ネイロスの3戦姫


第9話その.4 暴君の惨めな末路  

「う、う〜ん・・・」
 ラナの銃撃を受けて階段から転げ落ちているダルゴネオスが呻き声を上げて目を開けた。
 「へ、陛下。お、重い・・・」
 ダルゴネオスの下敷きになっている家来が目を回して伸びている。
 「いい気味だわ、大人しく寝てなさいっ。」
 階段から降りてきたルナが、ダルゴネオス達を足蹴にして逃げていく。ルナを追いかけ
ようと起きあがるダルゴネオスの顔を、ラナの足が踏みつけた。
 「むぎゅ!?」
 「あう、ゆるしてくだせえ〜。」
 ドタバタと逃げるラナは、振りかえりもせず階段を降りていく。その2人の後をアルバ
ートが追って行った。
 「うぬぬ・・・余をコケにしおって・・・只で済むと思うなよっ!!」
 怒り心頭のダルゴネオスが、ハゲ頭から湯気を出しながら喚いた。
 
 「エスメラルダ、爆弾の処理が終わったわっ。」
 「本当!?やったね。」
 エリアスからライオネットが全ての爆弾を処理した事を告げられたエスメラルダは、目
を輝かせて喜んだ。
 「あとはルナを助けるだけだね。屋上に向かう場所は見つかった?」
 「はい、こっちの非常階段から上に行けます。」
 手分けして屋上へ向かう階段を探していた兵士がエスメラルダに声をかけてきた。
 「よーし、いくよみんなっ!!」
 エスメラルダは開口一発、先陣を切って階段を上っていく。
 その後をエリアスと兵士達が続いた。
 
