魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀31


       激戦の終わり。そして平穏・・・ 
ムーンライズ


 リーリアが皆の所に戻って来ると、ミスティーア達は魔族の医師から応急処置を受けて
いた。
 魔力がなくなったので、魔人達の拷問でできた傷が再発してしまったのだ。
 「あ〜ん、痛いですわ〜。」
 「え〜ん、痛いですの〜。」
 泣いているのはエルとアルだった。魔力をなくしている今の彼女達は、ただのか弱い女
の子だから。
 傍らではミスティーアが優しく頭を撫でている。
 「もう泣かないで・・・ほら、涙を拭いてあげるわね。」
 「「あ〜ん、え〜ん。姫様〜。」」
 そんなミスティーア達を見ながら、リーリアは借りていたリボンをレシフェに手渡した。
 「はい、これは返しますわね。」
 リボンを受け取り、少し不安げにリーリアを見つめるレシフェ。
 「あの・・・官僚達はどうなったのです?」
 その問いに、リーリアは何事も無かった様に笑った。
 「どうって、皆さん大変賢明なる方達でしたわ。これからもバーゼクスの為に懸命なる
努力を惜しまないと仰ってくださいましたし、ウフフ・・・」
 意味ありげなその微笑に、レシフェとアルカは頷きあった。
 「姫様、あれって・・・きっと官僚達を酷くイジメたに違いありませんわ〜。」
 「多分ね、可哀想な官僚達・・・」
 2人は知っている、リーリアが意味ありげに笑う時は、壮絶なる地獄絵図を展開させて
いる事を・・・
 でも、リーリアは罪無き者には温和である。親とはぐれて泣いている子供達を抱き上げ、
優しくあやしている。
 「ほら、もう大丈夫ですわよ。もうすぐパパやママに会えますからね。」
 「うん、ありがとう・・・」
 そんな光景を見て、レシフェ達は無言で微笑んだ。
 「姫様、そろそろ魔界に帰りましょう。」
 「そうね、でも1ヵ月も入院だなんて・・・身体が鈍りますわ、あ、痛たた・・・」
 アルカに支えられ、渋々立ち上がるレシフェ。
 スノウホワイト程ではないが、重症を負っている魔戦姫達には1ヵ月の入院生活が必要
になっていた。
 ミスティーアとエル、アルも、ジャガー神に抱き抱えられて魔界へと行く準備をする。
 「ありがとうね、ジャガー君。」
 「ンニャ、これぐらいお安いご用だニャ。」
 逞しい獣人の腕は、3人を抱えても余りある程であった。
 その横では、視力の弱っている天鳳姫が駄々をこねて黒竜翁を困らせていた。
 「ひ〜ん、また目が見えなくなったアルよ〜。一生目が見えなくなるのコトね〜。」
 「なーにを情けない事を言っとるのじゃ。ほれ、これでもかけておれ。」
 黒竜翁はそう言いながら、天鳳姫に眼鏡を手渡した。
 「これって、老眼鏡アルかっ!?ワタシはオバーさんじゃないのコト・・・あ、でも良
く見えるね、お師匠様の変な顔が。」
 「お前は一言多い〜っ!!」
 またしても子供じみたケンカを始める凸凹師弟。
 そんな天鳳姫を、ランランが笑いながら抱き上げる。
 「もう、黒竜翁様とケンカしちゃダメズラですよって・・・ぷっ・・・」
 「あーっ、今笑ったねっ!?そんなに眼鏡顔が可笑しいアルか〜。」
 「なはは・・・すみませんズラ・・・うぷぷ・・・」
 そして一同は魔界ゲートの下に集まった。
 見送る黒竜翁が皆に手を振る。
 「みんなちゃんと養生するのじゃぞ。」
 「はい。」
 静かに魔界へと帰る魔戦姫達。そして黒竜翁は後に残ったリンリンに声をかけた。
 「ではリンリン、わし等は一仕事片付けるとしようぞ、魔人にされた人間達を助けねば
