魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(5


第13話 邪悪な悪党の真実
原作者えのきさん

 私は数えきれないほど辱められました。裸体は嫌と言うほど汚されました。
 気絶していた私は、股間に疼く鈍い痛みで目を覚ましましたのです。
 「・・・う・・・もう・・・いや・・・たすけて・・・ラムゼ・・・クス・・・たすけて・・・ミ
ルミル・・・」
 悲しみの涙を流す私は、力なく呟き続けていました。
 ラムゼクスもミルミルも、魔族達の責め苦で地獄の底へ堕ちているでしょう。2人の安否が気にな
ります。
 周囲を見回した私は、あまりにも絶望的な状況を目の当たりにする事になりました。
 魔族達の横暴はさらに激しくなり、ノクターンとガルダーンの民は残らず・・・地獄に堕とされて
いたのです・・・
 私の眼前に、ボロボロにされた女の子が転がされました。その子は・・・私の裸体を洗ってくれた
女の子でした!!
 「・・・あう・・・いくさめがみさま・・・こんなによごされてしまって・・・わたしが、あらっ
てさしあげますうう・・・」
 正気を失いながらも、彼女は私を気遣ってくれました。この心優しい少女を・・・悪党どもは容赦
なく餌食にしたのです。
 「そ、そんな・・・この子が何をしたというのっ!?・・・ひどい・・・どうしてっ!!」
 私の叫びを聞いた数人の魔族が、ニタニタ笑いながら歩み寄ってきました。
 「バール・ダイモン様のご命令なンだよ、乙女は残らずヤッてしまえってな。ノクターンにもガル
ダーンにも、処女の乙女なんか1人もいやしないンだよ〜。」
 「そうそう、この国の可愛いオマ○コどもは全員俺達の餌食ってことだ。うひゃひゃ♪」
 守るべき者は全て辱められてしまいました・・・
 女の子は純潔を奪われ、男性は奴隷としてこき使われ、人としての尊厳すら叩き壊されてしまった
のです・・・
 凄まじい絶望が私にのしかかってきました。
 もう、何を希望として縋ればいいのか、まったくわかりません。

 私が絶望に苛まれている時、魔族達の宴は最高潮に達していました。
 祝杯を片手に、悪の権化バール・ダイモンが立ち上がって演説を始めました。
 「あ〜、親愛なる戦闘魔兵の諸君。盛り上がっておるかね?」
 「「は〜い、盛り上がってまーす♪」」
 「よろしい、今日と言う日は、我らにとって記念すべき日となろう。我らは天界へ進攻する足掛か
りを掴み、さらに魔族でありながら天界で活動できる肉体も手に入れた。我らに恐れる事は何も無い、
ただ欲望の望むまま突き進むのみである!!」
 うおーっ、と言う歓声があがり、盛大なる拍手が巻き起こります。そしてバール・ダイモンは、声
高らかに宣言をしたのでした。
 「諸君っ。私バール・ダイモンは、君達に輝ける勝利と未来をもたらす事を約束しようっ。魔界で
苦渋を舐めさせられてきた日々は今日で終わるっ。天界で惰眠を貪る神族どもを支配し、そして我ら
を卑下してきた魔界の権力者どもに我らの偉大さを知らしめてやろうではないかっ。天界を侵略した
ら天使ちゃんと女神さまを犯り放題だぞ〜っ、飲んで喰って犯りまくるのじゃ〜っ♪」
 「「いえ〜いっ!!バール・ダイモンさま最高〜っ!!バール・ダイモンさまバンザーイッ!!」」
 大喝采を浴びて満面の笑みを浮かべるバール・ダイモンは、両手を軽く振って魔族達に応えます。
 そして・・・勝利の確信を語るバール・ダイモンの演説を聞いた私の心に、ある疑惑が沸き上がり
ました・・・

 私は彼等が、魔界で最強を誇る存在と思い込んでいましたが、どうも違うようです。
 先程の演説から推測して、バール・ダイモンも含め、ここにいる魔族全員は魔界で何者かに制圧さ
れていた様子です。
 もしそれが本当なら、彼等は魔界を征し、新たな支配圏を求めて天界へ進攻しているのではなく、
魔界を追いだされたか、もしくは逃げ出してきたのではないか?と思いました。
 それにバール・ダイモン達の態度も言動も下賤極まりなく、覇者を名乗るには程遠い存在です。
 つまり・・・彼等は魔界の爪弾き者であり、魔界最強どころか最低のカス集団だったのでした・・・