 「早く早くっ、爆弾が爆発してしまうわっ。」
 「待ってくだせぇ、ルナ姫。」
 ラナを急かしながら、ルナは地上へと向かった。
 いつ爆弾が爆発するかもしれない・・・非情な恐怖が刻一刻と2人の背後に迫ってくる。
 「ハアハア・・・!?」
 階段の下を見たルナが突然立ち止まった。
 「ど、どうしたんだべさ・・・」
 「あれは・・・」
 ルナの顔に至上の喜びが浮かぶ。非常階段の下から、多数の兵士を引き連れた2人の女
性が駆け上がってくるのだ。
 「姉様っ・・・あねさまーっ!!」
 ルナが声を上げた。
 「ルナ?ルナねっ!?」
 駆け上がるエリアスとエスメラルダの視線の先に、天使の翼を背中につけた全裸の娘が
降りてくるのが見えた。
 それが最愛の妹である事に気がつき、2人の姉は脇目も振らずに階段を走った。
 「ルナーッ、今行くわよっ!!」
 「ルナーッ、ボクだよーっ!!助けに来たよーっ!」
 「あ、姉様ーっ!!」
 駆け寄るルナ。そしてその後ろには・・・エリアス達は目を疑った。ルナと全く同じ姿
の娘がついてくるのだ。
 「えっ?・・・ルナが2人?」
 エスメラルダが驚きと困惑の表情で降りてくる2人のルナを見た。
 「姉様ーっ、来てくれたのねっ。」
 目を丸くしているエリアス達にかまわず降りてくるルナ。その背後に、3人の人影が迫
った。
 「ルナッ、後ろっ。あぶないっ!!」
 エリアスが叫んだ。その瞬間、2人のルナに3人の人影が踊りかかった。
 「きゃあっ!?」
 「うははーっ、捕まえたぞっ!!」
 2人は同時に転倒した。そして、背後から襲ってきたダルゴネオス達がその内の1人を
取り押さえる。
 「あーっ。」
 転倒したもう1人がアルバートと一緒に転がり落ちてきた。
 「ルナッ。」
 エスメラルダが助けに走った。
 「大丈夫っ!?しっかりしてルナっ。」
 「あう・・・オラはルナ姫じゃないですだ・・・」
 「えっ?君はいったい。」
 エスメラルダは声を失った。助けたのはルナではなかった。
 「わははっ、そいつはルナの替え玉だっ。残念だったな!?」
 本物のルナを羽交い締めにしているダルゴネオスが邪悪な声を上げた。
 「天は余に味方しているようだな。お前等の負けだっ、大人しく引き下がれいっ。さも
なくばこいつの首をへし折るぞっ。」
 「ううっ・・・あねさま・・・」
 頭を捩じ上げられ、苦悶の表情のルナを見たエリアス達は悔しそうに唇を噛んだ。
 「ルナ・・・」
 エリアスは、裸にされている妹の内股に血が流れた後があるのに気がついた。それはケ
ガによる流血の後ではない。血が流れている先は陰毛を剃り落とされたルナの秘部からだ
った。
 それを見たエリアスは知った。妹が邪悪な暴君に何をされたかを。
 自分達があれほどの辱めにあったのだ、ルナも無事で済む筈がない。そう、愛する妹も
同じように陵辱されていたのだった。
 「ダルゴネオス・・・妹を・・・ルナを辱めたわねっ!?」
 怒るエリアスを見ながら、暴君は余裕で笑った。
 「んん?何を言い出すかと思えばそんな事か。そうとも、こいつの処女は余が頂いたぞ。
最高に良い具合だったぞぉ〜。ぬはは〜っ!!」
 勝ち誇った様に笑い声を上げるダルゴネオス。それを見たエリアス、エスメラルダ、そ
して後ろの兵士達の眼に激しい怒りが宿った。
 「許さないぞ・・・お前は八つ裂きにしてやるっ!!」
 「切り刻んでやるわダルゴネオスッ、覚悟なさいっ!!」
 ドラゴン・ツイスターと太陽の牙を構えるエスメラルダとエリアス。そして後ろの兵士
達も一斉に剣を抜き放った。
 「あわわ、あいつ等こっちに来る・・・どーします陛下っ?」
 迫るエリアス達に、ダルゴネオスの家来が怯えて暴君の背中に隠れた。
 「臆するなバカモンッ、こっちには人質がいるのだ。なにを恐れる事が・・・」
 ダルゴネオスがそう言ったその時であった。
 ヒュウウ・・・
 空を切り裂く音が聞こえたかと思うと、凄まじい衝撃が辺りを揺るがした。黒獣兵団の
砲撃隊が放った砲弾が、別館に着弾したのだ。
 「きゃあ!?」
 「のわ・・・コラーッ、ブルーザーッ。余がここにいるのだぞ!?やめんか・・・どわ!
!」
 ダルゴネオスの悲鳴も、轟音によってあっけなくかき消された。次々繰り出される砲撃
によって非常階段は激しく揺れる。
 「あなた達はこの子を守って。」
 エリアスは、身代わりのラナを兵士達に預けると、慌てふためいているダルゴネオス達
に向き直った。
 「お、お前たち行け!!」
 ダルゴネオスは家来達の背中を押して無理やりエリアス達に立ち向かわせる。
 「そんな、あああっ。」
 転がる様に下りてくる家来達の前に、エスメラルダが立ちはだかる。
 「邪魔だーっ!!」
 ドラゴン・ツイスターで家来達を引っ掛けると、後方に投げ飛ばした。
 「まてダルゴネオスッ!!」
 「ひええいっ。」
 エスメラルダに追い詰められたダルゴネオスは、ルナを抱えたまま脱兎の如く勢いで近
くの部屋に逃げ込んだ。
 「逃がさないわよっ。」
 後を追うエリアスとエスメラルダ。
 「のわわ・・・る、ルナがどーなってもいいのか!?さ、下がれと言うに・・・」
 「ムダな足掻きは止めるのね。」
 にじり寄るエリアス達。
 「こ、これでもか!?」
 ダルゴネオスはルナの銃を奪い取ると、頭に付き付ける。
 「こうなったら貴様も道連れだっ、覚悟せいっ。」
 ヤケクソで引き金を引く。だが、拳銃からは弾は出なかった。
 「あ、あら?どー言う事だ?」
 「・・・忘れてた。その銃には弾が入ってなかったわ。」
 「な、なんと・・・」
 ルナの声に、ダルゴネオスの顔が蒼白になる。
 「お間抜け皇帝めっ!!」
 ダルゴネオスの足をかかとで踏みつけ、逃げ出すルナ。
 「いたた、ま、またんかこの・・・のおっ!?」
 「でやああーっ!!」
 暴君の顔面に、エリアスとエスメラルダ、そしてルナのトリプルパンチが炸裂した。
 「どわ〜っ!!」
 ボーリングの玉の様に転がっていくダルゴネオス。そして転がっていった先には、ライ
オネットが沈黙させた爆弾が・・・
 「あだっ、あたた・・・」
 爆弾に直撃したダルゴネオスの耳に、チッチッチッと言う音が聞こえた。慌てて爆弾を
見る。なんと、爆弾の時限装置が動き出しているではないか。
 「ひ・・・ひいいええ〜っ!!」
 「たいへん・・・逃げるのよっ!!」
 エリアス達はダルゴネオスを見捨てて部屋から逃げて行った。
 「おおい、待ってくれっ。まっ・・・」
 逃げようとしたダルゴネオスの後ろで、カッと閃光がきらめいた。
 ドオオオンッという爆音が響き、ダルゴネオスが尻から煙を上げて吹き飛ばされる。
 「ひょええ〜。」
 そして別館の下にあった茂みの中へと落ちて行った。
 「あそこだっ。」
 ダルゴネオスの落ちた場所にデトレイド軍兵士が群がった。茂みの中には、ボロボロ状
態の暴君が伸びている。
 「お、おお〜。」
 「しぶとい奴め、まだ生きてるぞ。」
 兵士達は暴君を掴んで揺り起こした。彼の目にデトレイドの兵士達が映る。
 「大丈夫ですか陛下。」
 「おお、お前達・・・た、たすけてくれ・・・」
 「ええ、お助けしましょう、なんてね・・・積年の恨み、思い知れーっ!!」
 「どわっ!?いて、や、やめれ・・・ひいえ〜!!」
 恨み辛みの積もった兵士達によって、哀れダルゴネオスは袋叩きにされた。
 
