魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫番外編)魔戦姫の休日3
恐怖の襲撃者、鮫人(さめびと)
ムーンライズ
望遠鏡に映る小船の後ろから、幾つもの黒い影が追いかけてくる。それが水面を飛び跳
ねながら、執拗に船を攻撃しているのだ。
それを望遠鏡で確認したレシフェが、一同に向き直る。
「船に人が乗っているわっ。急いで助けに行かないとっ!!」
風雲急を告げるレシフェの声に、一同は慌てた。
「助けに行くって言っても・・・あそこまで泳いで行くのコトかっ!?」
うろたえる天鳳姫だったが、レシフェはすぐに対応する。
「ドレスを持ってきて、早くっ!!」
その声に、エルとアルがコテージからドレスを持って来た。そして、ドレスの背中部分
に取りつけられているアイテムを取り外す。
それは小さな水晶であった。紐でドレスに縛られている水晶を外し、魔戦姫達に手渡し
た。
翼の形をしている水晶のアイテムは・・・魔戦姫が飛行用に使うアイテム、魔翼水晶で
ある。
普段はドレスの一部として隠されており、飛行する際にこれを翼に変えて空を飛ぶのだ。
魔翼水晶は単体での使用も可能で、背中に直接装着する事もできる。レシフェ、ミステ
ィーア、スノウホワイト、そして天鳳姫は背中に魔翼水晶を当てて翼を出現させた。
バサッ。
可憐なる鳥の翼が出現し、魔戦姫達の背中へ直に装着される。
「さあ、行きますわよっ!!」
各自の武器、魔狼族のナイフ、炎の剣、暗器、真実の鏡を手に、湖の中央へと飛び立っ
て行った。
魔戦姫が出撃した頃、湖の中央では小船に乗った漁師の親子が、何者かの襲撃に晒され
ていた。
揺れる小船の周囲を、三角形の黒い刃がグルグル周りながら走っている。
それはサメの背びれであった。水面を切り裂きながら進むそれは、漁師の親子を弄ぶか
のように周囲を走る。
船に乗っている少年が、父親にしがみ付いて震えていた。
「あうう・・・父ちゃん、あれなに・・・怖いよ・・・」
「なんでこの湖にあんな奴が・・・大丈夫だっ、父ちゃんが守ってやるからなっ。」
息子を守る漁師だったが、襲撃者の手から逃げる術は無く、ただ怯えるしかなかった。
船底には進むための櫓が転がっているが、それは何故か真っ二つに切断されていた。そ
の切断面は、恐ろしく切れ味のある刃物で切り裂かれており、漁師親子は船を動かす事も
できずにいる。
そして船の周囲から、うす気味の悪い笑い声が響き始める。
「シャ、シャ、シャ〜ッ。」
包囲網を狭める襲撃者達。そして水面が爆ぜ、恐るべき襲撃者が姿を現したっ。
「シャッ、シャ〜クッ!!」
黒い流線型の巨体が飛び上がる。巨大な口を開き、鋭い牙を剥き出して漁師親子に襲い
かかった。
「ひいいーっ!!」
悲鳴が響く。鋭い牙が親子に迫る・・・その時であったっ!!
グワアッ!!
