魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫19)


  第88話 ノクターンの真の仇敵、伝説の魔神が蘇る!!
原作者えのきさん

 ライザック領への進行を急いでいたレッカードだったが、兵士の疲れはピークに達して
おり、歩みは遅々として進まない。
 山の中腹まで進んだ兵達は、とうとう音を上げてしまった。
 「あ〜、疲れた。もう進めませんよぉ。」
 「ったく、根性無しめ。このままじゃマリエルに逃げられるじゃねーか。」 (とゆー
か、すでに逃げられてる☆)
 ブツクサ言いながら兵達に背を向けるレッカード。
 「俺はクソしてくる、それまで休憩だ。」
 森の中に入るレッカードを見た兵達は、暫しの休憩をとる。
 「あいつの言う通りにして大丈夫かな?心配だぜ。」
 「まあ、ここまで来たら引き返せねえしな。ライザックに乗り込んでマリエルをゲット
しようぜ。」
 「そうなったら・・・レッカードは用無しだな、奴はどーする?」
 「適当にポイすりゃいいだろ、それまで道案内でもしてもらうさ。」
 早くもレッカードを見捨てる算段を巡らせている兵達は、自分達の休憩している場所が、
普通の岩場でない事に気付く。
 その場所は、明らかに人工的なものだった。
 石のレンガを積み上げて造った巨大な建物の上に、彼等は休んでいたのだ。建物は土砂
崩れで半分埋まっており、兵の座っている場所は屋根の部分と見受けれる。
 「なんだこれは・・・城か?」
 「て言うか、なんでこんなとこに建物が?」
 人も獣も住まない険しい山に、埋もれた状態で存在する謎の建物・・・
 建造されたてから、相当の年月が経過していると思われる。地表に出ている部分は、風
雪によって削られ、荒々しい様相を呈している。
 それに・・・これが住居を目的に造られた建物でない事もわかる。建物は余りにも殺風
景で、まるで憎悪の塊でも封じているかのような毒々しいオーラが滲み出ている。
 建物を見ていた兵の1人が、一カ所だけレンガの崩れている所を見つけた。
 「ここから入れるみたいだぜ、ちょっと見てくる。もしかしたら・・・埋蔵金が眠って
るかもよ☆」
 「ま、埋蔵金っ!?お、俺も行くぞっ。」
 埋蔵金と聞いて目を輝かせた兵達は、我先に建物へと乱入した。この建物が、恐ろしい
伏魔殿であるとも知らずに。
 間もなく、建物の中から絶叫が響き渡り、そして静寂に戻る・・・
 
