ネイロスの3戦姫


第10話その.4 対決、3姉妹対ブルーザー!!  

 「姫様ーっ!!」
 階段の下から、ネイロス軍兵士達が声を上げて走ってくる。
 「ここにおられましたかっ。やりましたよ、黒獣兵団の兵達は全員降伏致しましたっ。」
 喜びながら、兵士達は宮殿内の状況を説明した。
 追い詰められた兵達はしぶとく抵抗を続けたが、戦況が連合軍によって完全に掌握され
た事を知るや、武器を放棄して降伏したのであった。
 黒獣兵団は元々、ブルーザーが金にものを言わせて集めたならず者達の集団であったた
め、ネイロス軍兵士やデトレイド軍兵士のような強い結束力は無いに等しい。それゆえ、
一度結束が崩れれば脆いものであった。
 「勝利は我々のものです。外にいる仲間にこの事を伝えましょう。」
 喜び勇む兵士に、エリアスは首を横に振った。
 「まだ勝った訳じゃないわ。団長のブルーザーが残っているのよ。これより私達はブル
ーザーに戦いを挑みます。」
 エリアスの言葉に、兵士達は驚く。
 「それではすぐに支援を募ってまいります。奴1人なら我々の敵ではありません。」
 「いえ、いけません。ブルーザーは私達3姉妹が倒します。この戦いの幕は私達の手で
下ろさねばなりません。それに、あなた達には負傷者の救援と、今後の復興を担う大事な
仕事があります。それを放棄する事は許しませんよ。」
 「姫様・・・」
 強い決意で兵士に告げるエリアス。
 「しかし、姫様方にもしもの事があれば・・・」
 そう言う兵士の手を、3姉妹はそっと握り締めた。
 「心配しないでよ、ボク達は負けない。ボクや姉様と試合をしたことのある君ならわか
る筈だよ。」
 そう言っているのはエスメラルダだ。
 兵士は以前エスメラルダと試合をしたことがある。それはエスメラルダが兵士相手に1
0人抜きを果たした時、最後に戦ったのがこの兵士だった。
 彼がエスメラルダと対戦した後、エスメラルダは10人抜きというハンデをものともせ
ず姉のエリアスと激闘を見せてくれた。
 剣豪のエリアスとエスメラルダ。そして類まれなる銃の使い手であるルナが力を合わせ
れば、超獣ブルーザーを撃破できるかもしれない、いやできる。
 3姉妹の目には勝利への確かな確信が宿っていた。それを覆す事は誰も出来ないのであ
った。
 「・・・わかりました。どうかご無事で・・・」
 「ごめんなさいね、心配をかけて。」
 エリアス達は少し笑って答え、妹達を伴ってブルーザーの待ち構える屋上へと進んで行
った。
 そんな3姉妹の背後に、気配を沈黙させて進む1人の男の姿があった。それは先程3姉
妹をロープで縛ろうとしていたヤモリ目男であった。
 「ゲヘへ・・・おめえ等はオレが倒してやる・・・俺様をコケにしたらどーなるか思い
知らせてやるぜぇ〜。」
 ヤモリ目男はそう言いながら3姉妹の後をつけていった。
 
 「この先が屋上だよ姉様。」
 屋上に出る扉のノブに手をかけるエスメラルダ。その手には緊張感が漲っている。
 カチャと音が響き、扉は開かれた。
 「ブルーザーッ!!お望み通り来たわよっ。姿を見せなさいっ!!」
 声を上げるエリアス。だが反応は無かった。
 「逃げたんじゃない?」
