魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫番外編)魔戦姫の休日2


       その者は鬼の一族
ムーンライズ

 ミスティーア達が湖に来た時より時間は少し遡る・・・
 魔界の赤き空に朝日が挿す時間。切り立った山の裾野に広がる盆地を、白々と日の光が
覆ってゆく。
 その盆地のほぼ中央。そこに広大な敷地を有する平屋建ての屋敷がある。
 質実剛健な木造の屋敷を囲む庭には、丸い池があり、石灯籠や松の木が並ぶ。
 静かなる朝の庭に、静寂を破る掛け声。
 「はあっ、はっ!!フンッ、フンッ!!」
 風を切るブンブンという音と共に、威勢の良い掛け声が響き渡る。その声の主は、巨大
なナギナタを振り回して朝の修練に勤しんでいるのだった。
 黒い稽古着を着たその男の顔は、浅黒い顔に刺青を施した屈強な面構えで、スキンヘッ
ドの頭には2本の角が生えている。
 ナギナタを振り回すこの男は、魔界鬼王ガロンであった。
 そして、この屋敷は彼の居城であり、鬼の一族の本拠地である。
 「むうっ、はああっ、せえぃやああっ!!」
 鋭い剣戟を走らせ、最後の一振りを終えるガロン。
 ふう、と息をつくガロンの元に女中が歩み寄り、タオルを手渡す。ガロンがタオルで汗
を拭っていると、庭の隅から1人の手下が現れ、慌しく駆け寄って来た。
 「御館様っ、一大事でありますっ。」
 ガロンは片膝をつく手下に目を向けた。
 「むっ、何事だ。」
 「はい、実は西の鬼宝湖において侵入者を確認。東洋人の若い女と双子の娘、合わせて
4人と、7体の自動人形です。」
 侵入者が若い娘と聞いて、ガロンはフンと溜息をつく。
 「なんだ、そんな奴等が現れたぐらいで報告に来るまでもあるまい。早々に叩き出せ。」
 「それが・・・奴等はどうやら、魔戦姫の侍女と思われます。」
 手下の言葉に、ガロンは目の色を変えた。
 「なぁにぃ〜っ、魔戦姫だとお〜っ!?それは確かかっ。」
 「間違いございません。魔戦姫の毒使い、炎使い、白雪姫の侍女でしたが、如何致しま
す?」
 魔戦姫と聞いて、頭から湯気を立てて怒りを露にしているガロン。彼は魔戦姫を嫌悪し
ている。
 「うぬぬ・・・リーリアめっ。手下を送り込んで我等が領地を偵察に来おったかっ!!
姑息なマネをしおって〜っ。」
 怒り心頭のガロンに、恐る恐る進言する手下。
 「いや、その、御館様。奴等は遊びに鬼宝湖へ来ている様子です。堂々とコテージを組
み立てておりますし、怪しい事はしておりませんが・・・」
 「なぬっ、遊びだと〜!?ばか者めっ!!それがリーリアの手だとゆうのがわからんの
かっ。遊びに見せかけて諜報活動しているに違いないっ!!」
 声を荒げるガロンを見て、呆れた顔をする手下。
 「お、御館様・・・それは考え過ぎでわ・・・そんな堂々と諜報やるバカはおりません
って・・・」
 小声で呟く手下をジロリと睨むガロン。
 「んっ!?なんか言ったかっ?」
 「い、いえ〜。なーんにも言ってましぇ〜ん。」
 スゴスゴ引き下がる手下。
 しかし、魔戦姫が現れたとなれば魔界鬼王も黙ってはいられない。
 「奴等の企みを探らねばなるまい・・・赤鬼、青鬼っ!!おるかっ!?」
 ガロンの声に、2人の手下が現れる。
 鼻にピアスをした赤いボサボサ髪の男と、5分刈り頭にバンダナを巻いた青黒い顔の男
だ。どちらも頭に2本の角を生やした鬼の一族の者である。
 「お呼びでありますか御館様。」
 跪く手下を前にして、ガロンは魔戦姫の事を話す。
 「うむ、我等が領地、鬼宝湖に魔戦姫が現れた。今すぐ鬼宝湖に出向き、奴等の動向を
探ってくるのだ。」
 鬼宝湖と聞いた手下の1人、赤鬼が口を開いた。
 「確か・・・鬼宝湖には若がおられる筈。若にも御報告致しますか?」
 赤鬼の口からでた(若)と言う名前に、ガロンは顔をしかめた。
 「ふん、あやつに言う必要などないわ。どーせ魔戦姫どもの事を言っても動く奴ではな
い、放っとけ。」