 疑惑が確信に変わった時・・・私の心に、ドス黒く煮えたぎる感情が沸き上がりました・・・

 「私達は・・・こんな最低のカス集団に倒されたと言うの?・・・ラムゼクスも兵達も・・・わた
しも・・・ノクターンの人々も・・・」
 心に沸き上がるは、怒りと悔しさの炎です。
 威厳ある絶対強者に敗北したのなら納得もできますが、こんな愚劣で卑しい最低の連中に屈伏して
しまったなど、絶対に認める事ができません。
 それを認める事は、勇ましく誇り高かった武神の兵団を、そして誠実なノクターンの民達をも侮辱
する事になります。
 完膚無き敗北と、それを認められない憤りが相反し、私の心中には燃え上がる炎の嵐が吹き荒れま
した。
 姫君として穏便に育てられてきた私は、これまで怒りと憎しみで憤った事など一度もありません。
それゆえ、初めて燃やした怒りの炎は際限なく燃え盛ったのです・・・
 私の憤りを知ってか知らずか、バール・ダイモンが卑しい目付きで私に視線を向けます。
 「ひっく、う〜い。んん〜、戦女神ちゃんてば汚くなっちゃってるでわないか。わしがキレイにし
てやろう、ほ〜れ。」
 手にした酒を私の頭に浴びせた魔神は、瞬きすらせず睨んでくる私を見て怪訝な顔をしました。
 「なぁんだその目は〜、なんか文句でもあるのか弱虫女神ちゃ〜ん。」
 「・・・カス魔神に弱虫よばわりされる筋合いはないですわ・・・」
 「んが?あんだって?」
 「・・・バール・ダイモン・・・あなたに聞きたい事があります・・・あなたは最強の魔神だそう
ですわね、魔界でも最強を誇っていたのかしら?」
 私の質問に、バール・ダイモンはフンと嘲笑って酒を煽ります。
 「んん〜、何を言うかと思えばそんな事か。そーとも、わしは最強の魔神さまよ〜。わしに叶う奴
など居りゃせんわい、そーじゃろ、みんな。」
 「はーい☆バール・ダイモンさまは最強無敵でありまーす♪」
 部下達に称賛をうけ、ますます図に乗るバール・ダイモンでしたが、私はそんな傲慢な鼻柱をへし
折ってやろうと、確信の言葉で迫りました。
 「・・・本当に、最強ですの?」
 次の瞬間、バール・ダイモンの顔が硬直し、ヘラヘラしていた手下達の顔から一斉に笑いが消えま
した。
 手下達は明らかに動揺しています。どうやら・・・私は言ってはいけない禁句を口にしてしまった
ようです・・・
 頭に血が上った私は、後先を考えず矢継ぎ早に文句を言います。
 「魔界がどんな所か知りませんけど、ここにいる軍勢だけで魔界を征してるとは思えませんわ。そ
れに・・・あなたは最強者としての風格もプライドも微塵に感じませんわよっ。どう見ても卑しいチ
ンピラですわっ。」
 周囲から恐れ怯える囁きが響き、手下達は一斉に私の周囲から引き下がりました。怒れる魔神の巻
き添えにならないよう退却したのです。
 後に残ったバール・ダイモンが、全身を怒りで震わせながら口を開きます。
 「こ・・・小娘・・・貴様、何が言いたい・・・」
 怒りの中に焦りの態度を見せたバール・ダイモンに、私は憤慨の全てを叩きつけました。
 「あなたが魔界最低だって言いたいのですわっ!!魔界ではもっと強い者がいるのでしょう?そし
てあなたは、魔界最強の者が怖くて、戦いもせずシッポまいて逃げ出したんでしょ。その焦った顔、
図星ですわね。武神の兵団と戦ったのだって、ウィルゲイトが手を貸してくれたから勝てたくせに、
大笑いですわっ。」
 「お・・・お、おのれええ〜っ、い、い、言わせておけばああっ。」
 事実を見抜かれ、激憤するバール・ダイモンを私は大声で笑ってやりました。全ての人の怒りと悔
しさを込めて・・・
 「あは、あははっ・・・バール・ダイモンッ・・・あなたはゴミ以下ですわっ!!弱い者イジメし
かできない最低最悪のクズですわああーっ!!」
 絶叫する私の横っ面に、激怒したバール・ダイモンの平手打ちが炸裂しました。
 歪んだ逆恨みの念は凄まじく、頭も砕けよとばかりに私を殴り続けます。
 「き、きき、きさまああーっ!!だ、誰が最弱だと、誰がクズだとおお〜っ!?もういっぺん言っ
てみろ小娘ええーっ!!」
 弱い者ほど、プライドに執着するものです。矮小なプライドを傷つけられたバール・ダイモンは、
烈火の如く怒り狂いました。
 「よくもコケにしおってっ・・・わ、わしが最弱に見えるとゆーのかっ!?わしが最弱に見える目
などいらんわなあ〜っ。」
 鋭い爪が眼前に迫り・・・私の目を片方えぐり取ってしまったのです!!
 「きゃあああーっ!!や、やめ・・・ひ、ひいいーっ!!」
 「思い知ったか〜っ。舌を引っこ抜いてやるっ、鼻を潰して耳も削ぎ落としてくれるぞ〜っ!!」
 その振り上げられた腕を、手下達が慌てて掴みました。
 「わ〜っ!!やめてやめて〜っ、女神ちゃんの顔が潰れたら萎えちゃいますってば〜。」
 「落ち着いてくださいバール・ダイモンさま〜。こんな小娘相手に大人げないですよ。」
 手下に諫められ、バール・ダイモンは悔しそうに手を引きました。しかし、怒りが収まるはずはあ
りません。凄い形相で振り返ると、ある手下を大声で呼びました。
 「ジャロームッ!!ジャロームとゴモラはおるかっ!?」
 その声と共に、チリリーンという不気味な鈴の音が辺りに響きました。
 現れたのは、鈴の付いた杖を片手にした陰気な顔の老人と、それに従う愚鈍で醜悪な大男でした。
 「ふえふえ、お呼びでしょうかバール・ダイモンさま。」
 ジャロームと呼ばれたその男が歩み寄ると、バール・ダイモンは私を指差して言いました。
 「この小生意気なお姫さまめが、わしを侮辱しおったのだ。お前の拷問術で、徹底的に痛めつけて
やれ。ただし、可愛い外見は損なわぬようにしろ。手下どもの慰み物にならなくなっては困るからな。