の。」
 「わかりました。」
 2人はそう言って、魔族の医師達と合流する。
 
 魔族達が人々の救出に奮闘している中、気絶していたエリーゼ姫が目を覚ましていた。
 眠っている人々に囲まれていたエリーゼ姫は、燃えあがるバーゼクス城を見て、全てが
終わった事を知った。
 「終わったのですね・・・全てが・・・」
 呟くエリーゼだったが、彼女の心には空しさが広がっていた。自分は父親に見捨てられ
た・・・そんな気持ちが彼女にあったのだ。
 仕方が無いとはいえ、モルレムと政略結婚させられ、悲痛な惨劇に見舞われた彼女の心
は深く傷ついているのだ。
 そんな傷心のエリーゼ姫の名を呼ぶ者がいた。
 「エリーゼ・・・エリーゼッ!!」
 その声に振り返ると・・・そこには父、ゴードン領主が盲目の神父と共に立っていたの
だ。
 「お父様・・・」
 呆然とするエリーゼを、父ゴードンは泣きながら抱き締めた。
 「おお、エリーゼッ!!よかった・・・生きていた・・・許してくれ・・・全て・・・
私が悪かった・・・お前を苦しめたのは私だ・・・許してくれ・・・」
 泣きながら謝罪する父に抱かれたエリーゼは、胸に込み上げてくる熱いものを我慢し切
れず、声を上げて泣いた。
 「お父様・・・会いたかったですわ・・・う、わああ・・・ん・・・」
 抱き合う父娘。その後ろでたたずむ盲目の神父に、サン・ジェルマンが声をかけてきた。
 「神父、アーヴァイン神父じゃないかっ。」
 魔界伯爵の声に、盲目の神父・・・魔戦姫の仲介役を担うアーヴァイン神父は振り向く。
 「あ、これはサン・ジェルマン伯爵様。」
 深く頭を下げるアーヴァインに、サン・ジェルマンは尋ねた。
 「どうして君とゴードン領主がここに?」
 「はい、実はゴードン領主がどうしてもエリーゼ姫にお会いしたいと仰られまして・・・
危険を承知で参りました。」
 アーヴァインの返答に、ゴードン領主の娘を想う気持ちを察して納得する。
 「そうか・・・まあ、こっちも色々とあったが、やっと終わったよ。酷い戦いだった、
大勢の命も失われてしまった・・・」
 戦死したハルメイルの部下を悼むサン・ジェルマン。そしてアーヴァインは人々の外れ
に横たわる魔族の戦士達へと歩んで行った。
 盲目だが、彼には判るのだ、悼むべき者達の姿が・・・
 「魔族の戦士達ですね、伯爵様。」
 「ああ、そうだ。みんな勇敢に戦っていった・・・本当の勇者さ・・・」
 「そうですか・・・」
 アーヴァインは跪き、戦士達の魂に鎮魂の祈りを捧げる。
 「我等が父たる主よ、罪なき者を守り、戦った英雄の魂を主の御許に送ります。願わく
ば彼等の魂が主の御手に抱かれて永久の平安が与えられん事を。父と子と聖霊の御名にお
いて・・・アーメン。」
 アーヴァインの祈りを聞きながら、サン・ジェルマンは夜空を見つめた。
 「神王、私は戦いますよ。全ての罪無き者を救うために・・・」
 かつて神界で天使長ルシファーと呼ばれたサン・ジェルマン。
 彼もまた、魔戦姫と同じ使命を背負っていた。全ての罪無き者を救う使命を・・・
 
 同じ頃、魔界へと向かっていたスノウホワイトは、優しき腕の中で目を覚ました。
 「う・・・うん・・・ここは?」
 彼女の目覚めに、スノウホワイトを抱えていた者が声をかける。
 「シャーロッテ、目が覚めたんだね。」
 ・・・シャーロッテ・・・
 スノウホワイトをそう呼ぶ人物は、ハルメイルと同じ顔付きをした見目麗しき美青年で
あった。
 彼が口にしたシャーロッテと言う名前・・・それはスノウホワイトの実名であった。
 そして・・・スノウホワイトをシャーロッテと呼ぶこの美青年こそ、ハルメイルの真実
