魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫17)
第75話 震えて刮目せよ、虐げられし者の逆襲を
原作者えのきさん
貴族の1人が、自分の屋敷に向って走っている。欲深い金の亡者たる彼は、屋敷に大切
な財産を溜め込んでいるのだ。
「うおお〜、わ、わしの屋敷と財産は無事か〜!?」
異常ない自分の屋敷を見て大喜びした、が・・・
「よかった〜っ、わしの屋敷が無事だったぞ〜。ばんざ〜・・・いっ!?」
屋敷に足をふみ入れた途端、建物に巨大な口が出現し、屋敷の主人は一瞬で肉塊にされ
てしまった・・・
その近くでは、大量の宝石モンスターに追いかけられる年若い貴婦人の姿があった。
「だ、誰かお助けくださいませ〜っ。わ、わたくしを食べないで〜っ!!」
派手な化粧の貴婦人を追う宝石モンスター。小さいながらもピラニアの如き凶悪さで迫
ってくる。
貴婦人はドレスの裾を踏み、何度も転びそうになる。
「あ〜ん、邪魔ですわねっ。逃げれませんわっ。」
すると、どこからか声が響く。
『・・・綺麗なドレスが邪魔なの?だったら脱げばいいじゃない・・・』
「何を仰いますのっ、このドレスは高かった・・・って・・・えっ!?」
我に返った若き貴婦人はギョッとする。なんと、ドレスに恐ろしい顔が浮かび、それが
笑いながら喋ったのだっ!!
「ひいいっ!?こ、これわ・・・ジェニファー!?」
ドレスの胸元に浮かぶ顔は、知っている顔だった・・・絶対に忘れられぬ怨念の顔だっ
た。
『・・・うふふ、私を覚えてくれてたの?うれしいわ・・・忘れるはずないわよね?あ
なたの手で地獄に送った女の顔ですもの・・・』
怨敵に復讐するドレスの顔は、呪詛の声を上げ、卑劣な貴婦人を睨む。
『・・・あなたの罠に嵌まり、私の家族は処刑されてしまったの・・・そして私は・・・
奴隷市場に売られて・・・辛かったですわ・・・悔しかったですわ・・・今こそ、恨みを
晴らしてあげるわっ!!』
ドレスは強固な拘束具と化し、憎き貴婦人の自由を奪う。はがい締めにされ身動きのと
れない貴婦人の前に、先程の宝石モンスターがワラワラと集まる。そして、大量の宝石が
合体し、恨みの輝きを放つジュエル・クリーチャーへと変貌した!!
ジュエル・クリーチャーの股間に、とてつもなく固い、ダイヤのイチモツが凶悪に輝い
ていた。キャミソールとズロースを身につけただけの姿で動けない貴婦人に、怪物は邪笑
いを浮かべて迫る。
『ギゲゲッ、オマエヲ犯シテヤル〜ッ。俺様ノ、ダイヤモンド・コックデナアアア〜ッ!
!』
「や、やめて、ゆ、ゆるしてジェニファ〜ッ。た、たすけてえええ〜っ!!」
『・・・うふふ許してあげない☆さあ、汚されるがいいわ・・・私が犯された時のよう
にね・・・』
「あ、ああっ。ひいいい〜っ!!」
ダイヤモンド・コックで秘部を貫かれ、貴婦人は闇に堕ちた・・・
首都が地獄と化した時、肥え太ったマダムは自分の屋敷で、買い取った双子美形姉弟
(正体はゴーレム)をイジメていた。
脂肪が余っている体には窮屈なボンテージスーツ(!!)を着て、ムチとロウソクを手
にしているマダムが、外の騒乱を聞いて怪訝な顔をする。
「なんざーますの?騒がしいざますわね〜。」
窓を開けると、そこは・・・地獄だった。
マダムの顔が恐怖に染まる。腰を抜かしてオロオロするマダムに、イジメられていた姉
弟が歩み寄ってきた。
「どうしたのですかご主人様・・・」
「ど、ど、どーしたもこーしたもないざーますっ!!お、お、おばけが・・・みんなを
食べてるざます〜っ!!」
そのうろたえるさまに、双子美形姉弟は薄笑った・・・
「お化けって、こんな顔してませんかマダム・・・」
暗闇に浮かぶ可愛い顔・・・その口が耳まで裂け、目が鋭く尖った!!