 気配の無い屋上を見たルナがそう言った、その時であった。
 「ぎえ〜いっ!!」
 甲高い奇声がとどろき、物陰からヤモリ目男が飛び掛かってきた。
 シャッと空を切る音が響き、間一髪身を交わした3姉妹が後方に退く。
 「お前はさっきのっ!!」
 エリアスが現れたヤモリ目男の前に立った。
 「ゲヘへ・・・お前等を切り刻んでやる〜、俺様の鉄の爪でなあ〜。」 
 「まだいたのね。」
 「うっとしい奴だな、まったくっ。」
 身構えるルナとエスメラルダ。
 「さ〜あ、どっから刻んで欲しいかあ〜?」
 鉄の爪を舐めながら、ヤモリ目男は目をギョロギョロさせて3姉妹を見ている。そのイ
ヤラシイ視線に、3姉妹は嫌そうな顔をする。
 「お前のような雑魚にかまっている暇は無いのよ。怪我をしたくなかったら退きなさい
っ!!」
 声を上げるエリアス。そして雑魚扱いされたヤモリ目男は眉間に血管を浮き立たせた。
 「俺が雑魚だって〜?言ってくれるじゃねーか!!」
 跳躍したヤモリ目男の鉄の爪が3姉妹に迫る。
 「はあっ。」
 太陽の牙が真一文字に煌き、鉄の爪がバラバラになった。
 「あぎ?」
 余りの一瞬の事に、ヤモリ目男は何が起きたか理解できなかった。そして間髪入れず顔
面に3姉妹のトリプルパンチが炸裂した。
 ヤモリ目男は悲鳴を上げて吹っ飛び、屋上の床を転がった。
 「フン。あんな奴、素手で十分だよ。」
 床に倒れているヤモリ目男を見ながら、エスメラルダはそう言った。
 「ひいい、つ、強ええ〜。ああ、あの小娘ども・・・」
 先程までの強気はどこへ行ったのか、ヤモリ目男は3姉妹に怯えながらジタバタと後ろ
向きに逃げて行く。
 そのヤモリ目男の背中に、何かがドンとぶつかった。
 「のお?・・・ひっ・・・ぶ、ブルーザー団長っ!!」
 振り返ったヤモリ目男の目に、仁王立ちしている超獣の姿が映った。
 「おい、てめえ何してやがる。」
 「あいや・・・その・・・団長の手を煩わせるまでもないと思いやしてネ・・・あいつ
等を始末しようと・・・デヘへ。」
 ブルーザーの鋭い眼光に怯えているヤモリ目男は、全身をガタガタ震わせてそう言った。
 「俺はあいつ等に手を出すなと言った筈だ。命令を無視した上にアッサリやられるとは
な、このボケが!!」
 「ひっ、ゆ、ゆるして・・・」
 ブルーザーの怒声に、ヤモリ目男は土下座して許しを求めた。
 「許して欲しいんだったら、もう一度3姉妹と戦え。あいつ等を始末できたら勘弁して
やろう。」
 「えっ、そんな・・・無理でげスよ・・・あいつ等強ええから・・・」
 「そうか、じゃあ俺がてめえを始末してやるっ!!」
 ブルーザーはそう言い放つとヤモリ目男を蹴り飛ばした。凄まじい蹴りでヤモリ目男の
体が宙に舞う。
 「どぎゃああ〜!!」
 ヤモリ目男が3姉妹の眼前に落ちてくる。そして、血反吐を吐きながら悶絶した。
 「ブルーザー・・・あなたって人は。」
 無情なブルーザーの仕打ちに、エリアス達は怒りを露にしている。
 「とうとう来たか3姉妹ども。俺と黒獣兵団をここまで追い詰めたのは後にも先にもお
前達だけだぜ。だがよ、それもここまでだっ。この俺を倒せるものなら倒して見やがれっ!