 兵達が建物に消えてからしばらくして、用を足したレッカードが手を拭きながら現れた。
 「ふ〜、スッキリした。そろそろ出発するぞ・・・って。あれっ?」
 驚いて辺りをキョロキョロ見回す。大勢いた兵達が、1人残らず消えてしまったのだ。
 「あいつら〜っ、トンズラしやがったな〜っ!!」
 憤慨して喚いたレッカードも、怪しげな建物の存在に気付く。
 建物の一角が崩れており、そこに多数の足跡がある。兵達がここへ入ったのは明白だ。
 「まったく何やってんだか。道草食ってる暇はねえってのに・・・」
 兵達を呼び戻そうと、レッカードも・・・伏魔殿に足を踏み入れた。
 建物の中は真っ暗で、一寸先も見えない。なんとかライターの火を灯にして先に進む。
 壁や天井を僅かに照らす灯によって、内部の状況が辛うじて把握できる。内部もレンガ
造りで、かなり広い。
 「おお〜いっ、みんなどこにいるんだ〜っ?返事しろ〜っ。」
 大声で問いかけても、声が内部に響くのみ。
 内部は異様だった。まとわりつくような湿気に加えて吐き気のする生ぐさい臭い、そし
て靴底がネチャネチャする不快な感触・・・
 引き返そうかと考えたが、帰り道がわからなくなった。
 「え〜っと・・・どっちに行けばいいんだ?」
 右往左往するレッカードの足に何かが当たって、それがゴロリと転がった。
 「い、今のわ・・・どわああ〜っ!!」
 絶叫するレッカード。足元に・・・兵の生首が転がっていたのだ!!
 床一面に、血塗れの兵達が散乱している。そして、暗闇から唸り声が響いてきた。
 全身の血を搾り取られるかのような恐怖に捕らわれ、レッカードはガタガタ震えた。
 「あ、あわわ・・・なんだよ一体・・・ひえっ!?」
 暗闇がユラリと動く。それは巨大な人影だった。邪悪な意志が人の姿に変化している魔
物であった。
 ざらつくような闇の声が、地獄の底から響いてきた。
 『・・・グオウウ・・・血ダ・・・久シブリノ肉ダアア・・・』
 グチャグチャと肉を貪る音がする。兵を餌食にしているのだ。
 震えるレッカードの手からライターが滑り落ち、漏れたオイルに火がつく。
 赤々と燃える炎に照らされ、魔物の恐ろしい顔が映し出される・・・
 それは正に悪魔・・・恐怖そのものだった、あらゆる者を地獄に引き込む邪悪の化身だ
った!!
 『・・・我ガ名ヲ聞ケ・・・ソシテ恐怖セヨ・・・我ノ名ハ・・・バール・ダイモン!!
最強ノ魔神ナリイイッ!!』
 凄まじい咆哮を上げる魔神。
 魔神に怯えるレッカードは、その名を聞いて更に恐怖した。
 「・・・ば、バール・ダイモンだって?ま、まさか・・・そんなまさかっ。」
 彼は魔神の名を知っていた。その頭上に残虐な爪が振り下ろされる!!
 『貴様モ餌食ニナレ〜ッ!!』
 「ま、まってくれ!!あんたはノクターンの伝説の魔神かっ!?」
 レッカードの叫びに、魔神の爪がピタリと止まる。
 寸前で助かったレッカードが、ヘナヘナと座り込んだ。そして魔神は笑う。
 『フッ・・・ワシノ事ヲ知ッテイルトハ・・・如何ニモ、ワシハ伝説ノ魔神ダ・・・ノ
クターンヲ恐怖デ支配シタ魔神デアルゾ〜。』
 ノクターン王国に伝わるアンジェラ伝説。その仇敵として登場する魔神の名前・・・そ
れがバール・ダイモン。
 伝説が史実と知り、レッカードは驚愕の表情を浮かべた。
 「あ、ありえねえ・・・魔神が本当にいたなんて・・・で、でも伝説では戦女神アンジ
ェラに倒されたって・・・ひえっ!!」
 レッカードの足元に魔神の拳が叩きつけられる。
 『・・・アンジェラ・・・アンジェラァァァ〜ッ!!ソノ名前・・・忘レタ事ハナイイ・
・・ワシハ、奴ニヨッテ封ジラレタ・・・オオオ・・・憎イ・・・憎イイイ〜ッ!!』
 倒され、ここに封じられた恨みを募らせ、魔神は更に吠える。
 この建物は、伝説に登場する初代アンジェラが魔神を封じた場所だったのだ。
 しかし・・・封じてから幾百年、誰も訪れぬ場所にレッカードは足を踏み入れてしまっ
た。そして魔神を目覚めさせてしまった!!
 レッカードの運の悪さは天下一品であった。全て裏目にでてしまう彼の運勢が逆になれ
ば、世界の支配者にもなれるだろう。
 だが、運の悪い者ほど無駄な足掻きをしてしまうものだ。そして更に悪い運勢を招いて
しまう。
 レッカードは、無謀にも魔神バール・ダイモンに頭を下げた。
 「あんたを最強の魔神と見込んで頼みがあるっ。俺を手下にしてくれっ!!」
 助かりたいがための必死の懇願であった。そんな土下座するレッカードを見て、バール・
ダイモンは目を吊り上げる。
 『手下ダト?貴様ゴトキガ役ニ立ツトハ思エヌガナ。』
 嘲るような口調のバール・ダイモンをチラリと見ながら、レッカードは懸命に自身を売
り込む。
 「や、役に立つぜっ。あんたは長い間眠っていたから、外の情報も知らないだろう?情
報を全部教えるよ。それに・・・あんたが憎んでる戦女神アンジェラの事もさ・・・」
 アンジェラとの言葉に、バール・ダイモンは強く反応した。
 『ヌウウウ〜ッ!!アンジェラハ生テイルノカ〜ッ!!ソウカ・・・ナラバ奴ノ情報ヲ
教エルガ良イ、奴ハ何処ニイルッ!?』
 尋ねられ、出任せを語るレッカード。
 「あ、アンジェラはノクターンを守るため、ガルダーン帝国と戦ってるんだ。ノクター
ンは劣勢でね、ガルダーンに協力して復讐を遂げればいいじゃないか。」
 『ガルダーン?アア、アノ弱小国カ。』
 「昔はね、今は最強国さ。」
 バール・ダイモンが自分に協力してくれそうな雰囲気になり、レッカードは安堵する。
 「どうにか俺の言葉を信じてくれたな・・・もしかしたら俺はツイてるかも・・・うま
くいけば魔神の力を利用して、俺がガルダーンの王になれるかも〜☆」
 助かるだけで満足すればいいものを、余計な欲を出してしまう。
 「なあ、最終的には世界を征服するつもりだろ?世界征服したら、俺を・・・ガルダー
ンの王にしてもらえるかな?もちろん、その分は忠誠を尽くすよ。」
 それを聞いたバール・ダイモンは、意味ありげに薄笑うと、手をレッカードに差し出し
た。
 『ヨカロウ、ソノ忠義ニ免ジテ貴様ヲ手下トシテ迎エヨウ。ガルダーンナドト、ケチナ
事ハ言ワン、世界ノ支配者トシテ君臨サセテヤルゾ。』
 「ほ、本当にっ!?世界の支配者にして・・・くれ・・・れっ?」
 喜んだレッカードの顔が、急に苦悶に変わる。バール・ダイモンの手が、レッカードの
手と同化したのだ。
 悪魔の黒い手は、ズブズブとレッカードを乗っ取って行く。
 「ひいいいっ!?や、やめてくれっ・・・うわああ〜っ!?」
 『ヤメテクレダト?クックック・・・貴様ヲ世界ノ支配者ニシテヤロウト言ウノダ、遠
慮ハスルナ。タダシ・・・ワシノ体トシテダガナ、ワッハッハ〜ッ。』
 「そんなのいやだ〜っ!!誰か助けて〜っ!!」
 レッカードの哀れな悲鳴が響くが・・・それを聞く者は1人もいない。ここは無人の山
岳地帯だったから・・・ 


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