「ひぃえええ〜っ!?わ、わたくしの可愛い双子ちゃんがああ〜、お化けになったざ〜
ま〜す〜っ!!」
ムンクの叫び状態になるマダム。そして部屋が鋼鉄の牢獄と化し、暗闇から、今までマ
ダムにイジメられた多くの美少年と美少女が現れた。
『・・・ウフフ・・・今度はマダムがイジメられる番ですよお・・・』
「あ〜れ〜っ!!イジメられるのイヤざます〜っ!!」
きらめく牙と爪・・・そして悲鳴は絶叫に変わった。
首都のあらゆる場所で、同じような絶叫が響き渡っていた・・・
首都は阿鼻叫喚地獄となった。
その様子は、城で逃げに転じていたグリードルも目にする事となる。
城の上階で、暴君は瞬きもせずに地獄の光景を見つめている。
「・・・とうとう始めやがった。腐りバケモノどもが・・・好き勝手しやがって!!」
首都に(偽)ガルダーン兵士達が現れてから、彼は兵士達の猛攻を予期していた。それ
がついに始まったのだ。
怒りに震えながら、怯えうろたえる手下どもに叱咤する。
「おい、てめえらっ!!地下道の様子はどうだったんだ!?脱出できるルートは確保で
きたのかっ!?」
心ならずも、逃げに回らねばならなくなった彼は、郊外へ出る逃げ道を探させていた。
しかし・・・土下座している手下の報告は絶望的だった。
「も、申し訳ありません帝様・・・どの地下道も逃げ道も、全て潰されてます。我々は
袋のネズミです・・・」
「ふん、やはりそうか。」
絶望の言葉を聞くも、冷徹な暴君は寡黙に、そして冷静に事態を受け入れる。
チェスの名手は、相手の動かす駒の動きを、数十手の先まで予測すると言うが、狡猾な
グリードルもまた、敵の動きを先読みしていた。
今までの敵の動きを察すれば、あらかじめ逃げ場も塞いでいるであろう事も、予測の範
囲内だったのだ。
グリードルは、逃げ道が塞がれている時の対処法を考えていた。
城は敵に包囲されているが、どこかに兵力の薄い箇所があるはず。そこを残った手駒で
突貫するしかないとグリードルは考えた。
すでに、攻撃の駒である兵士と、ナイト、ルークであるガルア、ガラシャは潰されてい
る。できるだけ強い手駒を必要としたグリードルは、手下に尋ねる。
「ズィルクはどーしたっ?あのエロジジィ、まだ姫君楼で遊んでやがるのか?」
だが返ってきた返答は、先程の報告より暴君を失望させた。
「そ、それが・・・ゴーレムが暴れ出す直前に、何者かによって姫君楼が破壊されたそ
うです。お、おそらく・・・ズィルク様も・・・」
「なぁにぃ〜、ズィルクもやられたのかっ!?」
グリードルは、とうとうヴィショップである、参謀のズィルクまで失ってしまった。
残る手駒は・・・クィーンどころか、ポーン(兵士)にも及ばないほど役に立たない連
中ばかりだった。
「くそったれっ、俺は諦めんぞ・・・俺の首を直接狙わなかった事を、とことん後悔さ
せてやるぜっ!!」
暴君は吠えた。キングを潰さなければ、チェスに勝利はない。つまり、グリードルが健
在である限り、ガルダーンは敗北していないのだ。
たとえ1人になろうとも、敵の将の喉笛に喰らい付き、完全勝利を納める・・・それが
暴君グリードルの信念であり、勝利の掟だ。
徹底抗戦を唱えるグリードルは、怯えている役立たずの手下どもに指令を飛ばす。
「城に残った兵力は、全て西地区に集結させてるだろーなっ?」
「え、ええ。ご命令通りに致しております。し、しかし・・・ゴーレムが暴れ出す前に、
兵を護衛につけて逃げていた方が安全だったのでは・・・?」
「敵の狙いは俺の首だ。ゴーレムが暴れる前に俺が逃げれば、全部のゴーレムは俺に向
ってくるだろう。だがゴーレムどもは貴族達を餌食にするのに専念している。つまり、今
こそ突貫の好機ってわけよ。」
ゴーレムの兵力が散漫している今が、脱出のチャンスと先読みしていたグリードル。そ
の逆の発想に納得した手下達だったが、臆病な彼等は暴れるゴーレムの軍勢に立ち向かう
勇気はない。
「わ、私達も戦うのですか?そ、そんな事は・・・」
「やかましいっ!!生き残りたければ黙って俺について来いっ、わかったか腰抜けめっ!
!」
「は、はい〜。」
問答無用の暴君には、従うしか道はない。渋々抗戦の準備をする手下達であった。
狡猾な頭脳を駆使し、攻め来るであろう敵の動きを読むグリードルだったが、悪魔の術
を使う正体不明の敵に、激しく心を乱されていた。
敵は一体・・・何者?
それを考えて行けば、最終的に、ある人物に突き当たる。自分を最も憎んでいた、ある
人物に・・・
(そいつ)はすでにいない、はず・・・だが、もし・・・悪魔の力を身につけ、地獄か
ら蘇っていたとしたら・・・
邪悪な暴君の心に、狂おしい恐怖が襲いかかる。
度数の強い酒をガブ呑みし、恐怖を振り払うグリードル。しかし、ガルアもガラシャも、
ズィルクまでも失った不安により、恐怖がさらに増加する。
それでも敵意だけは衰えていない。彼の生への、そして勝利への凄まじい執着がそうさ
せているのだ。
どんな手を使っても勝利してやる・・・ただそれだけが、暴君の支えであった。
そして、勝利を完全に失った時、それが暴君の絶対的な破滅の時なのであった・・・
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