魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫11)


  第44話 アリエル・ノクターン、魔界へ・・・
原作者えのきさん

 魔戦姫リーリアは、闇の女王たる威厳を堂々と示し、アリエル達の前に立った。
 黒く艶やかなロングヘアーを首の後ろで束ね、美しさと妖艶さのオーラを漂わせて立つ
リーリアの姿に、アリエルは言葉を失って魅了される。
 常人ならざる美しさの彼女が、この世の者ではない事をアリエルは理解した。白き美顔
には、血のように紅い瞳が輝いており、瞳の奥に、深い悲しみと優しさが湛えられていた。
 「あなたは・・・あなたは地獄の悪魔ですか・・・?魔界の魔女ですか?」
 アリエルの言葉に頷くリーリア。
 「ええ、人は私を悪魔、または魔女とも呼びますわ。でも、あなたが思うような存在と
は少し違います。全てを捨てて闇に身を委ね、最強の闇の力をもって、悪を地獄に葬り去
る姫君、それが(魔戦姫)と言う者・・・」
 「ま、魔戦姫・・・」
 リーリアが口にした名を、固唾を飲んで聞くアリエル。
 闇に響く美しい声で、リーリアはアリエルに再度問いかける。
 「あなたは最強の力を得るため、そして愛する者を守るため、その身も魂も全て捧げる
と言いましたわね、違いますか?」
 アリエルの全身に震えが走る。
 確かに自分はそう言った。最強となれるなら、マリエルを守れるなら、悪魔に魂を売っ
てもいいと言ったのは偽りではない。
 しかし、その言葉の重要さが、今更になってアリエルの心に恐怖をもたらした。
 自分はとんでもない事を口走ったと・・・まさか、本当に最強の闇の者が助けに来てく
れるとは思いもしなかったから・・・
 その戸惑いを、リーリアは速やかに指摘した。
 「一時の気の迷いだったと言っても咎めません。最強の力を求めるも否も、あなたの心
次第ですから。アリエル王子を狙った敵は駆逐しましたし、今なら愛する弟君の元へ戻り、
優しい民達に守られて過ごす道もあります。強制はしませんわ、全てあなたが決める事で
す。」
 アリエルの脳裏に、このままノクターンへ戻り、マリエルと共に平穏な生活を送る自分
が浮かんだ。そしてマリエルが不自由な身体の姉を、甲斐甲斐しく世話する姿も・・・
 マリエルの気性からして、年を取っても、妻も娶らずアリエルの傍にいてくれるだろう。
 しかし、それをグリードル率いるガルダ―ンが見逃してくれるだろうか?
 答えは明白だ。より凶悪な牙を剥き、敵は襲ってくる。そうなれば今度こそ助かる道は
無い。
 弱ったノクターン王国を潰す事など、今のガルダ―ンにとって訳の無い事だ。
 アリエルの選択肢は2つ・・・
 ノクターンに戻りマリエルや民達と運命を共にするか、マリエルや民達を守るため、全
てを捨て最強者(魔戦姫)になるか、である。
 どちらにしても、アリエルは全てを失う事になる・・・
 アリエルは苦悩しながら、命の炎が消えたマリーを見つめた。
 「マリー・・・私はどうすればいいの?」
 マリーの顔に、悲しい涙がポタポタと落ちる。
 すると、アリエルの心に、マリーの魂の声が響いた。
 (・・・姫様は、どっちを選んでもええと思います・・・どっちを選んでも・・・うち
は姫様のそばにおります・・・魂だけになっても・・・ずっと・・・)
 こんな姿になっても、マリーはアリエルの傍にいたいと言う。
 マリーの友情と愛情が、アリエルに決意を促した。
 唇を震わせながら、リーリアに尋ねるアリエル。
 「・・・も、もし、私があなたに魂を捧げたなら、マリーを生き返らせてもらえません
か?」
 「かまいませんよ。あなたの侍女は心臓の停止から時間がたっていませんし、肉体には
魂が残ったままです。これなら魔界で蘇生させる事ができますわ。」
 「よかった・・・マリー・・・」
 安堵の溜息をつくアリエル。するとリーリアは、アリエルの心に残った最後の未練を問
う。
 「最強の者(魔戦姫)となったら、あなたは(人間でなくなる)のです。2度と弟君と
は会えなくなりますわ、それでもよくって?」
 もっとも辛い事実を突き付けられ、アリエルは動揺する。
 もう2度と、あの可愛い笑顔に会えなくなる・・・
 愛しい身体を、永遠に抱きしめられなくなる・・・
 だが、自分が(魔戦姫)にならねば、マリエルとノクターンを待っているのは滅びの運
命だ。
 悲しき決断をしたアリエルは、肩に耳を擦りつけ、マリエルにもらった白い貝のイヤリ
ングを外した。
 そして、ポロリと落ちたイヤリングを、涙ながらに見る。
 「マリエル・・・ごめんなさい・・・私は2度とあなたに会えない・・・姉上を忘れな
いでっ!!」
 アリエルはイヤリングを口に咥え、リーリアの足元に差し出した。
 「これは私とマリエルを繋ぐ絆でした・・・これを捨てて、私はマリエルを守るため、
アリエル・ノクターンである事を捨てますっ。私を魔戦姫にしてくださいませっ!!」
 凛とした声でリーリアに告げるアリエル。
 そしてそれは受理された。
 「よろしいですわ。では、たった今からあなたは魔界の同士として・・・そして最強者
たる魔戦姫として生まれ変るのです。」
 リーリアの翳す手から、鮮やかな黒い光が迸り、アリエルを包んだ。
 そして僅かの後に、その場から誰もいなくなった。
 それは、アリエル・ノクターンと言う人物が、永遠に消えた瞬間でもあった・・・
 
 平原でミュートの民達を覆っていた(闇)が消滅し、戸惑う民達とマリエル王子が歩み
出てきた。
 「ねえ、ガルダ―ン軍は?ぼく達助かったの?」
 ミュートの人々が無事であることを見たマリエルは、自分達がガルダ―ン軍の手から逃
げ延びた事を知る。
 そして、自分達を迎えに来るノクターン軍を見て、自分達は助かった事も知る。
 だが・・・ミュートの人々の顔に陰りがある。皆を守るため、仲間のゲンカイ夫婦とム
ロトが自らを犠牲にしたのだ。
 そして・・・マリエルとへインズは、ガルダ―ン兵士から逃れて来た娘達から、悲痛な
事を告げられた・・・
 アリエルとマリーの悲しき最後を・・・
 「も、申し訳ありません王子様っ。私達がついていながら、姫様とマリーさんを・・・
お許しくださいっ!!」
 その言葉に、マリエルの瞳から涙が流れる。
 「うそでしょう?姉上が・・・マリーが・・・」
 「お、王子さまっ。泣いてはなりません・・・ゲンカイが言っていたでしょう・・・お、
男が弱音を吐くのじゃあないと・・・泣いてはなりませんぞ、泣いては・・・う、うおお
っ。」
 「わああーんっ、あねうえーっ、マリ―ッ!!」
 号泣するへインズに抱かれ、マリエルは泣いた。そして、その場にいた全ての人々が泣
いた・・・
 
 しかし、彼等はまだ知らない。愛すべきノクターンの姫君、アリエル姫が、そして侍女
のマリーが、新たなるアンジェラの伝説と共に蘇る事を・・・



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