 「団長、ダルゴネオス皇帝が叩きのめされてます。助けますか?」
 双眼鏡で様子を伺っていたブルーザーの手下が声をかけてきた。
 「ふん、もうバカ皇帝に用はない、放っておけ。それよりまだ別館に3姉妹が残ってい
るか?」
 「はい、非常階段を降りています。」
 「そうか、絶対に3姉妹を逃がすんじゃねえ。砲弾の餌食にしてやるんだっ。」
 ブルーザーの命令によって、更に激しい砲撃が別館に繰り出された。
 
 その頃、ルナを助け出したエリアス達は、別館の下にまで逃げ延びていた。
 「ブルーザーの奴・・・砲撃でボク達を潰すつもりだな!?」
 容赦ない砲撃に、ルナを背負っているエスメラルダの足が止まった。
 「全力で走るわよっ。」
 エリアスが皆に声をかけた。
 「ま、待ってください・・・」
 別館内を走り回って疲れているライオネットの足元がふらついている。このままでは砲
撃から逃れられない。
 「しっかりして男爵っ、それっ。」
 兵士達が一斉にライオネットの体を持ち上げた。そして全員一斉に別館から逃げていく。
 その直後、幾筋もの光跡が別館に集中し、別館の側面が轟音を上げて壊れた。
 「わあああ〜っ!!」
 ライオネットの悲鳴が轟音に混じって響く。そして爆煙が背後から迫ってきた。
 「姫さまーっ!!」
 砲弾による集中攻撃を見たネイロス軍兵士達が、悲痛な叫びを上げた。エリアス達の姿
が完全に見えなくなったのである。
 「どうか・・・ご無事で・・・」
 祈る兵士達。すると、爆煙の中からエリアス達一行が駆けてくるのが見えた。
 「やったっ、姫様達はご無事だぞーっ!!」
 兵士達の間から歓声が上がった。
 「あはは・・・よかった、助かった〜。」
 砲撃から逃げ延びたエスメラルダが、思わず地面に座り込んだ。
 「ハアハア、危なかったわね・・・」
 エリアスも荒い息をついている。まさに間一髪であったのだ。
 「ルナ・・・」
 エリアスとエスメラルダは、安堵の顔で妹を見ている。
 「姉様・・・」
 2人の姉の顔を見たルナの眼から涙が溢れた。
 「姉様、あねさ・・・あねさまーっ。」
 「辛かったでしょう、悲しかったでしょう・・・もう安心、だから・・・ね。」
 ルナは姉達の胸に飛び込んだ。そして声を上げて泣きじゃくった。エリアスもエスメラ
ルダも、妹を抱きしめて泣いていた。ようやく果たされた3姉妹の再会の時であった。
 「あの、ルナ姫。」
 抱き合う3人の前に、ダルゴネオスによってルナの身代わりにされていたラナが姿を見
せた。
 「これ、お返ししますだ。オラが持っててもしょうがねえべさ。」
 ラナは借りていた拳銃を手渡した。
 「あなたは・・・驚いたわね、ルナそっくり・・・」
 余りにも似すぎているため、実の姉達ですら見分けがつかないほどだった。恐らくはダ
ルゴネオスがデトレイド国中から探させて連れてきたのであろう。彼のルナに対する執着
心が伺える。
 「ウォンッ。」
 これもいるだろう?ラナの横からゴムの弾丸を入れた袋を咥えたアルバートが出てくる。
 「ありがとうね。」
 アルバートの頭を撫でながら、ルナは袋を受け取った。これでルナの手元に、2丁の拳
銃とゴムの弾丸が戻って来たのであった。
 「よーしブルーザーめ、これでやっつけてやるわっ。」
 拳銃を手に意気込むルナ。だが、心配したエリアスはそんなルナを止めた。
 「ルナ、あなたはもういいわ。後は私達に任せて、ネイロスに戻りなさい。」
 だが、ルナは首を横に振った。その顔には、自分もネイロスの戦姫なのだ、姉達と最後
まで戦うのだという決意があった。
 もはや彼女の決意を覆す事は出来なかった。
 しかし、ルナには装備する鎧はない。エスメラルダに渡された黒いマント以外身につけ
ていない彼女に、身を守る装備はなかった。
 「ルナ、悪いけど諦めて・・・」
 エリアスがそう言いかけた時であった。






次のページへ BACK 前のページへ