魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(7)


第22話 魔戦姫アンジェラ立つ。友の想いを胸に秘めて・・・
原作者えのきさん


  黒竜翁に導かれた私は、地下室と思える暗い場所へと連れて来られました。
 こんな暗い場所でダークはミルミルになにをしているのか?黒竜翁の険しい表情を見た私の心に不安が広がります。
 やがて重苦しい気配漂う扉の前に来た私の耳に、微かな叫び声が飛び込んできました。
 「こ、この声は・・・ミルミルッ!?」
 黒竜翁を押し退け、私は地下室に飛び込みました。そして・・・恐ろしい光景を眼にしてしまったのです。
 それは、ダークの放つ闇の電撃を浴びて悲鳴を上げるミルミルの姿だったのです!!
 「ああ〜っ!!いたいです・・・きゃあああーっ!!」
 鎖で縛られたミルミルに、容赦なく電撃を浴びせるダーク・・・
 私は絶叫してダークに詰め寄りました。
 「やめてえっ!!なにをしてるのっ、ミルミルをいじめないでえええーっ!!」
 するとダークは駆け寄る私を片手で制し、落ち着いた声で答えました。
 「邪魔をするな。今これを中断すれば、チビ助の想いを無駄にする事になるぞ。」
 「無駄ってなに・・・ミルミルになにをしようとしてるのっ!!お願いだからやめてえっ!!」
 半狂乱の私を抑える黒竜翁に、ダークは怪訝な声で尋ねました。
 「黒竜、そいつを連れてくるなと言ったはずだぞ。」
 「申し訳ありません、どうしても友達の元に連れて行けと懇願されましたゆえに・・・」
 「ふん。人の良いお前の事だ、どうせ断りきれずに連れてきたんだろう。せっかくチビ助を無敵にしてやろうというのに、騒がれてはかなわん。」
 そのダークの言葉に、私は息を飲みました。最強の力を授けてくれと頼んだのは、私自身の事だけであり、ミルミルは全く関係ない事なんです。
 ダークの手から放たれる電撃は、私を最強の存在に変えた闇の力に他なりません。つまり・・・ダークはミルミルをも無敵に変えようとしていたのです・・・
 「み、ミルミルを無敵にするって・・・私はそんな事を望んでませんっ、今すぐミルミルを解放してっ!!」
 するとダークの鋭い視線が私を貫きました。
 「お前の望みなど知った事か。チビ助が俺に頭を下げて頼んだのだ、自分を姫さまと同じ無敵にしてくれとな。」
 ミルミルがダークに無敵にしてくれと言った・・・?
 小さくてか弱い妖精のミルミルが、無敵になりたいと願った・・・泣き虫で怖がりのおチビさんが・・・無敵になりたいと、最も恐ろしい闇の魔王に懇願した・・・
 私は何かの間違いだと思いミルミルを見ました。全てダークの虚言だと思っていましたが・・・私に向けられたミルミルの涙に潤んだ瞳が、全て真実だと告げていました・・・
 「・・・ひ、ひめさま・・・ミルミルはつよくなるです・・・つよくなって・・・ひめさまをまもるです・・・あ、ああーっ!!」
 注がれた闇の力が頂点に達した時、小さくてか弱い妖精は最強の存在へと生まれ変わりました!!
 手足を縛っていた鉄の鎖を引きちぎり、ミルミルは叫びます・・・
 「み・・・ミルミルへぇんしぃぃーんっ!!やあああーっ!!」
 凄まじい力が迸り、ミルミルは・・・無敵の剣に変身したのです!!
 黒光りする巨大な魔の剣・・・
 それは、小さかったミルミルの身体よりも遙に大きな剣でした。本来、自分の身体より大きな物には変身できないはずのミルミルでしたが、強大な闇の力を授けられ、変身能力が格段にアップしていたのです。
 変化した剣が引き寄せられるように私の元に飛んできました。
 その禍々しくも強さ溢れる無敵の剣・・・あの可愛かったミルミルの変化した姿とは思えません、思いたくありません・・・
 私は、変わり果てた友達の姿に涙しました・・・
 「・・・なんてことなの・・・あなたを戦いに巻き込みたくなかったのに・・・可愛いミルミルが・・・こんな恐ろしい剣になってしまったなんて・・・無敵になるのは私だけで十分だったのに・・・」
 魔の剣に装着された、小さな宝石が淡く光り輝いています。それがミルミルの本体であると判るのに時間はかかりませんでした。
 私は・・・悲しみを込めてミルミルに尋ねました。
 「どうして・・・最強になりたいなんて思ったの・・・あなたは可愛いままのミルミルでいて欲しかった・・・なぜダークに・・・魔王に魂を売ってしまったの!?」
 私の叫びに、ミルミルは悲しく答えました。
 (姫さま・・・ごめんなさいです・・・ミルミルは強くなりたかったです・・・姫さまと同じ強い子になりたかったです・・・ごめんなさいです・・・)
 ミルミルの切なる想いは痛いほどわかりました。
 魔の最強たる存在に成り果てた私と同じようになりたかった、ならねばならなかった・・・
 この子を追い詰めたのは私だ・・・そう思った瞬間、凄まじい悲しみが爆発しました。
 臨界点を超えた行き場のない悲しみが私の全身を駆けめぐり、その矛先をダークに向けたのです。
 「・・・ダーク・・・なぜミルミルに力を授けたの・・・闇の魔王・・・あなたが憎い・・・どうして・・・どうしてミルミルを無敵にしてしまったのーっ!!」
 悲しみが爆発した私は、ダーク目掛けて剣を振り下ろしましたっ。

