バラステア戦記
第二十八話
009
リュウが合図を送ると、カディス=ジークのメンバーが奴隷房へなだれ込んで
来た。
リュウが見張りの兵から奪った奴隷房の鍵をメンバーへ渡すと、一斉に鉄格子
の扉が開けられていく。
レッドが叫ぶ。
「みんな、ここから出て俺達に力を貸してくれ!!今バラステアの皇帝・カル
ノアはこの巨大な要塞と魔砲台を完成させて全世界を焦土にしようとしている!
!そんなことを許すわけにはいかない!!俺達の国はカルノアに奪われ、激し
い略奪を受けてきた!!今こそ俺達が立ち上がり、カルノアを倒して国を取り
戻すのだ!!」
レッドの叫びに大勢の奴隷達が歓声をあげる。
「そうだ!俺達の国を取り戻すんだ!」
「皇帝を!皇帝を倒せ!」
「こんな要塞はぶっこわしちまえばいい!!」
「そうだ!!」
「やるぞ!みんなでやるぞ!!」
数万人の奴隷達が怒号を上げる。もともとバラステアに国を奪われ、捕らえら
れてきた他国の兵士達である。バラステアを憎む彼らの目は血走り、カディス
=ジークのメンバーに足枷を外されると、外へ飛び出して要塞の建設現場へ向
かって一斉に走り出していった。
リュウはアリア隊の大旗をかざすと、奴隷達に向かって呼びかけた。
「アリア隊の兵士
はここへ集まれ!!今アリア将軍は敵将・クレファー=ロロイに捕らわれてい
る!!アリア将軍をお助けして、共にバラステアを打倒するのだ!!」
リュウの呼びかけに数百人の元アリア隊の兵士達が集結した。彼らは、アリア
が流れ将軍としてバラステア軍と転戦を続けていたころからの兵士達である。
今までバラステアの奴隷として絶望の縁にいた彼らの目は、誇りあるアリア隊
の兵士としての輝きを取り戻していた。
「行くぞ!!!」
アリア隊はリュウとスーチェンを先頭に、ゼキスードへ向かって突撃した。
「陛下!!陛下!!」
「・・・・何事だ、こんな夜中に」
カルノアは真夜中に起こされたことなど一度も無い。隣に寝ているリリーは小
さく寝息をたてている。カルノアは不快を露わにしながら起きあがった。
「奴隷房で反乱です!!数万人の奴隷達が一斉に蜂起し、このゼキスードを破
壊しようとしています!!」
「なにい!?」
カルノアが窓から外を見ると、松明の明かりが数多く動いているのが見える。
それと共に奴隷達のであろう、怒号が夜の要塞にこだましている。要塞の入り
口でバラステア兵と戦闘が起こっているようであった。ゼキスード要塞は建設
中といってもカルノア達の居住部分は既に出来上がっていて、カルノアが今い
るのも要塞の一部屋である。当然守備の兵士も配置されているが、数万人の奴
隷達が一斉に蜂起したとすれば、それを押さえ込むほどの戦力ではない。
「おのれウジ虫どもが・・・・・!!何故こんなことになった!!」
「カディス=ジークの者が帝都に侵入していた様子です」
「バランは何をしている!!奴らはバランが大軍で掃討したのではないのか!?
」
「それが・・・・・今だバラン将軍からは連絡がありません」
カルノアは悪鬼の形相になった。日頃酒池肉林の中に時間を過ごしてきたカル
ノアは、怒りに全身を振るわせ、ゼキスードへ押し寄せてくる奴隷達を睨み付
けた。
「陛下・・・ご安心ください」
いつの間にかクレファーが側に立っていた。全く気配を感じない内に、黒衣の
男はそこにいた。
「おう、クレファーか」
「既に我が軍団が奴らを包囲しております。この私が成敗いたしますので、陛
下は念の為要塞の頂部へご避難ください」
「よし、あとはまかせたぞ」
カルノアはリリーの手を引くと、全裸のまま要塞の頂部へ向かった。その様子
をクレファーは無表情で見送った。
蜂起した奴隷達と要塞を守備するバラステア兵の間では激しい戦闘が行われて
いた。武器を奪った奴隷達は数を頼りに要塞の壁を乗り越えて内部に侵入して
いく。少数のバラステア兵は除々に押されはじめていく。
(愚かで無力な者たちよ・・・・・・)
クレファーは数万の軍団を城外に待機させているが、要塞の守備兵の劣勢にも
かかわらずに動かそうとはしなかった。
やがて要塞の各部が奴隷達によって破壊されていく。
「こんなものを作る為に仲間達は死んでいったんだ!!」
「壊せ!!こんなものは崩してしまえ!!」
リュウはアリア隊の大旗をスーチェンに託した。
「俺はアリア将軍とリンス姫を助けにいく。あとはまかせるぞ」
「わかった。死ぬなよ」
「ああ」
リュウはスーチェンと別れると、一人要塞の壁をよじ登って内部へ潜入してい
く。
(アリア将軍・・・・・リンス・・・・・必ず助ける)
「貴様・・・・奴隷兵だな!」
要塞の守備兵と遭遇する。繰り出される剣の攻撃をリュウは身軽に飛んでかわ
すと、一人、二人と大剣でなぎ倒して尚も内部へ進んでいった。
(あれは)
リュウが城壁を登っていくと、数人の兵に守られた黒衣の男が目の前に現れた。
頂部に近い城壁から戦闘の様子を眺めている。向こうはこちらに気付いていな
い様子である。
(クレファー=ロロイ!!)
リュウはソード・ロックの戦いでアリアと共に出撃した時、アリアと一騎打ち
した敵将・クレファーを見ている。その黒衣の男に間違いはなかった。
「頃合いだな」
クレファーはその場を部下達にまかせると、一人要塞頂部へと続く階段を登っ
て行く。
(・・・・・!!)
リュウは気付かれないようにその後を追った。
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