規の装備を持たない奴隷達は次々に討たれていく。そして地獄からあらわれたブ
ラック・ドラゴンによって、希望は絶望へ変わろうとしていた。
ズル・・・・ズル・・・・ズル・・・・
瀕死のクレファー・ロロイは、肩で息をし、血がしたたり落ちてくる額をおさえながら螺
旋状の階段をゆっくりと降りていった。
(何処へ行く気だ・・・・?)
リュウもなんとかその後を追いかけていく。要塞の外からは豪雨の中激しく戦う男達の阿
鼻叫喚が聞こえている。
クレファーがある扉を空け、その部屋の中へ入っていく。
「待て!クレファー!」
リュウも続けてその部屋へ入っていく。その中で見た物は、リュウには信じられないもの
であった。
アリアだった。全裸でベッドに横たわるアリアは、発作の起こった淫らな体を慰める為、
要塞外の騒ぎなど気にとめることもなく自慰にふけっていた。その目は虚ろであった。
「ア・・・アリア将軍!」
「あああ・・・・クレファー・・・・何をしてるんだい・・・・早くいつものようにあた
しの体を慰めておくれよ・・・・ああああ・・・・あんたのことはいつか必ず殺す・・・・
だけどこの火照った体をどうしたらいいんだい・・・・・」
黒いクレファーは振り返ってリュウを見た。
「ふ・・・ふふふふ・・・・貴様は元アリア隊の兵だと言っていたな・・・・どうだ、我
が妻となったアリアの痴態は・・・・?」
(なんということか)
リュウは愕然とした。クレファーにかけられた魔法の為とはいえ、アリアはやはりクレフ
ァーの妻として生き延びていたのだ。
アリアの痴態を見て呆気にとられているリュウ。そしてクレファーは殺気を消したまま黒
い大剣を構え直していた。
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