魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫19)


  第87話 悲運の男レッカード、再起する?
原作者えのきさん

 ガルダーン帝国の首都が消滅した頃、ガルダーンに因縁を持つ1人の男が、野望を胸に
行動を起こしていた。
 険しい山を、多くの兵を引き連れて男は進む。
 「いいかお前らーっ、もうすぐライザック領だっ、気合入れて進めーっ!!」
 「おーす。」
 男の気勢に反比例して、兵士の掛け声に覇気がない。慣れない山登りに疲れているのだ。
 彼等の進んでいる場所は、ノクターン王国の北方にあるライザック領。険しい山々に囲
まれた地域だ。
 疲れている兵士の尻を叩き、野望達成へと進むこの男・・・
 彼の名はレッカードと言う。
 
 レッカードは元々、ガルダーン軍を指揮する将軍の1人で、ノクターンの首都フォルテ
を陥落させた人物なのだが、ライバルだったゲバルドに妨害工作をされ、さらには元上官
のガルア将軍に手柄を横取りされ、挙げ句にはグリードル帝に見放されて帝国を追いださ
れた悲運の男である。
 そんな彼は、自分をコケにしたガルダーンの者達を見返す野望を懐いていたのだが、つ
いにその野望を遂げるべく動いた。
 野望への切っ掛けとなったのが、ノクターン攻略直前に、グリードル帝が募った新しい
ガルダーン軍兵士の招集であった。
 兵員招集の用紙は広範囲に送られ、主にヤクザやチンピラが招集に応じた。
 用紙は地方で燻っていたレッカードの手元にも届き、再起のチャンスをもたらした。
 だが、単に軍への復帰を果たしても、コケにした連中への復讐は遂げられない。グリー
ドルの度肝を抜くような事をして、自分の有能さを知らしめる必要がある。
 彼は腕の立つ傭兵を雇い、奇襲戦法でノクターンを攻め、マリエルを手土産にガルダー
ンへと華々しく馳せ参じるつもりだ。
 グリードル帝が最も求めているのはマリエル王子の首だ。それを一番に奪取したとなれ
ば、グリードル帝も認めざるをえないはず。
 多くの傭兵を引き連れたレッカードは今、ノクターンの北方領ライザックにいる・・・
 
 ガルダーン軍に追い詰められたノクターン王国は、敵の攻め込みにくい山岳地帯のライ
ザックに逃れていた。
 レッカードは、正面から攻めて来るであろうガルダーン軍との抗戦に備えているノクタ
ーン軍の虚をつき、背後から攻め入ろうとしている。
 だが山岳地帯は思ったより険しく、疲れた兵士が文句を言い出した。
 「レッカードさん、本当にこのルートが一番の近道ですかぁ?」
 先頭を進むレッカードは、自信満々の顔で返答する。
 「絶対に間違いないっ、この地図を見てみろっ、南に真っ直ぐ進めばライザック領だ、
俺はノクターンの地理に詳しいんだぞ!?」
 地図を指差して力説するレッカードに、兵士達は内心不安を懐いた。
 「そりゃあ、地図上では近いでしょうけど・・・山の高低差を考えれば迂回した方が早
いと思いますよ。」
 「アホ言えっ、迂回してたら奇襲の意味がないだろっ。誰も攻めて来るはずのない山か
ら急襲する、これが奇襲戦法って奴だ。ガルダーンで智将と呼ばれた俺の作戦は完璧なん
だぜっ。」
 「智将?恥将の間違いじゃねーかなあ・・・」
 無論、レッカードが智将などと呼ばれていた事実はなく、呆れた顔で兵士達は呟いてい
る。
 その懸念は無理もない。うだつの上がらぬ印象のレッカードを見れば、誰もが不安を懐
かざるをえない。
 兵士の不平を解消すべく、レッカードは声を上げる。
 「この作戦に成功した暁には、グリードル帝様からたっぷりと恩賞をもらえる。金も地
位も女も思いのままだ、わかったらいざ進め〜っ!!」
 「はぁーい。」
 相変わらず士気のない返事をする兵士だったが、当のレッカードは野望達成に意欲を燃
やしている。
 「むふふ〜、今に見てろグリードルめ〜、俺様の有能さを存分に知らしめてやるっ。で
もって元帥の地位を手に入れて、俺をコケにしやがったガルアやズィルクのくそジジィを
コキ使ってやるからな〜っ、待ってろよお〜。」
 わははと高笑うレッカードだったが・・・
 しかしこの男、とことん幸運の女神に愛想を尽かされていると思える。
 実は・・・すでにノクターン軍は、ガルダーン軍の侵略がなくなったのを機にマリエル
王子を伴ってライザックを去っていた。それだけではない、レッカードの手にした兵員招
集の用紙は、印刷ミスで兵の集結日が間違っており、兵の集結はとっくの昔に終わってい
る。
 これだけでも運がないと言えようが、さらに悲劇的なのは、レッカードの栄光を讃えて
くれるはずだったガルダーン帝国が、戦女神の手で消失してしまった事だ・・・
 運の悪いレッカードは、何も知らぬまま困難な山岳を進んでいる。そして・・・彼の今
いる場所に、最悪の悪夢が牙を剥いて待ち構えていた。
 この秘境の地には、恐ろしい魔神が潜んでいるのだった・・・


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