!」
 首に巻いた鎖を振り回し、ブルーザーは吠えた。
 「うおおおっ!!」
 強烈な風圧を発生させ、唸りを上げる鎖が3姉妹に襲いかかった。
 「いやああーっ!!」
 迫り来る鎖をエリアスは太陽の牙で切り付けた。だが、鉄おも切り裂く筈の刃が、あっ
けなく弾かれた。
 「そ、そんな・・・太陽の牙で切れない!?」
 「グフフ・・・当たり前だ。この鎖は特別あつらえでな、てめえのナマクラ刀なんぞ通
用するかーっ!!」
 ブルーザーの鉄拳がエリアスを直撃した。
 「きゃああーっ。」
 悲鳴を上げ、エリアスの体が吹っ飛ぶ。
 「くたばれヒゲゴリラーッ!!」
 ブルーザーの背後に回っていたエスメラルダが、ドラゴン・ツイスターで懇親の一撃を
食らわせた。
 「参ったかこの!!」
 ドラゴン・ツイスターの一撃はモロにブルーザーの脳天に決まっていた。だが、ブルー
ザーは微動だにしない。
 「どうした赤毛ちゃん、それで終わりか?もっと試してみたらどうだ。」
 ニヤリと笑い、ブルーザーは振り返った。全くのノーダメージだ。
 「ば、バケモノ・・・」
 エスメラルダの全身に戦慄が走った。ブルーザーの肉体はまさに鋼鉄製だ。
 「はうっ!?」
 立ち竦んだエスメラルダの体に、鎖が巻き付つく。
 「フフ、動けないだろうが。」
 「バカにするなっ、こんな鎖なんか・・・ううっ・・・ほ、ほどけない・・・」
 どんなに足掻いても鎖の呪縛から逃れられない。
 「そうら目を回せっ。」
 ブルーザーはエスメラルダを捕らえたまま、怪力で鎖を振り回し始めた。
 「うわーっ、わあああーっ!!」
 凄まじい勢いでエスメラルダの体が回転する。3度、4度と鎖を回転させたブルーザー
は、エスメラルダの体を床に叩きつけた。
 「あうっ。」
 床にぶつかった衝撃で鎖が解け、エスメラルダは倒れているエリアスの傍に転がって行
った。
 「フッ、ざまーねーなあっ。」
 余裕の笑いを浮かべるブルーザー。そのパワー、強靭な肉体。どれをとっても常人を遥
かに超えている。
 人間を超えたケダモノ。そう、まさに彼は超獣なのだ。
 「あ、姉様ーっ!!」
 床に倒れて動けなくなっている姉達の元に、ルナが駆け寄ってきた。
 「しっかりして姉様っ、姉様ーっ。」
 悲痛な叫びが響く。だが、ルナの呼びかけにもエリアス達は答える事が出来なかった。
激しい痛みが彼女等を苛んでいるのだ。
 「このヒゲゴリラッ・・・よくも、よくも姉様を!!」
 瞳に怒りをたぎらせ、ルナは2丁拳銃を超獣ブルーザーに向ける。
 「ほう、そんなオモチャが俺に通用すると思ってんのかい?カワイイ天使様よ。」
 「バカにしないでよね。あたしだって戦姫よっ。姉様と同じ・・・ネイロスの戦姫よっ!
!」
 嘲笑うブルーザーの胸板に、12発全弾が命中した。
 「むっ。」
 ブルーザーの巨体が揺らいだ。今使用した弾丸はいつも使っているゴム弾ではなかった。
実戦用の鉛弾だったのだ。
 「いくらあんたでも鉛弾で撃たれたら一溜まりも無いわ、地獄に行きなさいよっ。」
 叫ぶルナ。しかし鉛弾を浴びた筈のブルーザーは倒れなかった。それどころか余裕の表
情でチッチッと舌打ちしながら指を横に振った。
 「ど、どうして・・・」
 驚愕するルナ。
 「教えて欲しいか?」
 ブルーザーはそう言うと毛皮のベストを脱ぎ捨てた。床に投げ出されたベストが重厚な
音を立てる。
 ベストの下に鉄の板が仕込まれていた。
 銃撃戦を得意とする黒獣兵団の団長である彼は、対銃撃戦用に作った防弾ベストを着て
いたのだ。
 至近距離から発射された鉛弾も、鉄の板によって弾かれていたのであった。
 「ンフフ・・・それに普通の奴なら堪えてるだろうがよ、あいにく俺様の体は鋼鉄製で
ね。」
 ブルーザーはそう言いながら、1箇所だけ鉄の板を貫通してできた肩の傷を指でほじっ
た。
 血塗れの傷口から鉛弾がポロリと落ちる
 (団長は怪物だ)
 ルナの脳裏に、先程倒した大隊長の言葉が過った。その言葉が真実だった事を思い知ら
されたルナの全身に、凄まじい恐怖が駆け巡った。
 「あ、ああ・・・」
 銃を向け、引き金を引こうとする。しかし銃の弾は撃ち尽くしてしまったため、もはや
ルナに戦う術は無くなっていた。体を震わせ、その場にペタンと座り込んだ。
 「ククク・・・終わりだっ。」
 動けなくなったルナ目掛け、鎖が振り下ろされた。
 「る、ルナッ!!」
 ルナに鎖が叩き付けられる寸前、飛び出した姉達がルナの体に覆い被さってきた。そし
て鎖がエリアスとエスメラルダの体
に直撃した。
 「うああっ!!」
 姉達の身体に強烈な痛みが走る。鎧を通してとはいえ、ブルーザーの怪力で殴られるの
だ、その痛みは半端ではない。
 「姉様っ。」
 「動かないでっ、じっとしてて・・・」
 「こ、これぐらい何とも無いぞっ、負けるもんかっ・・・」
 苦痛を堪え、妹を庇うエリアス達。
 「ちっ、往生際の悪い奴らめ・・・いいだろう。3人揃ってあの世に行きやがれーっ!!
