魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫12)


  第47話 無敵の必殺技、ハイパードライブ
原作者えのきさん

 アリエルの向かった先は、剣術や格闘技の訓練を行う修練場であった。
 この壮麗な城で、剣術や格闘技の修練場とは場違いであろうが、その造りは本格的であ
った。
 今いる修練場はリーリアが個人的に練習をするための場所であり、地面に擦れた後が沢
山ある。
 それ以外にも炎で焼いたような痕跡や、爆発でできたであろう跡もある。それから察す
るに、特殊な超能力を有する戦術が魔界では存在するのであろう。
 その戦術を、今からアリエルはリーリアに伝授してもらうことになるのだ。
 アリエルに向き直ったリーリアは、アリエルに授ける戦術について語り始めた。
 「これより魔界の戦闘術をあなたに伝授しますが、人にはそれぞれ得意な分野というの
があります。あなたは剣術に秀でていますわね。」
 「はい、幼少より母から剣の手解きを受けました。」
 「では剣術において、大多数の者と戦わねばならぬ時に最も重要な要素は何か・・・そ
れはスピードです。多くの敵を倒すには、一撃必殺の暫撃をもって速やかに、そして隙を
一切与えずに殲滅せねばなりません。あなたが戦う敵は、大軍勢をもって祖国を襲撃しよ
うとする者達でありますから、その重要性はお分かりですね?」
 「はい。」
 アリエルの返答を聞いたリーリアは、胸元から小さな水晶を取り出し、アリエルに見せ
る。
 「あなたは魔戦姫となり、超音速のスピードで動ける能力を身につけましたが、相手が
軍勢ともなれば限界があります。この水晶は、驚異的な移動能力を所持者にもたらすアイ
テム、ハイパードライブ・クリスタルです。」
 リーリアの手に光るハイパードライブ・クリスタル・・・緑色に輝く紡錘形の水晶を、
アリエルは息を飲んで見つめた。
 超音速のスピードをも凌駕する速さとは如何なるものか?
 リーリアはそれを見せた。
 「論より証拠ですわ、今からその驚異的スピードを見せましょう。」
 そう言ったリーリアの身体が、シュッと音を残して消えた。
 「あれ・・・リーリア様は?」
 一瞬、何が起きたかわからず狼狽するアリエルの肩がポンポンと叩かれる。
 「私をお探しですの?」
 「あっ、リーリア様いつのまに!?」
 どうやって後ろに回ったのか、リーリアはアリエルの背後に立っていた。しかし驚愕す
べきはそれだけではなかった。リーリアの手に花の咲いた小枝が握られているのだ。
 「この枝はあそこから手折ってまいりましたのよ、ほら。」
 指さす方を見てアリエルは驚く。
 「え、ええっ!?まさかっ!?」
 なんと・・・小高い山の上に一本だけ生えている木の枝を、一瞬の早業で手折って持っ
てきたのだ。
 リーリアがそこまで移動した動きすら一切わからなかった。でも事実、リーリアは驚異
的な早業で移動していたのだ。
 「あ、あのその・・・どうやって・・・全然気がつかなかったですわ・・・」
 口をパクパクさせて驚いているアリエルに、事の次第を話す。
 「移動とは足で動くだけの事ではありませんのよ、魔術によって瞬間移動する、これも
移動の一つですわ。」
 小枝の花を愛でながら、にこやかに微笑むリーリア。
 アリエルが、これもハイパードライブ・クリスタルの御技であると理解するまで時間が
必要だった。無理もない、魔術を見た事も知る事もなかった者に、いきなり瞬間移動の魔
術を披露したのだから・・・
 アリエルは座り込んだまま、混乱した頭を抱える。
 確かに音速のスピードを遥かに凌駕している。
 いや、超えているどころではない・・・
 「あの・・・つまり・・・どんな離れた場所にでも、一瞬で移動すると言う事ですわよ
ね?それって・・・スピードとか言う以前に・・・えっと・・・」
 戸惑うアリエルに、リーリアはハイパードライブ・クリスタルを手渡した。
 「信じられないなら、自分で確かめてごらんなさい。クリスタルを手にし、瞬間移動し
たい場所に自分の姿を思い浮かべるのです。」
 言葉に従い、修練場の端に自分が立っていると思い浮かべる。その途端、アリエルの身
体はその場から瞬間移動した。
 「きゃあっ!?あ、わ、わたし・・・移動した・・・の?」
 自分の意思とは関係なく瞬間移動したアリエルを、困った顔で見つめるリーリア。
 「あらあら、その程度で驚いていたら、最強の技なんか習得できませんわよ。」
 再度クリスタルを握ったリーリアは、もう片手に剣を持って石像に向き直る。
 「瞬間移動を極めれば、こんな技も使えます。よく見ておきなさい。」
 そして再び、アリエルは驚くべき御技を目の当たりにする。
 リーリアの姿が消えたかと思うと、石像の側に瞬間移動した。それだけではない・・・
リーリアの姿が3人に増えて見えたのだ!!
 そして瞬く間にリーリアは元の場所に戻り、剣を鞘に納める。
 すると・・・鞘に収まるカチッという音と共に、強固な石像に3つの暫撃が走り、轟音
と共に崩れ落ちた。
 瞬間移動で自身を分身させ、石像を3つに切り裂いたのだった。
 またもや信じられぬ事実を見せつけられ、アリエルは魔界の技に驚嘆する。
 「こ、これが魔術・・・す、すばらしいですわっ!!」
 全身を駆けめぐる驚愕と感動の衝撃。この技を会得すれば、もはやガルダーンの軍勢な
ど恐れるに足りない。
 宿敵との再戦まで後一カ月。それまでに魔界の技を会得すべく、アリエルは決意を固め
る。
 最強者たる力を得るため、全てを懸ける事を・・・



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