バラステア戦記

第二十九話

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(コツ・・・コツ・・・コツ・・・)
要塞頂部へと続く暗い階段に、クレファーの足音だけが響いている。リュウは
剣を構えてそっとその後へ続いていく。
やがて明かりが見えてくる。頂部へとたどり着いたクレファーはその扉を開け
た。
「陛下」
「おう、クレファーか」
そこではリリーがカルノアの上に乗る形で、男女の交わりが行われていた。リ
リーはクレファーが来たのを目にも止めずにひたすら腰を振り続けている。も
はや性の快感しか感じていない恍惚の表情で、美しい顔はよだれを流しながら
カルノアの体を貪っているようであった。
(あれは・・・・リンスの妹のリリー姫・・・・!!そしてあの男がバラステ
アの皇帝・カルノアか・・・・・!!)
リュウは一瞬、カルノアを斬る為に衝動的に飛び出しそうになったが、この場
の様子を見守る為に感情を押さえた。
「反乱の方はいかがいたした」
カルノアがリリーに乗られたままの体制でクレファーに戦況を訊いた。
「それが・・・・奴隷達の反乱は成功した様子です」
「・・・・何!?」
クレファーがブラック・ソードを抜く。
「陛下は奴隷達の手にかかりあえない御最後・・・・・」
黒い剣が一閃する。刹那、カルノアの額から血しぶきがあがる。
「ぐわっ」
「・・・・!!きゃあああああああ!!」
リリーが悲鳴を上げる。クレファーは無表情のまま剣を構え直す。
「き・・・・・貴様ぁ・・・・・・!!」
カルノアはリリーを突き飛ばすと、傍らに置いてある自分の剣を取ろうとクレ
ファーに背を向ける。クレファーはつかさずその背中を斬りつけた。
(ビシュッ)
「ぐおおおおおつ!!」
カルノアは背中から血を吹き出しながら倒れ込んだ。
「ひいいいいいいいっ」
リリーがその場から逃げようとするが、クレファーの黒い一撃がリリーの白い
肌を切り裂く。
(ああっ)
「女を斬るのは忍びないが・・・・・この場を見ていたからには死すべき他に
無い」
クレファーが向き直ると、カルノアは剣を杖にふらふらと立ち上がっていた。
「クレファー・・・・き・・・・貴様がこの私に・・・・刃向かうとは・・・・
・!!
だがこの世界はこの私は支配する為のものだ・・・・・ふ・・・・ふふふふ・・
・・これが何かわかるか、クレファー・・・・・・!!」
カルノアが手を伸ばす先には、天井から紐がたれ下がっていた。よく見ると天
井に書かれた丸い世界地図を囲むように、丸く配置された八本の紐がたれ下が
っているのだ。
カルノアがその一本を掴む。
「それは・・・・・まさか・・・・・!!」
「く・・・・・くくくく・・・・・そうだ・・・・まだ完全な完成ではなかっ
たがな・・・・・この世界は誰にもくれてやらぬぞ・・・・・くれてやるくら
いなら・・・・・」
(ガコン)
カルノアが紐を引いた。
(ゴオオオオオオオオン)
凄まじい轟音と共にゼキスードの魔砲台が動き出す。
「ふ・・・・・ふははははは!!・・・・・焼けえ・・・・・焼き尽くせ・・・
・・!!」魔道窟の怪物により蓄えられた地獄のエネルギーが魔砲台にチャー
ジされる。そして目が眩むほどの白い光を放つと、凄まじいエネルギー弾がア
イルランガの方向へ向けて発射された。数瞬後、巨大な地響きと共にはるか彼
方で山脈よりも高い火柱がたち登った。その爆風はゼキスード要塞までも到達
する。
一瞬の出来事であった。誰もが目を疑う、恐ろしい轟音と爆炎に、人々の生き
る希望が全て奪われる程の凄まじさであった。アイルランガの全てが燃えてい
るのか、夜中のゼキスードはその火柱で昼間のように明るくなった。
「ふ・・・・・ふはははは・・・・成功だ・・・・・!!全て焼き尽くせ・・・
・・!!」
「おのれ・・・・・狂った暴君め」
クレファーが他の紐も引こうとしているカルノアの肩から斜めに斬り下ろす。
「ぐ・・・・ぐあああああああ」
カルノアが断末魔の悲鳴をあげながら倒れる。国を侵し、女達を好きなだけ陵
辱し、そして神をも恐れぬ魔砲台の引き金を引いたバラステアの暴君の最後で
あった。
「少々予定が狂ったが・・・・・事は済んだ」
事態に呆気にとられていたリュウがその場へ飛び出す。
「クレファー・・・・・何と言うことを・・・・・・!!」
「貴様は誰だ」
「俺はアリア隊の兵士・リュウだ!バラステアの・・・・この神を恐れぬ所業・
・・・・許すことは出きぬ」
「アリア隊のリュウ・・・・・・もしや我が妻・アリアを女にしたのは貴様か」
「我が妻だとおっ」
リュウがクレファー 斬りかかる。リュウは素早い攻撃をくり出すが、クレフ
ァーはブラック・ソードで受け流した。
「アリア将軍はどこにいる・・・・・・!リンス姫はどこに・・・・・・・!」
「アリアもリンス姫もこの要塞の部屋にいるが・・・・・それよりもあの外の
奴隷達の心配をしたほうが良いのではないか?」
「何!?」
リュウが外を見ると、クレファーの率いているバラステア軍が奴隷達の背後か
ら攻撃をかけていた。ただでさえ魔砲台の衝撃に身も心も凍り付いてしまった
奴隷達は、バラステア軍の攻撃によって散々に討たれていく。そして昼間のよ
うに明るくなった上空には、クレファーのブラック・ドラゴンが飛び廻ってい
た。
「おのれ・・・・・・!!初めから罠だったのだな・・・・・・!!」
「・・・・奴隷達の反乱は成功し、陛下は討たれたがその後駆けつけた我が軍
団により全滅、バラステアの後継者は反乱を鎮圧したこの私になるというシナ
リオだ」
クレファーが無表情で言い放つ。そして黒い攻撃を繰り出す。
「・・・・・もっともこの成り行きを知ってしまったおまえにも死んでもらわ
ねばならん」「クレファー!!おまえの好きにはさせない」
アイルランガの爆炎が要塞頂部の二人を照らす。二人は激しく打ち合う。


背後からクレファー軍に攻撃をかけられた奴隷達は、混乱し、次々に討たれて
いく。レッドやスーチェンも奮戦するが、戦況は変えることが出来ない。上空
からはブラックドラゴンが炎を放って奴隷達の体を焼いていく。
「くそっ・・・・・作戦は失敗か・・・・・!?・・・・まさか魔砲台が放た
れるとはっ!」
スーチェンは要塞の上部を見た。
(こうなればクレファーを討つしかないぞ・・・・・・リュウ・・・・・!!



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