」
 凄まじい鎖の連打がエリアスとエスメラルダに叩き付けられる。
 「や、やめて姉様っ、もうやめてーっ!!」
 ルナは泣き叫んだ。でも姉達は退かなかった。妹の身体に鎖が当たらぬ様庇い続けた。
 「い、いいのよ・・・だ、大好きよルナ・・・」
 「ま、守ってあげる・・・ボク達の大切なルナ・・・」
 「あ、姉様・・・」
 エリアスとエスメラルダは半ば意識を失いかけていた。それでもひたすら愛するルナを
守ろうとした。
 「フハハーッ、泣かせるじゃねーかっ!!オラオラもっとがんばらねーと妹がクタバる
ぜーっ!!」
 笑いながら鎖を振るうブルーザーに、3姉妹の運命が消されようとしていたその時であ
る。
 ルナの手に、何かが当たった。それは弾を入れている袋から転がった物であった。
 「・・・これは、まだ残ってたんだ・・・」
 ルナは手に当たったそれを握り締めて呟いた。
 「うう・・・」
 エリアスとエスメラルダの2人は、ルナを抱きしめたまま気を失ってしまった。
 「フン、やっとオネンネしたか。」
 エリアス達が気絶した事により、ブルーザーはやっと手を止めた。そして足で2人を蹴
飛ばすと、床に転がっているルナを睨みすえた。
 「さあ、姉貴どもは始末した。次はお前だっ!!」
 再び鎖を振り上げるブルーザー。その瞬間を狙ったかのようにルナが跳ね起きた。
 「なあっ!?」
 すばしっこく動いたルナは、ブルーザーの股下をくぐって逃げて行く。
 「おのれチョロチョロとっ、ネズミかテメエはっ。」
 「へっへーんだ。悔しかったらここまでおいでーっ。」
 追い駆けてくるブルーザーに、お尻ペンペンをして挑発するルナ。
 「小娘がぁっ、待ちやがれーっ!!」
 烈火の如く怒り狂ったブルーザーは、逃げるルナを凄い形相で追い駆ける。
 走りにかけては誰にも負けた事の無いルナだったので、逃げるのはお手の物だった。だ
が、狭い屋上での追い駆けっこはそう長く続かなかった。
 あえなくルナは屋上の隅に追い詰められてしまう。
 「ハアハア・・・手間かけさせやがって・・・」
 荒い息を吐きながら、ブルーザーはルナに歩み寄った。
 ルナのいる場所は宮殿の角になっている場所で、真後ろに逃げる場所は無い。隠れる場
所と言えば巨大な石造りの像だけだ。
 「エヘへ・・・降参、こーさん。そんなに怒っちゃイヤ〜ン。」
 ルナはワザとらしくブルーザーにウインクする。
 「ケッ、今更命乞いしても遅ぇぜ、俺にトドメをさされるか、ここから飛び降りるか、
どっちか決めるんだな。」
 「あ、やっぱりダメ?じゃあひと思いにあの世にイカせてね・・・なーんてね。あたし
がただ逃げてただけと思ったら大間違いよっ。あんたに目にもの見せてあげるわ!!」
 急に態度を変えたルナが、キッと目を見開いてブルーザーを睨んだ。
 「ああン?じゃあ見せてもらおうじゃねーか。目にものってのをよ。」
 「それじゃあ、はい、プレゼント。」
 ルナは後ろ手に隠し持っていた物を投げてよこした。
 「・・・なんだぁ?」
 投げつけられた物を手で掴むブルーザー。
 「こ、これはっ!!」
 ブルーザーの顔が硬直する。それは手投げ弾であった。
 ルナが素早く石像の後ろに隠れる。そして、ブルーザーの手から閃光が放たれた。





次のページへ BACK 前のページへ