 何やら怪訝な顔のガロンであるが、(若)と言う人物が鬼の一族において重要な存在で
ある事は、ガロンや赤鬼の口ぶりでわかる。
 しかし今は魔戦姫の事が最優先される。再び手下の2人に向き直るガロン。
 「魔戦姫どもが何を企んでいるか確かめる必要がある。奴等の動きを逐一監視し、近辺
を入念に調べ上げろ。決して我等の存在に気付かれてはならんぞ、いいなっ。」
 「ははっ、承知致しましたっ。」
 深く頭を下げた赤鬼と青鬼は、速やかに庭を後にする。そしてガロンは(勘違いによる)
怒りを更に募らせた。
 「リーリアめ〜っ、この俺を甘く見るなよっ!?貴様の企みなど叩き潰してくれるわ〜
っ!!」
 その大声は、寝惚けている者を全て飛び起きさせたのであった。
 
 そして時間は経過し、ここは鬼宝湖。
 まさかここが、自分達を敵視しているガロン率いる鬼の一族の領地であるなど露知らな
いミスティーア達が、楽園に到着した。
 その様子を離れた丘から探っている赤鬼と青鬼。
 双眼鏡で様子を探っている青鬼が、浜辺に姿を見せたミスティーアに照準を合わせる。
 「おお、奴等が来た。みんなベッピンじゃん。」
 絶世の美姫達の出現に、青鬼は鼻の下を伸ばして喜んでいる。
 「おい、魔戦姫なのは間違いねえだろーな?」
 相棒の赤鬼に尋ねられ、青鬼は魔戦姫のデーターファイルを開いて確認する。
 「天女の服を着てるのが毒使いで、カールヘアーが炎使い・・・でもって、白雪姫に・・
・あれ?緑のドレス着てる奴は報告にないじゃん。」
 先程報告に来た手下の話には草色のドレスを着た女戦士は含まれていなかった。データ
ーファイルを捲りながら赤鬼が口を出す。
 「そいつはアマゾネス・プリンセスのレシフェって奴だ。凄腕の女戦士だってさ。アル
カとか言う侍女も一緒の筈だぞ。」
 「ふーん、凄腕ね・・・あっ、いたいた。可愛い大きな目をした侍女も一緒じゃん。」
 浜辺のコテージに向けて走る一同を目で追う青鬼。
 「あんなとこに、ごおじゃすなコテージ建ててるじゃん。お姫様はキャンプにも優雅に
高級コテージでってか・・・んっ?」
 双眼鏡越しの青鬼の視線が、水辺に移動する。水辺では、カールヘアーの姫君が湖を見
つめて立っているのだ。
 毒使いの天女が姫君に声をかけている。
 「なにしてるのかな・・・お、おおっ!?」
 突然、青鬼が歓喜の声を上げる。
 「こ、これは〜っ!?さ、最高じゃ〜んっ!!」
 その悦びようは尋常ではない。赤鬼が驚いた顔で青鬼を見た。
 「ど、どーしたんだっ?なに喜んでんだよ、見せろっ。」
 双眼鏡を取り上げて浜辺をみる。すると・・・
 「うお〜っ!?こいつはスゲーッ!!」
 双眼鏡には・・・全裸で水辺を舞い踊るカールヘアーの姫君が映ったのだっ。
 高揚した肌を露にし、形の良い乳房を揺らす姫君の裸身は、輝くばかりにキラめいてい
る。
 姫君の裸身に釘付けになっている赤鬼の手から、双眼鏡を取り返す青鬼。
 「ず、ずるいじゃんっ。あいつらを監視するのは俺じゃんっ。お、おお〜っ!?」
 青鬼の視線に、今度は水着に着替える女戦士と白雪姫の裸身が映る。
 鍛えぬかれた美しき裸体と、雪のように純白な白雪姫の汚れ無き裸身。
 鼻血を出している青鬼から、双眼鏡を奪う赤鬼。
 「てめっ、1人占めするンじゃねえっ。のおおっ、天女が裸に剥かれてるぜ〜っ!!」
 女戦士に裸にされた天女を見て悦んでいると・・・
 「あ、あのデカイオッパイ、Fカップはあるぜ〜っ。おっ?」
 赤鬼の手から双眼鏡が消える。青鬼が横取りしたのだ。
 「なにすンだ、この〜っ、よこせってのっ!!」
 「イヤじゃんっ、おめーはそこでセンズリこいてろってのっ。」
 「ぬぁに〜っ、それはてめーだっ!!」
 ドタバタと双眼鏡の取り合いをする赤鬼と青鬼。
 そんな浅ましい2人にノゾキをされてるなど知らない魔戦姫達は、楽しく水遊びをして
いる。
 トップレスで日光浴をしていたアルカが、急にイヤらしい視線を感じて身震いする。