の姿である。
 「ハルメイル様っ・・・ここは?」
 「魔界ゲートの中さ、もうすぐ魔界に到着するよ。みんなもこっちに向かってる。診療
所についたら、オイラがシャーロッテを看病してあげるからね。」
 優しく微笑むハルメイル・・・魔王にすら見せた事のない彼の本当の姿。
 ハルメイルは最愛のスノウホワイトこと、シャーロッテ姫の前でしかこの姿を見せない。
彼は誰よりも愛しているのだ、シャーロッテ姫を・・・
 久しぶりに見るハルメイルの本当の姿に、スノウホワイトは恥かしそうに顔を伏せた。
 「あ、あの・・・私は・・・もう大丈夫ですから・・・それよりもハルメイル様のお怪
我の方が心配ですわ・・・」
 そう小声で呟くスノウホワイトの額に、軽くキスをするハルメイル。
 「もう、2人っきりの時は様で呼ばないでよ、ハル坊って呼んで。シャーロッテはオイ
ラの優しいお姉ちゃんだもん。」
 そう言われ、スノウホワイトは嬉しそうにハルメイルの胸に抱きついた。暖かく、そし
て愛しいその胸に・・・
 「そうだったわね、ありがとうハル坊・・・大好きなハル坊・・・私のハル坊・・・愛
してるわ・・・」
 「オイラもだよ、シャーロッテ・・・愛してるよ・・・」
 見詰め合った2人は、互いの唇を重ねあい抱擁した。
 そんな2人を、ドワーフ達が喜びながら囃したてた。
 「ヒメサマト、ハルメイルサマ。ラブラブダ〜。」
 「あ〜、こらっ。見るんじゃないよお〜。」
 「うふふ・・・ハル坊ったら可愛い。」
 微笑む2人とドワーフ達・・・
 全ての苦しみが、悲しみが・・・2人の愛によって癒されていくのであった・・・
 
 
 
 全ての野望もろとも、バーゼクス城が崩壊してから一ヵ月が過ぎていた。
 王が不在となり、バーゼクスから不当な扱いを受けていた周辺諸国の独立運動によって
混乱が生じたが、エリーゼ姫の懸命なる活動によって混乱は収拾され、デスガッド一味の
行なった事件は無事解決した。
 それにより、今までデスガッドの野望に加担していたバーゼクスの官僚や大臣達も、悪
業の全てを陳謝し、今後二度と周辺諸国への搾取はしないと声明文を出したのである。
 (無論、リーリアや魔戦姫がバーゼクスの官僚や大臣に脅しをかけていたのは言うまで
もない。)
 事件を収拾したエリーゼ姫は、当初バーゼクスの民から新たなる王として即位してほし
いと懇願されたが、バーゼクスの女王になる事を丁重に断り、故郷ライエルへと戻ってい
った。権力や汚れた欲望には二度と関わりたくなかったからだ・・・

 そして、バーゼクスの脅威から解放されたエリーゼ姫の故郷、ライエルにも安らぎの日
々が訪れていた。
 柔らかな日差しに包まれたライエル城。その門を護る2人の衛兵が、惚けた顔でボンヤ
リと座り込んでいた。
 城を護るという役目も何処へやら、物思いにふけっている2人の頭の周りにはチョウチ
ョがひらひら舞踊っている。
 「はあ〜、ミィさん・・・」
 「はあ〜、白雪姫様・・・」
 2人は互いの呟きを聞いて顔を見合わせる。
 「ペドロさん、淋しいっスね。」
 「ボビー、おめえもか?淋しいよなあ・・・切ないよなあ・・・」
 2人はそう言うと、大きな溜め息をついた。
 そう、この衛兵達は魔戦姫に助けられていたボビーとペドロの2人だったのだ。
 デスガッドとの抗争で負傷していた2人は、魔界で献身的な治療を受けて無事生還して
いた。そしてバーゼクスでの職を失った彼等は、エリーゼ姫とゴードン領主に雇われてラ
イエルで勤める事になっていたのだ。
 今回の事件で誘拐されていた娘達や、賢者の石の光で魔人にされていた人々も魔族に助