 「ふぇっふぇっ。承知致しました〜。我が息子と共に、お姫さまをイジメまくってやりましょうぞ
〜♪」
 老人と大男は親子らしく、私に向き直ると同時にニタァ〜と笑いました。
 「これわカワイイお姫さまじゃ〜。のうゴモラや、お前も嬉しいじゃろ〜。」
 「も、もちろんだぜ、とうちゃ〜ん。女神のお姫さまイジメルの楽しみ〜、でへへ〜♪」
 不気味な親子の邪笑いが、私の精神を恐怖のドン底に堕とします。
 私を抱えたジャローム親子は、専用の拷問室へと向いました。私を苦しめて弄ぶために・・・

 恐怖から逃れるため、私は懸命に叫んで助けを求めましたが、誰も助けてくれる者はいません。
 天井を見上げた時、私は地獄の絶望を見てしまいました・・・
 私の仲間が・・・無残な姿に成り果てた武神の兵達が、見せしめに吊り下げられていたのです。
 生き残ったラムゼクスもアルゴも、同様に吊り下げられています。みんなを助ける事はもちろん、
私自身も助かる道はありません・・・あるのは絶望のみです・・・
 仲間の無念、辱められ虐げられた民の叫び・・・それら全てが集約し、悲しみで絶叫する私の心に
共鳴しました・・・
 (・・・だれかたすけて・・・かたきをうって・・・ばーる・だいもんをたおして・・・)
 全ての無念を晴らすには、悪しき魔神を倒せる力が必要です。
 そう・・・バール・ダイモンよりも遙に強い力が・・・私は祈りました・・・魔界最強の支配者に・
・・
 「・・・魔界の支配者よっ・・・私に力を与えてください・・・弱き私めに・・・最強の闇の力を・
・・お与えくださいっ・・・」
 極限に達した悲しき叫びは闇に吸い込まれ、やがて・・・魔界へと届いたのです。




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