魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫12)
第45話 最強者である魔戦姫への転生
原作者えのきさん
全てを奪われ、そして全てを捨てたアリエル・・・
彼女と侍女のマリーの2人は、峡谷へ転落したのを最後に人々の前から永遠に消え去っ
た。
深い峡谷には、闇を吹き抜ける風が通り過ぎるのみ。
その風は、まるでアリエルの悲しき叫びであるかの如く啼いている。
アリエルは何処へ行ったのか?それを知る者は、人間界に存在しない。
深淵の闇に住む者達だけが、全ての真実を知っている・・・
謎の黒衣の淑女に助けられたアリエルとマリーは、人の踏み入れぬ世界へと誘われてい
た。その世界の名は・・・魔界。
黒衣の淑女に助けられたアリエルは、淑女の放つ黒い光に包まれ、人外の世界へと連れ
て行かれた。
漆黒の闇が支配する世界は何も見えず、冷たい石の祭壇のような場所に寝かされている
アリエルは、手足も指も、唇ですら動かせぬまま全裸で横たわっていた。
ここは何処なのか?一体自分は何をされるのか?
何もわからぬまま、恐怖と不安に苛まれながら、過ぎ行く時間に身を委ねていると、不
意に傍らから人の気配を感じて目を凝らした。
無論、いくら目を向けても何も見えぬ。しかし、その気配の主が自分を助けてくれた黒
衣の淑女であることがわかる。
―――たしか・・・名前は・・・魔戦姫リーリア・・・
アリエルの心境を察したか、黒衣の淑女ことリーリアは声をかけてくる。
「アリエル姫、意識はありますね。私の声が聞こえますか?」
「は、はい・・・き、きこえます・・・こ、ここは・・・どこです・・・か?」
すると、リーリアは片手をあげて説明した。
「ここは魔族の存在せし世界・・・魔界です。」
リーリアの指さす方向に、魔の世界が映し出された。
一見、普通の人間界と変わらないようにも見えるが、血のように紅く染まった空、異形
の者達が闊歩する世界・・・そこは紛れもなく異世界であった。
人間が恐れる禍々しい悪魔の世界といった感じは全くなく、むしろ平穏で静かな感じの
世界である。
だが・・・どこか圧倒的なパワーが魔界から発せられており、それが異形の者達に多大
な力を及ぼしているのがわかる。
リーリアはさらに詳しく説明した。
「魔界の偉大なる王、闇の魔王様が支配するこの世界では、人間界にはない異質の力、
(魔力)が存在し、それが魔族にさまざまな能力をもたらしています。そして魔の最強た
る力を求めた者だけが、(魔力)を与えられ最強者になる事を許されますわ。」
リーリアの手が、アリエルの乳房にそっと置かれる。温かく、そして優しい手の感触が
アリエルの不安を僅かに和らげた。
「私を、これからどうするおつもりなのです?・・・ま、マリーは・・・」
そんな問いに、リーリアは静かな声で答えた。
「これより、あなたを魔族へと生まれ変わらせます。人間を遥かに超越した存在、そし
て全てを超える存在になるのです。ただしそれは、(人間)であることを捨てる事でもあ
りますわ、覚悟はよろしくて?」
その言葉に、アリエルは驚愕する。
「あ、ああっ、わ、わたしは・・・ああ・・・ま、マリーッ!!」
激しい慟哭が身体を駆けめぐる。しかし・・・彼女に拒否のは余地はない。
アリエルは闇に魂を売ったのだから・・・
動かぬ身体を震わせるアリエルを、リーリアはそっと抱いて呟く。
「怖いのはわかりますわ。でも・・・これはあなたが望んだ事。最強の存在になる事を・
・・あなたの侍女マリーは、別の場所で蘇生しておりますわ。安心して魔戦姫への転生を
受け入れなさい。」
優しく語り、アリエルにキスをする。
リーリアの指が、アリエルの震える胸の谷間に移動する。そして、爪の先がゆっくりと
白い柔肌に突き刺さる!!
―――ズブッ、ズブブ・・・
心臓まで達した指先から闇の波動が発せられ、強烈な衝撃がアリエルを襲うっ!!
