魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫17)
第74話 飽食を貪った者達に、裁きの時は来る
原作者えのきさん
怒れる戦女神の復讐により、悪行を重ねた者共は、悲鳴だけを残して消えてゆく・・・
刑を執行され、断末魔の刹那に悪党は、何を思ったろうか?
罪の懺悔か、虐げた者への謝罪か・・・
彼等は美しき処刑人を前にして、ただ恐怖に震え、許しを請い、泣き叫びながら地獄へ
と転落する。それにより、虐げられた者の怨念は消え、恨みは無に帰す。
戦女神は、憎悪の全てを背負い、悪しき者共に天誅を下す。
最後に刑の執行を受ける者の名は、悪の暴君グリードル!!
全ての憎悪を背負った戦女神の復讐劇は、クライマックスを迎える・・・
狂喜乱舞・・・今のガルダーン帝国の首都は、この言葉こそ相応しい状況と言えるだろ
う。
広場に蒔かれた金銀財宝の山。それに群がる貴族達・・・
「こ、この金は俺のだ〜っ!!誰にもやらんぞっ!?」
「むむっ、子爵たる私を差し置いて抜け駆けするな無礼者〜っ!!」
「あ〜ん、そのティアラは私のですわ〜っ、横取りしないで〜っ。」
両手に、ポケットに、革の高級バックに・・・溢れるほど手にしながら、他の者を押し
退けて尚も集め続ける。それは浅ましいとしか言いようがなく、貴族としての高貴さなど
微塵もない。
そして、そんな騒乱の周りには、品の良い笑顔を振りまく(外見はチンピラの)ガルダ
ーン兵士の姿がある。
しかし、貴族達を見る兵士達の目は、どこか人形染みていた。微笑んでいるのに、微笑
みの感情が全く感じられない。ただ笑っているだけなのだ。
感情が感じられないのは当然だ。彼等は本当に(人形)なのだから・・・
でも貴族達は兵士の異常な雰囲気など気にもしていない。相変わらず財宝の収拾に熱中
している。
貪欲を露にし、目の色を変えて財宝を奪い合う彼等は、周囲で刻々と進む異変に全く気
付かない。姫君楼が大音響と共に倒壊した事も・・・わからない・・・
そして・・・恐るべき異変が自身に襲いかかる事も・・・
その日の空はどんより曇っていた。
鉛色の雲が陰鬱に垂れ込め、全てを覆い尽くしている。まるでガルダーンの首都を飲み
込むが如く・・・
首都の町外れに見張りの高台がある。
見張り台から望む景色は絶景であった。首都や周囲の状況が手に取るようにわかる。
外敵からの進攻を監視する見張り台なのだが、肝心の監視人は頭にコブを作った状態で
床に伸びており、監視人を気絶させたと思われる犯人が佇んでいた。
スキンヘッドに陰険な目付きの男・・・魔界の魔道師は、絶景の彼方から迫ってくる黒
い影を見つめていた。
首都の周囲、360度全方向から、漆黒の影が鉛色の雲を押し退けて突き進んでくる。
それは明らかに意志を持っていた。それも・・・恐ろしく残忍な怨念を帯びている。
巨大な黒い影を見ている魔道師の口から、不気味な呪文が呟かれており、それに導かれ
るが如く、黒い影が首都に迫る。
そして魔道師は、両手で天空を仰ぎ、カッと目を見開いた!!
「彼の地を彷徨いし恨み深き悪霊よ、虐げられし者の怨念よっ、怒れる魂よっ!!今こ
そ全ての恨みを晴らす時、奪われた全てを取り返す時ぞっ。我が声に応え、いざこの地に
集えっ!!」
凄まじき雷鳴が轟き、稲妻が高台の屋根を吹き飛ばす。
屋根を失った見張り台に、不動の姿勢で立つ魔道師。彼は朗々と呪文を唱え、黒い影を
導く。
その姿・・・まさに人の知らざる世界から来た者・・・
陰険な顔に歓喜の悦びが浮かぶ。
「おお、素晴らしい・・・実に素晴らしいっ!!狂おしき憎悪、虐げられた悲しみ、破
滅的な怨念っ。これほどの負のエナジーが集えば、さぞ美しい悪滅の花火を打ち上げてく
れるでしょう。さあさ、早く集結するのですっ!!」
見張り台の床で伸びていた監視人が、異様な気配で目覚め、怯えた眼で魔道師を見つめ
た。
「あ、あわわ・・・お、お前なんだよ・・・何してンだよ・・・やいっ、答えろハゲ坊
主っ!!」
恍惚とした魔道師の顔が急に険しくなる。そして鋭い眼で監視人を睨んだ。
「・・・よくも私の楽しい一時を邪魔してくれましたね・・・それに、さっきから言っ
てるでしょう。私の頭はハゲじゃなくて剃ってるだけだと。目障りですよ、大人しく寝て
なさい。」
魔道師の指がパチンと鳴り響き、監視人が魔力で吹っ飛ばされる。
手足をバタバタさせて転落する監視人を疎ましく見ていた魔道師は、再び悦びの表情を
浮かべて首都を見る。
「ククク・・・もうすぐ歓喜が絶叫に変わる・・・バカ貴族どもの悲鳴も、オイシイ爆
破エネルギーとなるでしょうね・・・ムフフ。」
悪霊や精神的な負のエネルギーを集約し、怨念の悪霊大爆発を起こす(魔道爆弾)・・・
それを首都にて炸裂させようとしているのだ。まもなく・・・首都は壊滅する・・・
最初に上空の恐るべき異変に気付いたのは、戦女神の復讐を受け、貴族達の前でさらし
者にされていたアントニウスとブレイズだった。
呪いの舞いによって強制的にフリ○ンダンスをさせられているアントニウスと、アリエ
ル姫の凌辱像に挟まれ身動きのとれないブレイズの2人。
心無い貴族達にイジメられ、ボロ雑巾状態の彼等の視線が、なにげなく空を見上げた時
であった。
生暖かくも不気味な風が吹き、日の光が閉ざされる。
アントニウス達は見た。日食のように太陽が黒い影に喰われ、その黒い影が、恐ろしい
邪笑いを浮かべたのを・・・
恐怖に顔を引きつらせ、ブレイズは尋ねる。
「ね、ねえアントニウス君。今の見たでやんすか?」
その横では、手足をパタパタさせて転がっているアントニウスがいた。
「み、見ましたよお〜。い、イヤな予感がしますよお〜。とゆーか、誰かボクを止めて
〜。(T_T)(涙)」
迫り来る恐怖を前に、2人は逃げる事すらできない。
そして、恐怖の到来を目撃する!!