けられ、何事もなかったように平穏な生活に戻っている。
 でも彼等が魔戦姫や魔族達によって助けられている事は記憶にない。
 闇の存在である魔族や魔戦姫は、その実態を知られぬよう全ての被害者から記憶を消し
ていたのである。ボビーとペドロを除いて・・・
 魔戦姫と深く関わり過ぎていた2人の記憶を完全に消すことができなかったため、魔戦
姫達はあったことをを口外せぬよう2人に言い含めて人間界に帰していたのだ。
 2人に蘇る戦いの記憶。そして・・・優しく愛しい姫君の笑顔が浮かんでいた。
 「ペドロさん、もうミィさん達には会えないのかな・・・」
 「たぶんな。彼女等は俺達とは住む世界が違うんだ、俺達を守るために闇の世界で今も
戦い続けてると思う・・・」
 戦う宿命を背負った魔戦姫。その彼女達に会いたいと言う願いは、虚しく消えゆくのみ
である。
 いくら愛しても、どれだけ想っても、彼女達は闇の者・・・
 ボビーやペドロの手の届かない所にいるのだ。
 「あ〜あ、もう一度会いたいよ〜。ミィさん、白雪姫様〜。」
 そんな情けない声で呟く2人の後ろから、軍服を着た老人が声をかけてきた。
 「どーした、おめーら。何シケた面しとるんじゃい。」
 小柄な体格に白い口髭を伸ばした老兵は、曲がった腰に手を当てて笑っている。
 その老兵を前にして、思わず敬礼するボビーとペドロ。笑っている老兵は、ライエル軍
を率いる将軍である。
 「あっ、こ、これは将軍っ。」
 緊張した顔で敬礼する2人を見て、老将軍はケラケラと笑い声をあげる。
 「なーに堅苦しい事やっとるんじゃ。別に敬礼なぞしろとは言っとらんわい、楽にせい。
」
 「は、はあ・・・ではお言葉に甘えて・・・」
 老将軍に言われて姿勢を楽にする2人。以前2人がいたバーゼクス軍では絶対に考えら
れない事である。冷酷司令官のゲルグの前で姿勢を崩せば、それこそ鉄拳制裁がまちうけ
ていたから・・・
 そして老将軍は、愛想の良い顔で軍人の心得を説いた。
 「いいかおめーら、軍人ってのは戦う時にだけ緊張してりゃいいんじゃよ。四六時中緊
張してたら神経が参ってしまうだろ?そんな状態で戦うなんざバカのやることよ。それに、
さっきのおめーらのアホ面は恋煩いしてる面だな。さては惚れた女の事でも考えてたか。」
 図星を突かれ、苦笑いするボビーとペドロ。
 「あはは・・・お察しの通りッス。」
 「のっほっほ、やっぱりそーだったか。ええ事じゃ、惚れた女のために戦う。これぞ男
よ。こう見えてもワシは若い頃に女にモテまくったんじゃぞ。ライエル中の女どもの声援
を受けて戦場を駆け巡ったもんじゃ・・・まあ、今は天国のバアさんが応援してくれるぐ
らいじゃがの。若い奴は羨ましいわい、のっほっほ。」
 若い2人の肩をポンポン叩き、過去の良き日を思い出す老将軍だった。
 戦いと緊張の日々を送っていたボビーとペドロにとって、老将軍の穏やかなる言葉は心
にしみた。全ての忌まわしい過去が癒される思いであった。
 「ありがとうございます、将軍。」
 2人の口から、自然と感謝の言葉が漏れる。そして老将軍は、無言で頷きながらそれを
聞き入れた。
 そんな彼等は、門前に一台の馬車が近寄ってくるのを見た。
 馬車は門前で止まり、みすぼらしい幌から1人の若い娘が顔を出した。
 「あの・・・ここはライエル国王様のお城ですよね?」
 娘の質問に、ボビーが応対する。
 「そうだが、あんたは何者だ?ここに何しに来たんだ?」
 すると、娘は馬車から降りて3人の前でひざまずいた。
 「私達は旅芸人一座の者です。実は・・・町での公演が不評で収入が無く、路銀を使い
