ネイロスの3戦姫


第9話その.5 3姉妹、大反撃!!  

 「ルナ姫様っ!!」
 思案しているエリアス達の元に、10数人の若者が駆け寄ってきた。彼等は一応、鎧や
剣で武装しているが、そのいずれも御手製の物で、貧弱な体格の彼等自体、どう見ても兵
士と呼ぶには程遠い存在だった。
 「君達は何なの?」
 跪く若者達に、エスメラルダが声をかける。
 「始めまして姫様。我々は姫様親衛隊でありますっ。この程の姫様方の危機を知りまし
て馳せ参じました。」
 「ひ、姫様親衛隊?」
 エリアス達は驚いた。そんな彼女達にカーネル司令が声をかけてきた。
 「彼等は民間人なのですが、どうしても姫様方の御助けをしたいと申し出てきたのです。
実は、姫様方の今着ている鎧は彼等が作った物なんですよ。」
 「えっ、この鎧を?」
 驚くエリアスとエスメラルダ。彼女等の装着している鎧やハーフヘルメットは専門家の
作った物と変わらぬほどの出来映えであった。
 「ルナ姫様の御召し物と鎧も御用意致しました。それに陣羽織も。」
 恭しく差し出された親衛隊の手には、ルナ用の鎧と、3人の陣羽織があった。それを手
に取るルナ。
 「ありがとう、受け取るわ。でも・・・着替える場所が。」
 辺りを気にするルナ。
 「お任せください。」
 親衛隊達がルナに背中を向けた状態で円陣を組んだ。
 「あ、あは・・・ありがとう、ね。」
 少し躊躇したが、親衛隊の円陣の中で速やかに着替えを済ませるルナ。
 「もういいわよ。」
 ルナの声に、親衛隊達は円陣を解いた。そしてそこには、美しい鎧と純白の陣羽織に身
を包んだルナの姿があった。
 一同から感嘆の声が上がった。
 「綺麗だべ・・・本当の天使様みてえだべさ・・・」
 そう呟いているのはラナだった。天使様みたい。そう言ったのには訳がある。純白の陣
羽織の背中には、同じ純白の天使の翼があったからだ。
 可愛いフリルのついた陣羽織を身に纏ったルナは、まさに純真なる天使であった。
 「アハハ・・・また天使の翼か・・・」
 ダルゴネオスに天使の羽根をつけさせられていたルナは、少しだけ困惑したような顔に
なっている。
 「あの、お気に召しませんでしたか?」
 「ううん、そんな事ないよ。この陣羽織カワイイし、鎧にはガンホルダーまであるじゃ
ない。気に入ったわ、最高にね。」
 心配そうな親衛隊達に、笑顔で答えるルナ。そして人差し指に拳銃を引っ掛けてクルク
ルと回転させ、腰のガンホルダーに拳銃を差し込んだ。
 「お褒めのお言葉、真にありがとうございますっ。」
 親衛隊達は喜びの声を上げる。
 「ねえ、私達もこの陣羽織をもらっていいのかしら?」
 エリアスが尋ねる。
 「ええ、どうぞ。」
 親衛隊から陣羽織を受け取ったエリアスとエスメラルダが陣羽織を着た。高貴な紫、そ
して鮮やかな真紅の陣羽織が美しく映える。
 「まあ綺麗。」
 「カッコイイよっ、ありがとうね。」
 親衛隊達に感謝をするエリアスとエスメラルダ。それを見て親衛隊達は眼から感動の涙
を流した。
 「姫様方にお気に召して頂き、か、感激でありますっ。寝食を惜しんで作った甲斐があ
りましたっ・・・なあ、みんなっ。」
 「う、嬉しいッス。ううっ。」
 「まあまあ・・・そんなに泣かなくても・・・」
 大げさに泣く親衛隊達の手を取った3姉妹は、彼等に感謝し、労をねぎらった。
 「カーネル司令。」
 振りかえるエリアスに、カーネルは静かに頷いた。
 「ええ、参りましょう。黒獣兵団との最後の戦いにっ。」
 皆の視線の先には、黒獣兵団と激しい攻防戦を繰り広げている兵士達の姿が見える。
 「いくわよ、エスメラルダ、ルナ。」
 「うんっ!!」
 エリアスの声に、2人の妹は元気よく答える。
 そして、エリアスが用意された白馬にまたがり、駆け出していく。その後ろから、エス
メラルダとルナの跨った馬が続く。
 「エリアス姫様、エスメラルダ姫様、ルナ姫様ーっ、御武運をーっ!!」
 走り出す3姉妹にエールを送る姫様親衛隊。
 「みんなーっ、この鎧と陣羽織、大事にするからねーっ。」
 ルナが手を振りながら親衛隊達の見送りに答える。
 
 「くそっ!!またしても失敗かっ!!」
 3姉妹が激しい砲撃から生き延びた事を知り、ブルーザーは双眼鏡を地面に叩きつけて
悔しがった。
 「団長、どうか落ち着いて、ひいっ!?」
 「やかましいっ、これが落ち着いていられるかっ!!」
 なだめようとした手下が胸倉を掴まれて吊り上げられる。足をブラブラさせながら、手
下は苦しそうにもがいた。
 「だんちょう・・・は、はなして・・・」
 「ちっ。」
 ブルーザーは手下を地面に転がすと、再び連合軍に目を向けた。戦闘は拮抗状態を保っ
ており、このままでは持久戦は必至であった。
 「おい、全軍に指令だ。宮殿の前に銃撃隊を配置させて邪魔な雑魚どもは1歩も入れる
なと伝えろ。その代わり・・・3姉妹が攻め込んで来たらわざと宮殿まで引き込むんだ。
小娘どもは、この俺が直接始末してやるっ!!」
 ブルーザーは手下にそう言い放つと、傍らの机に乗せていた鎖の束を掴んだ。黒光りす
る鎖がジャラジャラと音を立てる。それはブルーザーが戦闘に使用する専用の鎖であった。
 「ふんっ。」
 ブルーザーの振りまわした鎖が机を直撃する。机は鎖の一撃で木っ端微塵に砕け散った。
 「グフフ、来るがいい3姉妹どもっ、てめえらも直にこうしてくれるぞっ!!」
 ついにブルーザーは、3姉妹との直接対決を決意した。
 