 「!?・・・なんか、イヤな気配がしますわ・・・」
 怪訝な顔をするアルカに、スノウホワイトが声をかける。
 「どうしたんですの・・・?」
 「え、ええ・・・誰かに覗かれてる気がしたんですけど。」
 心配しているアルカだが、スノウホワイトは至って平静(呑気)だ。
 「まさか、気のせいじゃないですか・・・」
 「だといいのですが・・・」
 この事をレシフェ達にも言おうかと迷った。でも楽しんでいる(天鳳姫はシゴかれてい
る。)姫君達の邪魔もできない。
 とりあえず、浜辺で日光浴するリンリンとランランに(キョンシーは太陽の光が嫌いで
は?と、突っ込まないように・・・)相談するアルカだった。
 話を聞いたリンリンとランランが辺りを見回す。近くに怪しい奴はいる様子はない。
 「誰もいないズラよ。アルカちゃん、気にしすぎズラ。」
 特に心配などしていないランランだったが、神経質なリンリンは警戒心を強めた。
 「遠くから覗いてるって事も考えられるわよ。とりあえず警戒しといた方がいいわね。」
 その言葉に頷く侍女達は、水辺の魔戦姫達に視線を移す。
 「ほらほら〜、もっと足を動かしてっ!!」
 「あひ〜ん、シゴキはイヤの事ね〜。」
 「・・・浮き袋持ってきましょうか・・・?」
 侍女達の心配を余所に、水辺では相変わらず魔戦姫達が戯れ?ているのであった。
 
 その頃、湖の対岸目掛けて泳いでいたミスティーアが、別の浜辺に上がっていた。
 「ふう・・・随分と離れた所に来ましたわね・・・」
 ようやく落ちついたミスティーアだったが、自分のいる場所から先程の浜辺を見て溜息
をついた。
 「はああ〜、スッポンポンで泳ぐんじゃなかったですわね〜。」
 全裸のミスティーアは、そのままの姿で泳ぎ渡らねばならないのだった。
 元の場所に戻ろうとしたミスティーアは、自分のいる浜辺の奥から水飛沫の音がするの
に気がついた。
 「?・・・なにかしら。」
 興味を引かれたミスティーアが、音のする方向に歩いて行く。
 浜辺の端に小川があり、その奥から水飛沫の音は響いてくるのだった。
 小川を遡ると、木々が生い茂る森の中に入った。深緑の爽やかな香りと、心安らぐ水の
音・・・生きとし生ける者全てを潤す。森の抱擁にミスティーアは裸体を委ねる。
 「・・・気持いいわ・・・身体の中に森の命が宿っていくみたい・・・」
 海育ちの彼女にとって、深緑の森から放たれる穏やかにして安静なる木々の息吹は新鮮
であった。
 「えへっ、もう少しここにいようかしら・・・」
 小川のせせらぎに座り込んだミスティーアが、小川の奥を眺めていると・・・
 ドドド・・・
 絶え間無く音を響かせる滝が、木々の間から見えた。
 「あの音は滝だったのね。」
 音の正体を知ったミスティーアが、せせらぎからカワイイお尻を上げて滝に歩み寄る。
 落差3m程の小ぶりな滝が、岩の上から水を落している。
 滝壷の水は限りなく透明で、名も知らぬ小魚がユラユラと水面に映し出される。
 「キレイ・・・」
 滝壷に足を入れるミスティーア・・・だが、その歩みが急に止まった・・・
 身体に強い衝撃が走る。彼女の視線が、滝に釘付けになった。
 ・・・誰かいる・・・
 滝の下に大きな石があり、そこに1人の男が座って滝に打たれていたのだ。
 座禅を組み、目を閉じて静かに瞑想している男。ミスティーアの存在に気付いていない。
 ミスティーアは金縛りにあったように動けなくなった。誰もいない筈だと思っていたか
ら、先客の存在は余りにも驚愕であったのだ。
 しかも今の自分は真っ裸・・・男に見つからぬ様、ここから離れないと・・・
 滝壷から足を出そうとしたミスティーアだったが、その動きが再び止まる。
 滝に打たれていた男が立ちあがったのだ。
 「ふう・・・」
 深く息を吐いた男は、顔についた水飛沫を手で払い落とす。
 男は20代前半の若者だった。
 1分の無駄すら無い筋骨逞しい裸体に、清水が流れ落ちる。その身体は、ブロンズの戦
士像がそのまま動き出したかのような神々しさを放っていた。