 ーーードシュッ!!

 剣戟はダークの身体を袈裟懸けに切り裂き、そして黒竜翁の絶叫が響きました。
 「ま、魔王さまっ!?」
 その声に、私は我に返って立ちすくみました。
 私はとんでもない事をしてしまったのか・・・?あろうことか、力を授けてくれた御方に・・・悲しみの剣を叩きつけてしまったとは・・・
 全身を震わせ、後悔すら凍り付く思いでダークを見ました。すると・・・剣戟を浴びたダークが、穏やかな慈悲の笑顔を浮かべ満足そうに頷いたのです。
 「見事だっ。友を想う心こそ無敵の力を産み出す。魔戦姫アンジェラよ、今お前は真の最強の力を得たのだ。」
 切り裂かれたダークの胸元に、私の放った一撃の痕跡が刻まれています。
 私の悲しき渾身の一撃を、ダークは微動だにせず受け止めたのです。
 彼は・・・私の悲しみを受け入れてくれたのでした・・・
 ダークは闇の魔王・・・不死身の魔王です。私の一撃など物の数ではないでしょうが、彼は私の心を受け止め、自らの身体に悲しみの刻印を刻んだのでありました。
 私はダークの想いに涙し、足元に跪いて頭を下げました。
 「お許しくださいませ魔王様。この不詳アンジェラ、魔王様の御心に報いるため、全てを尽くして悪と戦う所存にございます。」
 私の言葉に、ダークは・・・いえ、魔王様は静かに頷かれました。
 「行くが良いアンジェラ、己の思うままに戦うのだ。そして、いずれ知ることになるだろう。お前の本当の敵はバール・ダイモンなどという矮小な輩ではなく、堕落した天と神であると言う事を。腐り果てた奴らから神族や人間を救う事が使命である事を。」
 その衝撃的な言葉・・・私の身体に稲妻のような電撃が走りました。
 私の真の敵は、堕落した天と神・・・?
 しかし、今の私にとって敵は、全てを奪った憎き宿敵バール・ダイモンであります。
 ミルミルの変身した剣を携え、私はノクターン王国へと赴く決意を固めました。
 「では魔王様、黒竜翁さま。必ずやバール・ダイモンを討ち取って参ります。」
 その言葉に黒竜翁さまも頷かれました。
 「うむ、見事バール・ダイモンを倒してくるのじゃ。」
 最強となった私は、全ての想いを胸にノクターンへと向いました。
 剣に変身したミルミルを抱き、私は呟きました。
 「ミルミル・・・どんな姿になっても、あなたは私の友達ですわ。ずっと一緒よ。」
 (ミルミルもです。姫さまがどんなに強くなっても、ミルミルは姫さまに付いていきますです。)
 私達の友情は決して揺るぐ事はありません。その友情の力が、私達に無限の力をもたらすのでありますから。
 まもなく悪しきバール・ダイモンと手下達は思い知るでしょう。
 闇の姫君・・・魔戦姫の脅威を・・・


 To・Be・Continued・・・
 


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