凄まじい炎の砲弾が襲撃者に炸裂し、襲撃者は湖に叩きこまれる。
間一髪で助かった漁師親子は、突然の事に辺りを伺う。そして親子は、煌く上空に美し
き女神達の姿を見た。
「あ、あれは・・・」
呆然とする親子の元に、女神達は翼を翻して舞い降りる。
「我等は闇の正義・・・魔戦姫っ!!」
現れたる女神こと、4人の魔戦姫達は船の四方を守り、襲撃者の反撃に備えた。
「来ますわよ・・・」
炎の剣を構えるミスティーアが警戒を促す。
それを聞いてか、襲撃者達が次々水面から飛び出して来た。
「シャシャシャ〜ッ!!ナンダ、テメエラハ〜ッ!?」
その凶悪な襲撃者達の正体は半魚人。サメと人間をかけ合わせたような半人半魚のバケ
モノであった。
その凶悪なる姿に絶句するミスティーア。そしてスノウホワイトが呟いた。
「あの半魚人は・・・鮫人ですわっ!!」
鮫人・・・それは魔界の海に潜む最強の半魚人で、魔族から鮫人(さめびと)と呼ばれ
恐れられているモンスターである。
気性は極めて残虐にして獰猛。群れを成して船を襲ったりする事もある恐ろしいバケモ
ノだ。
しかし、鮫人は海にしかいないはずであった・・・
「どーして鮫人がここにっ!?」
驚くミスティーアだったが、今はそんな事に気を取られている場合ではなかった。
「ミスティーアッ、うしろっ!!」
レシフェが叫ぶ。振り返ったミスティーアの背後から、鮫人が襲いかかって来た。
「このーっ!!」
炎の剣で怪物を切り裂く。黒い巨体が鮮血を撒き散らして四散した。
「まだ来るアルよっ!!」
天鳳姫の声が響く。鮫人の数は水面に顔を出している奴だけで10数匹以上おり、水面
下にも多数潜んでいる。
数で不利な為、1匹ずつ潰していくしかなかった。
レシフェがスノウホワイトに指示を出す。
「スノウホワイト、あなたは漁師の親子を守って。」
「わかりましたわっ。」
真実の鏡を手に、船に降り立つスノウホワイト。そして親子を安心させるべく、にこや
かに笑った。
「もう安心ですわ・・・私達にお任せ下さいね。」
白雪姫の優しい微笑みに、親子は喜びの声を上げる。
「おお、あなた達は女神様ですか。」
「いえ、正義の悪魔ですわよ・・・」
再度微笑み、表情を引き締めてミスティーア達に向き直るスノウホワイト。
「皆さんっ、鮫人のヒレに気をつけてくださいっ。ヒレは鉄をも切り裂く高周波ブレー
ドですわよっ!!」
スノウホワイトの警告に、一同は緊張を高める。船の櫓を切り裂いたのも、この恐るべ
き鮫人の武器であった。
しかも刃があるのは背びれだけではない。腕から伸びている長いヒレも高周波ブレード
になっている。
そしてレシフェがミスティーアと天鳳姫にも指示を出した。
「ミスティーアと天鳳姫は水面から襲ってくる奴を倒しなさいっ。私は水中の奴を潰し
ますわっ!!」
ナイフを口に咥え、水中へと飛びこむレシフェ。
そしてミスティーアと天鳳姫は、水面から顔を出している鮫人に立ち向かった。
「てぇーいっ!!沈めてあげますわーっ!!」
燃えあがる炎が鮫人の顔面を真っ二つにする。
「ギャシャアア〜ッ!?」
悲鳴をあげて水中に沈む鮫人。だが、数で圧倒する鮫人が次々襲いかかって来た。
カナヅチの天鳳姫は、群がってくるバケモノどもに引き摺りこまれない様、足でボカボ
カ蹴り飛ばした。
「この〜っ、ワタシを食べたらお腹壊すのコトよ〜っ!!」
湖の水を汚染してしまう恐れがあるため、猛毒は多用できない。暗器を鮫人の脳天に突
き刺し、何とか反撃する。
2人の攻防により、漁師の船は守られるかに見えた。だが、防御をかいくぐった1匹が
船の傍に出現する。
「シャシャ〜ッ!!食ッテヤルゼ小娘ガ〜ッ!!」
凶悪な口を開け、船に向けて突進してきた。
「食べれるものなら・・・食べてみなさい小魚さんっ!!」
真実の鏡をかざす。すると、突進してきた鮫人が魔力によってイワシに変貌する。
「アシャ?アシャヒャ〜・・・」
イワシにされた鮫人は、そのまま鏡に吸い込まれていった。
激戦は水面下でも繰り広げられている。
水中を進むレシフェに、数匹の鮫人が群がって来た。鮫人が繰り出す高周波ブレードの
ヒレを交わし、ナイフで切りつける。
水中戦はレシフェの得意の1つであった。
広大なるアマゾン川で、ワニや巨大魚ピラルークと格闘した事もある彼女ならではなの
だ。
効率よく、的確に怪物達の急所を切り裂いて行く。