 同じ頃、最前線で指揮を取っていたネルソンが、副官であるホーネットに投石器につい
ての指示を出していた。
 「投石器はどの辺まで進めているんだ?」
 「はい、宮殿入り口が邪魔で投石器を投入できない状態でしたが、入り口を破壊した事
により、まもなく攻撃範囲まで進ませる事が出来ます。」
 「わかった、全軍に投石器が運び込まれるまでは無理な進撃を避ける様に伝達せよ。」
 「了解。」
 ホーネットは指示を受け、全部隊の隊長クラスの兵士に伝令を伝えるべく走り出した。
 「エリアス姫・・・無事だろうか・・・」
 今だエリアス達の安否を伝えられていないネルソンは、崩れた別館に目を向けて心配そ
うに呟いた。
 そんな彼の目に、白馬に跨って駆けつけてくるエリアスの姿が映った。
 「あ、あれは・・・エリアス姫っ!!」
 思わず走り出すネルソン。その彼の姿を視界に捉えたエリアスが手を振って自身の無事
を告げた。
 「ネルソン指令っ!!」
 馬から下りたエリアスは、まっすぐネルソンの元に走り寄った。彼女の無事な姿に安堵
の溜息をつくネルソン。
 「よかった、無事だったんですね。ルナ姫は?」
 「ええ、無事ですわ。」
 後ろを指差すエリアス。そこには、エスメラルダと共に馬に跨っているルナの姿があっ
た。
 「はーいっ。」
 手を振って答えるルナ。その姿から、救出劇が見事に成功した事をネルソンは理解した。
そして再びエリアスの姿を見た。
 「エリアス姫・・・」
 「・・・ネルソン・・・」
 無言のまま見詰め合う2人。
 そんな2人の沈黙の時間が、黒獣兵団の陣地から突撃してきた兵によって乱された。
 「ぬおおーっ!!どけどけーっ!!」
 暴れ馬に跨り、怒涛のごとき勢いで迫ってくる兵。連合軍兵士を蹴散らし、まっすぐネ
ルソン目掛けて突っ込んでくる。
 「てめえが指揮官かぁ!!覚悟ーっ!!」
 馬上から銃を構え、ネルソンを狙う。
 「あぶないっ。」
 ネルソンを庇うエリアス。
 「あたしに任せて。」
 不意に馬から降り立ったルナが、突っ込んでくる兵の前に立ち塞がった。
 「る、ルナッ。ダメだよっ。」
 止めようとしたエスメラルダに構わず、兵目掛けて拳銃を向ける。それを見た兵が、銃
口をルナに向け直した。
 「小娘がっ、あの世に行きやがれっ!!」
 兵の銃が火を吹く。そしてルナのハーフヘルメットを弾丸がかすめた。
 「あの世に行くのは、あんたよっ!!」
 両手に構えられた拳銃から次々弾丸が発射され、見事兵に命中する。
 悲鳴を上げた兵は馬から転げ落ち、取り囲んだ連合軍に捕らえられた。
 「見事だ・・・」
 驚きの声を上げるネルソン。
 「どういたしまして。」
 ニッコリ笑いながら、ガンホルダーに拳銃を収めるルナ。そんな妹の所にエスメラルダ
が走ってくる。
 「もうっ、心配かけさせないでよっ。」
 「えへへ、ごめんなさいネ。」
 天使のような微笑を浮かべているが、今のルナは姉達と同等の力を秘めた強き戦姫であ
った。
 「もう、私達が守るまでもないわね、あの子は・・・」
 「ええ・・・」
 エリアスとネルソンはそう呟いた。そして黒獣兵団の集結した宮殿に目を向けた。
 「いよいよだね、姉様。」
 2人の元に、エスメラルダが歩み寄る。
 「そうね、決着をつけるときが来たのよ。」
 黒獣兵団はブルーザーの命を受け、連合軍を1歩も踏み入れさせぬ様バリケードを築き
上げている。
 「姫様、全軍にご指示を。」
 後方から現れたカーネル指令が3姉妹に声をかけてきた。それに無言で頷き、3姉妹は
連合軍の前に立った。
 エリアスの太陽の牙、エスメラルダのドラゴン・ツイスター、ルナの拳銃が天高く掲げ
られた。
 そして・・・美しき戦姫達の姿が戦地に映える。
 「ネイロス、デトレイド全軍の皆、これが最後の戦いとなるっ!!最後まで戦い抜こう
っ。我等の平和の為に、そして未来の為にっ!!」
 3姉妹の声が夜明け間近の夜空に響き渡る。
 「平和の為にっ、未来の為にっ!!」
 そして連合軍の全兵士がそれに答えた。
 永き戦いの行く末は、全ての平和を信じる者達の手に委ねられたのであった。




第10話に続く

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