 凛々しいのは肉体だけではない。精悍な顔に意思の強さを示す大きく引き締まった双眸
があり、太く吊りあがった眉毛がそれを更に強調している。
 ・・・すごい・・・カッコイイひと・・・
 その男の逞しい肉体に、ミスティーアは思わず見惚れてしまった。一糸まとわぬその身
体は、まさに芸術品と呼ぶに相応しき凛々しいものであったから・・・
 整えられた短いクセ毛から清水が滴り落ち、精悍な顔を濡らす。それを見ていたミステ
ィーアの目が驚愕に開かれた。
 「・・・あ、あれは・・・」
 開かれたミスティーアの目は、男の頭に集中している。クセ毛の頭には・・・立派な2
本の角が生えているのだっ。
 魔界で角を有する魔族は唯一無二、鬼の一族のみ。
 「お、鬼っ!?」
 ミスティーアの声が森に響き渡る。その声に男はミスティーアの存在を知った。
 「誰だっ!?」
 鋭い双眸がミスティーアを射抜く。
 「あ・・・私はその・・・ごめんなさいっ!!」
 慌てて逃げ出すミスティーア。大きな石から飛び降りた男がその後を追う。
 「待てっ!!」
 走るミスティーアに追いついた男が、ミスティーアの手首を掴んだ。抵抗するミスティ
ーアだったが、男の強い握力から逃れられない。
 「は、離してっ、いやっ!!」
 暴れるミスティーアの肩を掴んだ男が険しい顔で睨んだ。
 「お前は何者だっ?ここで何をしている、ここは立ち入り禁止だぞっ。」
 「し、知らなかったんです・・・許して・・・」
 懇願するミスティーアを、男は不信な目で見つめる。
 「・・・お前は鬼の一族じゃないな・・・何者だ、答えろっ!!」
 「離してっ!!」
 問い詰める男の顔に、炎を放つミスティーア。
 「うわっ!?」
 声を上げた男の手を振り切り、脱兎の如く駆け出した。眉毛を炎で焼かれた男が、苦悶
の声を上げて顔をあげる。
 「まて・・・くそっ。逃げ足の速い奴だ。」
 焼けた眉を清水で洗い、下流を見つめる。だがもうミスティーアの姿はなかった。
 侵入者を取り逃がした男が、仕方なく小川から上がった。
 そんな男の後ろから、何者かが声をかけてきた。
 「若、どうしたのですか?」
 滝の大岩から姿を見せた大男は、全身黒ずくめの戦装束で身を固めた屈強な武者であっ
た。
 ヒゲの生えた浅黒い顔には幾つもの傷跡があり、彼が歴戦の武士である事を物語ってい
る。
 武者に(若)と呼ばれた若い男は、振り返り侵入者の存在を告げた。
 「おお、鬼武者か。良い所に来てくれた、侵入者だ。」
 「侵入者ですと?それは一体・・・」
 「若い娘だった。今、小川を裸で逃げて行ったよ。」
 (若)から鬼武者と呼ばれた男が、不信な目で小川を見つめる。
 「では、この近くの娘が知らずに迷い込んで来たのでしょうか。」
 鬼武者の言葉に、(若)は首を横に振る。
 「いや、あいつは鬼の一族じゃなかった。普通の魔族の娘・・・いや、ちょっと違うか
もな。あの娘、炎の使い手だった。」
 (若)に装束を手渡す鬼武者が尋ねる。
 「はあ・・・炎を使うとは只者ではありませんな。我等に敵対する者の間者(スパイ)
でしょうか?」
 「わからん、でも敵じゃない事は確かだ。こんな場所を素っ裸でウロウロする敵はいな
いだろう。まだ遠くへは行っていない筈だ、探して来い。」
 (若)の指示を受け、鬼武者は頷く。
 「わかりました、すぐに後を追います。」
 小川を駆け出す鬼武者。そして装束を着ながら(若)は呟いた。
 「あの娘・・・カールヘアーだったな。カールヘアーの炎使い・・・もしかして?」
 彼の脳裏に、ある姫君達の存在が思い浮かんでいた。
 
 (若)から逃げ果せたミスティーアは、先程の浜辺にまで走り出していた。
 「はあはあ・・・ここまで逃げれば・・・」
 一息ついたミスティーアは、湖から自分の名前を呼ぶ者の心材に気がついた。
 「姫様ーっ!!どこですのーっ!?」
 その声はアルの声だった。見ると、エルとアルの2人が湖を泳いでこちらに向かってく