---ヴオオオ〜ッ!!
天空の黒い影が竜巻となって、一直線に首都へと落下し始める。
そのころ、金銀財宝の取り合いに熱中していた貴族達が、金銀財宝の山に埋もれていた
異様な物体を見つけていた。
闇を固めたような直径1メートルほどの物体。宝石の山に鎮座する黒い物体が、財宝の
収拾を邪魔している。貴族達は憤慨し、その中で高位らしき者が偉そうに喚いた。
「なんだこのブサイクな玉は?おい君達、さっさとこれを退けたまえ、上位命令だぞ。」
その瞬間・・・
---ヴオワッ!!
凄まじい勢いで、黒い竜巻が広場を直撃した。散乱する金銀や宝石、吹き飛ばされる貴
族達。
その黒い竜巻は、まるでタールのようにドロドロとした物質に変化し、そして財宝の山
に埋もれていた物体に吸い込まれた。
黒い球体が爆ぜるように膨らみ、大きさが何十倍にもなった。
そして・・・悪霊と怨念を吸収して禍々しく変化し、残虐な目と口が開いたっ!!
『ゲ〜ッケッケッケ〜ッ。ブッ飛ぶぜベイべ〜ッ!!ミナゴロシだぜベイべ〜ッ!!』
黒い物体・・・恐怖の魔道爆弾が邪悪に笑い、貴族達は愕然とする。
「う、うおお・・・こ、これは一体・・・」
腰を抜かしている偉そうな貴族を、残虐な眼が睨む。
『よ〜お。テメエ、さっき俺の事(ブサイクな玉)とか抜かしやがったな〜。テメエか
ら餌食にしてやンぜ〜っ!!』
怪物の牙が貴族を餌食にする。貴族をバリバリと喰らった魔道爆弾は、怒濤の如く吠え
た。
地獄の底から響くが如き咆哮。それは貴族達に虐げられた者達の咆哮であった。
怨念の咆哮は天地を揺るがし、更なる黒い竜巻の到来を呼んだ。
幾つもの竜巻が天空より襲撃し、首都のあらゆる場所に直撃した。そして漆黒のタール
が広範囲に飛び散った。
その竜巻とタールこそ、ガルダーンの悪しき者に虐げられた弱者の悪霊と怨念である。
悪霊と怨念が実体化したタールが、散乱した金銀財宝や物に取り付き、恐怖の変化を遂
げる。
あらゆる物に残虐な目と口が現れ、手足が生え、モンスターとなって貴族達に襲いかか
ったのだっ!!
そして恐れ怯えた貴族が、自分達を護ってくれる(はずの)ガルダーン兵士に泣き縋る。
「た、た、助けてくれ〜。な、なにしてるっ!?は、早くあのバケモノをやっつけろっ!
!」
だが、兵士達は助けに動かない。その人形然とした顔に、嘲りの表情が浮かんだ。
「何の話ですか、私達はあなた達を助ける気などありませんよ。」
「な・・・そ、それはどーゆー意味だっ!?」
ギラリと光る兵士の眼光。
「それはね・・・こうゆう意味ですよっ!!」
兵士が狂乱の怪物に変化し、獲物を血祭りにあげる。
悪霊の宿った兵士・・・その正体であるゴーレムが、恐ろしい本性を現す。ゴーレムの
化けていた兵士達が、一斉に怪物となって貴族達に襲いかかったのだった。
首都は全域、実体化した悪霊と怨念によって支配された。悪霊の宿った物は全てモンス
ターとなり、逃げまどう貴族達を喰らい尽くす。
凶暴な牙が、鋭利な爪が、驚愕する貴族達を切り裂く。ついさっきまで快楽溢れる愚か
者の楽園だった首都が、瞬く間に鮮血と絶叫の支配する地獄に変わった・・・
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