だが、いつまでも息が続く訳ではない。苦悶の表情で戦うアマゾネス・プリンセス。
数で劣る魔戦姫達は、徐々に劣勢に追い込まれて行った。
次々襲いかかってくるバケモノ達に、ミスティーアも苦しくなってきた。
「きりがないですわねっ、えいえいっ!!」
炎の剣も威力が無くなってくる。無理もない、闇上がりでいきなりの戦闘なのだ。
魔戦姫の劣勢を待っていたかのように、激しい反撃をしてくる鮫人。
苦しそうに息を吐くミスティーアの眼前に、巨大な背びれが出現する。
「はあはあ・・・あ、あれはっ!?」
その背びれは、並の鮫人のそれを遥かに上回る。頭部から背中にかけてノコギリのよう
な巨大な背びれを持つその怪物は・・・鮫人のボスであった。
「シャギャギャ〜ッ!!」
一際凶悪な雄叫びを上げ、3メートル近い巨体が水面からジャンプするっ。
「このっ!?きゃああーっ!!」
ボスの体当りをモロに食らったミスティーアが、水面に落下する。
「ぷはっ、よくも・・・はっ!?」
水から出ようとしたミスティーアが驚愕する。鮫人の醜悪な手が、彼女の手足を捕えた
のだ。
「ギィッヒッヒ〜ッ、捕マエタゼ天使チャンヨ〜ッ。」
「いやっ、やめてっ・・・あああーっ!!」
群がる鮫人達によって、水中に引き摺りこまれるミスティーア。
「ああっ、ミスティーアさんっ!?」
叫び声をあげるスノウホワイト。そして天鳳姫がミスティーアを助けるべく水中に飛び
込んだ。
「ミスティーアさんっ、今助けるのコトよっ!!」
「いけませんわっ!?天鳳姫さんは泳げないのにっ!!」
スノウホワイトの声も空しく、カナヅチの天鳳姫は、無謀にも水中戦を挑んだのであっ
た。
そして水中に引き摺りこまれたミスティーアは、最悪のバトルフィールドで鮫人と戦う
羽目になった。
「うぐぐ・・・焼きっへあげま・・・ぐぶぶ・・・」
炎の剣を振り回すが、水蒸気が出るばかりで鮫人に傷すらつけられない。しかも炎を繰
り出そうにも、水圧で全て押し潰されてしまう。
そう、水中は炎使いにとって最悪の場所である。
いくら足掻いても、凶悪な鮫人に立ち向かえない・・・
絶体絶命のミスティーアに、狂ったサメ達が襲い掛かってきた。
「ギャヒャヒャ〜ッ、美味ソウナ小娘ダァ〜。」
「ゲッゲッゲ〜、ドコカラ食ッテヤロウカ〜。尻カァ?オッパイカァ〜?」
牙をガチガチ鳴らし、獰猛な本性を露にする。
手足を押さえられたミスティーアに・・・鮫人のボスが股間に2本のモノを剥き出して
迫る。
(※サメの性器は2本です)
狂暴に怒張したモノをかざし、ゲラゲラ笑うボス。
「ギャッヒャッヒャ〜ッ、俺様ノコイツデ、アソコト尻ノ穴ヲ突キ刺シテヤルゼ〜ッ!!
」
「あううっ・・・ううっ!?」
動けないミスティーアの太ももに、ボスの汚らわしい手が伸びる。そしてビキニのパン
ツを引き下ろし始めた。
「やめへっ、ぐううう・・・」
ミスティーアの口からゴボゴボと息が漏れる。そしてパンツは全て下ろされ、ビキニも
外されてしまった。
そのミスティーアのピンチを知ったレシフェが、水中で身を翻して泳いで来る。
だが、他の鮫人が邪魔をし、レシフェの行く手を遮る。
(このっ・・・邪魔しないでっ!!)
ナイフを振り回すが、それを嘲笑うかのように鮫人はレシフェを翻弄した。
レシフェの動きが封じられたのを見た鮫人のボスは、裂けた口元をニヤ〜リと歪めて笑
った。
「グッフッフ〜、コレデオ前ヲ助ケル奴ハイナクナッタゼ〜。サア、覚悟シナア〜ッ。」
ミスティーアの足を掴み、股間を擦り付けてくる。
「ひいうっ、うぐぐ・・・」
「オラアーッ、ブチコンデヤルゼ〜ッ!!」
凶悪なるモノがミスティーアに突き刺さる・・・その寸前であった。
「ごぼぼっ・・・みふてぃーあ・・・さんっ!!」
水面から何者かが現れ、ボスの脳天に蹴りをお見舞いした。
「シャギャギャッ!?テ、テメエッ!!」
突然の事に狼狽するボス。間一髪の所を救われたミスティーアの目に、手足をバタバタ
させて泳ぐ(?)天鳳姫の姿が映った。
(て、天鳳姫・・・さん・・・)
カナヅチの天鳳姫が、命がけでミスティーアを助けに来たのだった。
怒り狂ったボスが、手下に命令する。
「テメエラッ、アノ女ヲ八裂キニシロッ!!」
ボスの命令に、手下達が天鳳姫に襲いかかる。
「シャ〜ッ!!」
突進する手下を前にして、目を見開く天鳳姫。
(よくもミスティーアさんを・・・地獄に送ってあげマスワッ!!)