「きあっ、ああうああーっ!!」
声にならぬ悲鳴をあげるアリエルの心臓が、凶暴な鼓動を起こす。
魔力で暗黒物質に変化した心臓が、恐るべき力を宿した血液をアリエルの全身に送り込
んでいるのだった。
激痛とも快感ともつかない感覚に翻弄され、発狂しそうになるアリエル。
「ひいいっ、いああっ、あひいいっ!!」
「気をしっかり持ちなさいっ。ここで苦痛に負けたら終わりですわよっ。」
リーリアの叱咤に激励され、アリエルは意識を取り戻した。
―――ま、まけませんわっ。わたしは最強になるの・・・マリエルを守るの・・・
憎きグリードルを倒し、愛する弟を守る・・・その覇気で苦痛を跳ね返すアリエル。
そして、シロアリが巨木を喰い尽くすが如く、アリエルの裸体が内側から暗黒物質に浸
食されていく・・・脆弱な人間の肉体が分解され、汚された裸体も、傷つけられた肉体も、
全て最強たる闇の肉体へと再構築される。
そう・・・まさにアリエルは、全く別の存在へ生まれ変わろうとしてるのだ。
美しい外見はそのままに、アリエルはアリエルでなくなる。
凶暴に鼓動していた心臓も静かに収まり、やがて平静がアリエルの裸体を包む。
闇の肉体改造が完了した証であった。
ノクターン王国で愛された戦女神は、今まさに闇の魔戦姫に変貌したのであった。
静寂が辺りを包み、苦痛と快楽が収まった身体に生気が戻る。
ハアハアと荒い息を吐いたアリエルは、自分の四肢が動く事に気付いた。
「う・・・動く?動きますわ・・・私の腕・・・足も・・・歩けますわ・・・」
転げるようにして石の祭壇から下りたアリエルは、切断されていた手足の筋が治り、自
由になった身体に歓喜する。
そんなアリエルに歩み寄ったリーリアは、一本の鉄の棒を手渡した。
「最強の肉体を得たあなたなら、この鉄棒を捩じ曲げることも簡単にやってのけますわ
よ。さあ、試してみなさい。」
鉄棒を渡されたアリエルは、言われるまま鉄棒を手で軽く捩じる。
―――ぐにゃっ。
鈍い音と共に、強固な鉄棒がアメのように捩じ曲がった。
「こ、これは・・・まさか・・・」
(人間)なら絶対できない事をやってしまい愕然とする。しかし、これは夢ではない。
現実の事だった・・・
声を失うアリエルに説明するリーリア。
「今のあなたの肉体の能力は、力も瞬発力も持久力も運動神経も肉体強度も、全てにお
いて人間を遥かに凌駕していますわ。これが魔の力、魔戦姫の基本的な能力なのです。」
一瞬で鉄の棒を捩じ曲げた怪力、そんなとんでもないパワーを授かったアリエルは、ま
さに無敵の存在と言わねばなるまい。
しかし・・・そんな驚異的パワーも、魔戦姫のほんの初歩たる能力に過ぎない。
リーリアは、魔戦姫となったばかりのアリエルに、魔戦姫としての修練について語る。
「基本的な能力を得たあなたですが、このパワーを使いこなす術と、多種多様な魔術を
使用する技術を習得せねばなりません。肉体改造には時間はかかりませんが、魔術を習得
するには、長時間に及ぶ厳しい訓練が必要です。わかりますね?」
静かな口調のリーリアに、アリエルは頷いた。
「はい、承知しました。強力な力を得るには、それなりの修練も必要と言う事ですね。
どのような特訓もお受け致します、私を最強者へとお導きくださいリーリア様。」
リーリアの足元に跪き、深々と平伏するアリエルだったが、そんなアリエルの肩に手を
置き、リーリアは語る。
「最強者になる前に、大事な事をしなければならないでしょう。侍女のマリーが心配で
はありませんか?」
リーリアに言われ、思わずハッとするアリエル。
「そ、そうでしたわっ。マリーに会わせて頂きたいのですっ!!マリーはどこに?」
「彼女は魔戦姫の城で治療を受けています。肉体の損傷が激しかったのでまだ安静にし
ていなければならないのですが、声をかけるくらいはできるでしょう。心配をしていては
魔術の修練に差し支えるでしょうし、あなたを命懸けで守ったマリーを安心させねばなり
ませんわよ。」
これから過酷なる修練に挑むアリエルに、リーリアは心ある気遣いをしてくれたのであ
った。
「ありがとうございます、感謝しますわ。」
再度頭を下げるアリエルに、リーリアは優しく微笑むのであった・・・
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