魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫12)
第46話 マリー、涙の覚醒
原作者えのきさん
アリエルが魔界の洗礼を受けていた場所は、巨大な城の地下室であった。
リーリアに誘われるまま階段を上ったアリエルは、目の前に現れた雅な巨城に驚く。
質実剛健ではあるが、その造りは壮麗で美しく、気高さに輝いていた。
アリエルも姫君として多数の城を見てきたが、これほど美しい巨城は見た事がなかった。
全裸である事も忘れて見とれていたアリエルは、目の前に大勢の召人がいる事に気付い
て驚いた。
「あっ・・・わ、わたし裸でしたわっ。」
顔を赤らめ手で乳房を隠す。
城に集う召人達もまた、品と教養を心得た者達である。地下室から現れたリーリアに恭
しく敬礼し、出迎えたのであった。
「我等が主、魔戦姫リーリア様に敬礼!!」
両サイドに並んで敬礼する召人達は、全員女性であった。どうやらこの城は男子禁制で
あろう、数多い召人の中に男は一人もいない。
呆気にとられていたアリエルは、この城の主リーリアに目を向ける。
これだけ美しく巨大な城の主人という事は、かなりの地位と権力を有する人物と見える。
しかし、そんな人物が人間界に侍女2人だけ連れて出向き、自分を救いに来てくれた。
それほどまでに、アリエルを魔戦姫として迎える事が重要だったという事だ。
召人達も、アリエルに最大の敬意を払って接してくれる。
「お召し物をご用意致しました、どうぞ。」
姫君を飾るドレスをアリエルに着せた侍女達は、再度一礼をして下がる。
呆然としていたアリエルに、リーリアが声をかけてきた。
「医療室はこちらですわよ、早く来なさい。」
急かされたアリエルが慌ててリーリアの後に続く。
城には設備の整った医療室があり、マリーはそこで治療を受けていたのだ。
治療室の扉を開けると、そこにはベッドに寝かされたマリーの姿があった。治療に専念
していた年配の女性医師が、リーリアの姿を見て敬礼する。
「これはリーリア様、わざわざ御足労くだされなくとも治療の報告は致しましたのに。」
「侍女マリーの容体を彼女に直接見せたいと思いましたの、今はよろしいですか。」
「あ、それならよろしいですが、あまり長時間にならないよう願います。」
女性医師の声も終わらぬうちに、アリエルが前に出てきた。
「ま、マリーの容体はどうなっていますの!?生きてますの?」
医療用のガウンを着て寝ているマリーの姿は、余りにも痛々しかった。
ガウンの腹部がはだけられ、そこから無数の傷跡が見える。しかも自分では呼吸できな
いらしく、口から大きなチューブを差し込まれ、そこから酸素を送ってもらっていた。
薄目を開けているが、視線は定まっておらず、意識もあるのかないのかわからない。
咳払いした医師が詳しい状況を説明する。
「マリーさんの容体ですが、腹部の強打によって肋骨が粉砕され、臓器の三分の一を損
傷していました。しかも背骨を折っており半身不随状態です。魔界医療を施せば損傷も治
せますが、それには多少時間が・・・わあ!?」
血相を変えて迫ってきたアリエルを見た医師が飛び退く。
今のアリエルはパワーを制御できない状態ゆえに、突き飛ばされでもすれば怪我ではす
まない。アリエル自身もマリーの事で頭が一杯で、その事を忘れていた。
マリーの手を握ろうとしてハッとする。
「い・・・今の私じゃ、マリーの手を握れない・・・」
鉄棒を捩じ曲げる怪力では、マリーの手は苺のように潰れてしまう。
アリエルは指先でマリーの手の甲をそっと撫でた。そして縋る思いで名前を呼ぶ。
「目を覚ましてマリー・・・私はここですわ・・・」
すると、生気のない瞳に輝きが宿る。目を動かし、声のする方に視線を移動する。
マリーの目に、愛する友の、姫君の姿が映る。
「う・・・ひめはま?・・・ひめさまれふね?」
今にも消えそうな声が口から漏れる。
アリエルは涙を流して喜んだ。
「ああ、マリーが生きてる・・・よかったですわ・・・」
感涙を流しながら手を指で撫でているアリエルを見たマリーも、喜びの涙を流す。
「うで・・・うごくのれふか?なおったのれふれ・・・よかった・・・うぐっ。」
肺を損傷しているため、これ以上喋るのは無理だ。アリエルは優しく呟く。
「もう何も喋らないで。詳しい事は後で説明しますわ、今は何も考えないで眠りなさい。
」
その言葉に頷いたマリーは、目を閉じて眠りにつく。
彼女自身も問い惑いはあろうが、今は養生が必要だ。
マリーの事を女性医師に任せ、アリエルとリーリアは医療室を出た。
心配そうなアリエルに、リーリアは励ましの声を手向ける。
「彼女の事は大丈夫ですわ、この私が責任を持って全快させましょう。」
「はい、ありがとうございますわ。」
返答するアリエルだったが、祖国の事態をリーリアに告げられ、緊張感を高まらせる。
「ガルダーン帝国皇帝は、逃げ延びたマリエル王子の抹殺とノクターン完全壊滅を目論
んで軍の準備をしています。最終攻撃開始まで、あと一カ月となっていますわ。それまで
に技を習得せねばなりませんよ。」
「一カ月・・・わかりました。」
愛する祖国とマリエルと、そして親友マリーへの想いを胸に、アリエルは特訓の場へと
向かうのであった・・・
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