怒りの気が彼女の身体に漲る。手を後ろに引き身構えた。
「気功砕心拳っ!!」
天鳳姫の鋭い突きが手下の心臓に突き刺さる。
「グシャアア〜ッ!?」
突きの一撃によって心臓を潰され、一瞬で倒される鮫人。
だが、天鳳姫のダメージも大きかった。
「ごぼ・・・ごぼぼ・・・」
白目を向いた天鳳姫は、そのまま水中に沈んで行く。
(天鳳姫さんっ!?)
(天鳳姫っ!!)
慌てて天鳳姫の元に泳ぐミスティーアとレシフェ。だが、群がる鮫人をどうにかせねば
ならない。
レシフェが手を動かして何かミスティーアに訴える。それを見たミスティーアは、即座
にレシフェの意図を察した。
(わかりましたわレシフェさんっ・・・)
頷いたミスティーアが、最大出力の炎を水中に繰り出す。それによって発生した水蒸気
の泡が、鮫人達を取り囲んだ。
「シャッ!?ナンダコレハッ!?」
慌てる鮫人達を尻目に天鳳姫を助け出す。
息を全て吐いてしまった天鳳姫の口に自分の口を押し当て、息を吹き込むミスティーア。
「んぐ?みふてぃーふぁひゃん・・・」
意識を取り戻した天鳳姫を抱え、ミスティーアとレシフェは上昇する。
3人は、互いに息を吹き込みあって水面を目指した。やがて水面の輝きが3人を包んだ。
ミスティーア達を取り逃がした鮫人達は、歯軋りして悔しがる。
「アノ小娘ドモガ〜。俺達ノ恐ロシサ、タップリト思イ知ラセテヤルッ!!」
吠えたボスは、残った手下達に檄を飛ばした。
「イクゼ野郎ドモッ、鮫人合体ッ、シャシャッ、シャ〜クッ!!」
ボスの元に集合した鮫人達が、邪悪な変身を遂げたっ!!
その頃、激しく拭き上がる水蒸気を目撃したスノウホワイトが、焦りの目で水面を見つ
めていた。
「ああ・・・ミスティーアさん・・・天鳳姫さん・・・レシフェさん・・・」
その様子を、漁師親子も固唾を飲んで見守っていた。
やがて・・・水面が隆起し、ミスティーア達3人が浮上した。
「よかったっ・・・みなさん無事ですわっ!!」
歓喜の声をあげるスノウホワイト。3人はバシャバシャと船に向けて泳いで来た。
「早く掴まってっ!!」
スノウホワイトと漁師親子が3人を船の上に上げようとしたが、水中に出現した(恐怖)
が一同を金縛りにする。
ユラリ・・・と、水中に黒い巨大な影が出現したのだ。静寂が凄まじい恐怖を伴ってミ
スティーア達に迫る。
「あ、あれは・・・一体・・・」
ドクン、ドクン・・・
聞こえるのは己の心臓音のみ・・・
水面下から迫る、見えない、聞こえない、そして気配すら感じない恐怖が確実に近付い
て来た・・・
そして、それは瞬間であった。
「・・・!!」
水面が急に暗くなったと思うと、船を中心にして水面が大きく隆起したっ!!
「ああっ!?」
ミスティーア達の悲鳴を飲み込み、水面が爆裂したのである。木っ端微塵に砕ける小船。
そして投げ出される一同。
船の木切れに掴まった一同が見たものは・・・
『シャシャシャ〜ッ!!シャシャ、シャ〜クッ!!』
それは余りにも巨大なサメであるっ!!