るのが見えた。
 「エルーッ、アルーッ!!ここよ〜っ!!」
 手を振って2人を呼ぶ。その声に答えてエルとアルはミスティーアのいる浜辺に上がっ
て来た。
 「姫様〜。もうっ、心配しましたですわ〜。」
 不機嫌に言うエルは、ミスティーアが焦った顔をしているのに気がついた。
 「姫様、どーかしましたか?ですわ。」
 「話してる暇は無いのっ、早くここから逃げないとっ!!」
 「?・・・どーしたんですの。」
 血相を変えているミスティーアを怪訝に見ていた2人だったが、ミスティーアが焦って
いる訳はすぐにわかった。
 「待て、貴様等〜。」
 小川から黒装束の武者が現れ、3人に迫って来たのだ。
 「早く逃げましょうっ!!」
 武者に背を向けた3人は、湖に飛び込んで泳ぎ出す。
 泳ぎの上手いミスティーア達が、岸からどんどん離れて行く。鬼武者からも逃げたミス
ティーアは、泳ぎながらエルとアルに声をかけた。
 「プハ、ぷ・・・た、大変よ・・・プハッ・・・私達は大変な所に来てしまい、プハッ。
ましたわっ・・・」
 「プハッ?そ、それは・・・プハッ。どー言う事ですの、プハッ。」
 「向こうについたら話ますわっ、とにかく・・・プハッ・・・急いでっ!!」
 平泳ぎからクロールに変えた3人は、仲間のいる浜辺へと急いだ。
 
 ミスティーアが湖を逃げている頃、魔戦姫達は休息を満喫している最中であった。
 ミスティーア達が戻ってくるのに気がついたのは、ノゾキの警戒をしていたアルカだっ
た。
 何気なく見つめた湖面に、3つの水飛沫が現れた。
 「あれは・・・ミスティーア姫様が戻ってこられましたわよ。」
 アルカの声に、一同は湖面を見る。水飛沫は大きく、ミスティーア等が大急ぎでこちら
に泳いでくるのがわかった。
 「随分と急いでるのね、競争でもしてるのかしら?」
 手を額に当てて湖面を眺めているレシフェが呟く。でも、その急ぎ方は競争などしてい
る様子ではなかった。
 やがて・・・3人はバシャバシャと音を立てて浜辺に到着した。
 「ハアハア・・・やっと到着しましたわ・・・」
 荒い息を吐いて浜辺に上がってくるミスティーアに、レシフェ達が駆け寄った。
 「どーしたの?こんなに慌てて・・・」
 「じ、実は・・・」
 アルカに赤いビキニを手渡されたミスティーアが、ビキニを身に着けながら今までの経
緯を全て話した。
 「ええっ!?鬼の一族がいるですってっ!?」
 「そうなんです・・・森で出会ったあの男・・・鬼の一族でしたわ・・・」
 驚くべき事態に唖然としている一同。全くの無人だと思っていたこの楽園に先客がいた
のだ。
 ミスティーアの話を聞いたアルカが、深刻な顔で呟いた。
 「それじゃあ、さっきの視線はもしかして・・・」
 その声を聞いた天鳳姫が尋ねる。
 「さっきの視線?何のコトね。」
 「はい、黙っていて申し訳ありませんが・・・先程から何者かの視線を感じてたんです。
恐らく、ミスティーア姫様が出会った男以外にも、鬼の一族がいる可能性が・・・」
 普段呑気なスノウホワイトも、顔を曇らせている。
 「では・・・誰かが覗いてたと言うのは・・・本当だったのですね?」
 「ええ、間違い無いと・・・」
 その会話は、レシフェの声で遮られた。湖面を見る彼女の顔が険しくなっている。
 「あれは・・・アルカッ、双眼鏡か何かないっ!?」
 「望遠鏡ならありますけど、何があったのですか。」
 「早く持ってきてっ!!」
 レシフェの声に、アルカは慌てて望遠鏡をコテージから持ってくる。それを受け取った
レシフェは、湖面に望遠鏡を向けた。
 望遠鏡を見るレシフェの顔が、見る見る青くなった。
 「た、大変だわ・・・船に乗った人が、何者かに襲われてるわっ!!」
 望遠鏡から映し出された衝撃的なシーン・・・湖のほぼ中央に小型の船が浮かんでいる。
その船は何者かに追われて逃げていた・・・


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