全長10数m以上はあろう、巨鯨ですら一瞬で葬り去るであろう怪物が出現したのだっ。
これこそが、鮫人の合体した姿なのだ。余りの恐怖に動けなくなる一同。
ミスティーア達を餌食にするべく、巨大サメが牙を剥き出して突進してきた。
「みんな飛んでっ!!」
レシフェの声に、漁師親子を抱えて飛び上がる魔戦姫達。だが、一瞬遅れたミスティー
アが尾びれで弾き上げられた。
「きゃああーっ!!」
空中に投げ出されるミスティーア。その落下地点に巨大サメが口を開けて待ち構えてい
る。
『ギャッシャッシャ〜ッ!!』
パックリ開かれたその口から、残忍な笑いが響く。
「もうダメ・・・」
ミスティーアは目を閉じて覚悟を決めた・・・その時である。
ズバババッ・・・
何かが水飛沫を上げ、水面を蹴散らして突き進んで来た。
一直線に巨大サメに迫る水飛沫の正体は一体っ!?
巨大サメもそれに気がつき、水飛沫目掛けてジャンプした。
『シャアア〜クッ!!』
走る水飛沫と爆裂する水飛沫が激突するっ!!
「鬼道剣法奥義っ、風魔斬岩剣っ!!でやあああーっ!!」
掛け声と共に真空の刃が走り、巨大サメを縦真一文字に切り裂いたっ。
『シャギャアアアーッ!!』
絶叫を上げて砕け散る巨大サメ。爆裂した鮫人の肉がバラバラと水面に落ちる。
巨大サメを撃破した水飛沫から1人の男が飛び出し、落下するミスティーアの体をキャ
ッチした。
「きゃあっ!?あ・・・あなたは・・・」
降り注ぐ滝のような水を浴びながら、ミスティーアは自分を抱えている人物を見た。そ
の人物は・・・
「よう、大丈夫かい?」
「ああっ、あなたはさっきのっ!!」
背中に巨大な日本刀を背負い、凛々しい目でミスティーアを見つめるその人物は、先程、
森で出会った男だったのだ。
男は、まるで地面に立っているが如く、水面に直立不動している。
その様子に、巨大サメに襲われた事も忘れて呆然とするミスティーア。
「あの・・・どーして水の上に立っているンですか・・・」
恐る恐る尋ねるミスティーアを見て、片足を軽く上げる男。
「ああ、これかい。これは鬼道忍法、水グモの術さ。鬼の一族が使う技だよ。」
鬼の一族・・・男は確かにそう言った。
「あなたは、鬼・・・の一族なんですね・・・あの・・・」
声を詰まらせるミスティーア。すると男は、人懐っこい口調で笑って答えた。
「自己紹介が遅れたな、俺の名前はガリュウ。魔界鬼王ガロンの息子さ、ヨロシク頼む
ゼ。」
ウインクする男は、ガリュウと名乗った。しかも・・・魔界鬼王ガロンの息子だと言う
のだ・・・
「えっ?え・・・ええ〜っ!?」
ミスティーアの脳裏に、しかめっ面のガロンの顔が浮かぶ。そのガロンの顔と、凛々し
いガリュウの顔を見比べる・・・
「うっそお〜っ!?ぜんぜっん似てない〜っ。」
素っ頓狂な声を上げるミスティーア。
無理もなかった。陰険で因縁ばかりつけてくるあのガロンとは、似ても似つかない顔な
のだ。
その様子に、ガリュウはクスクス笑った。
「まあな、俺はお袋似なんだよ。親父殿に似てる所は・・・角が2本ある事ぐらいだぜ。
」
子供のように無邪気な笑顔には、先程の険しい顔はなかった。そして全裸状態であるミ
スティーアを気遣う。
「さっきのバケモンに随分とやられたみてえだな。服を貸そうか?まあ、裸がいいって
ンなら別だけど。」
「いや、あのっ・・・あ、は、はい・・・」
鮫人に水着を奪われていたミスティーアは、顔を真っ赤にして胸を隠した。
恥かしいやら、嬉しいやら・・・嬉しい?
なにか・・・心がトキメイテいるのだ・・・
「あ、あああ、あの・・・助けてもらってありがとうございま、まま・・・すですわ・・
・」
ミスティーアは、顔を更に真っ赤にしてペコペコ頭を下げるのであった。
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