果して困っております。このままでは私達一座は野垂れ死にしてしまいますの・・・どう
か、お城で公演をさせては頂けないでしょうか?ご無理は承知しております、私達の芸が
面白くなければ御代は結構ですから・・・」
 今にも泣きそうな声で訴える娘。その悲しそうな顔を見たボビーは、お姫様歌劇団がバ
ーゼクスに来た時の事を思い出していた。
 「ミィさん・・・」
 思わず愛しいミィさんの名を口にするボビー。顔は似ていないが、憂いのあるその面影
に、ミィさんことミスティーアの面影が重なったのだ。
 そして馬車を見ると、幌から数人の子供達がお腹を空かせた顔を覗かせている。娘の幼
い兄弟達らしく、皆よく似た顔だ。
 ボビーと娘の応対を見ていた老将軍とペドロが顔を見合わせて呟いた。
 「ふーむ、どうやらかなり困っておるようじゃの。」
 「でも、勝手に部外者を城に入れるわけにはいきませんが、どうします?」
 ペドロの質問に、老将軍は明るい声で答える。
 「かまわん、かまわん。御館様やエリーゼ姫様にはワシが後で説明しとくわい。丁度暇
だったンじゃ、城の連中も喜ぶぞ。」
 そう言いながら娘の前に歩み寄った。
 「旅芸人だそうじゃが、どんな芸を見せてくれるのかの?」
 老将軍の言葉に、娘の顔がパッと明るくなった。
 「で、では公演を許可して頂けるのですねっ!?ありがとうございますっ。芸はつまら
ないものですが・・・私の歌と父と母の手品。それに弟と妹の曲芸が持ち芸です。」
 その返答に、ニコニコ笑顔を浮かべる老将軍。
 「おお、それは楽しみじゃ。では城の連中に話してこよう、おひねりをタップリ用意さ
せるから待っててくれ。」
 そういいながら、城の中へと入っていった。
 そして馬車から大勢の子供達が出てきて、ボビーとペドロの傍に駆け寄る。
 「ねえ〜、お腹すいたよ〜。」
 2人の服の裾を掴んでおねだりする子供達を見て、姉と両親は慌てて窘めた。
 「これっ、兵隊さん方を困らせるんじゃありませんよっ。どうもすみません・・・最近
ロクな物を食べさせていないもので・・・」
 「ああ、いいんです。この子達、腹を空かせるンですね?ちょっと待っててください。」
 ペコペコ謝る両親を制したボビーとペドロは、自分達のリュックサックからパンを取り
出して子供達に分け与えた。
 「わーいっ、ありがとう兵隊のお兄ちゃんっ。」
 元気良くありがとうを言った子供達は、仲良くパンを頬張り、満面の笑みを浮かべた。
 「本当に助かりましたわ。貴方達は命の恩人です、どうお礼を申したら良いか・・・」
 涙を浮かべて感謝する姉と両親達を見て、ボビーもペドロも照れている。
 「いや〜、命の恩人だなんて・・・お礼は将軍に言ってくださいよ。」
 子供達に囲まれ、ペドロはうれしそうに頭を掻いた。
 かつて、ゲルグの手先として暗躍していたペドロに、冷徹なハンターだった面影は微塵
もなかった。今の彼は、弱者を守る心優しき戦士なのだ。
 それはボビーも同様だった。
 彼の足元に、最年少であろう幼女が近寄ってきた。
 「えへっ、あのね、パンありがとう。おいちかった。」
 鼻水で汚れた顔を上げてボビーを見るその瞳は、とても純粋で綺麗であった。どんな宝
石も財宝も、この子の瞳の前では色褪せるであろう。
 そして女の子を抱き上げるボビー。
 「ずいぶん苦労したんだね、でももう心配いらないよ。」
 「えへへ。」
 微笑みあうボビーと女の子。
 そんな一同に老将軍が声をかけてきた。
 「おーい、城のみんなが集まったぞ。御館様も姫様もおられるよ。」
 その声に振り返る一同。門の内側に、ゴードン領主とエリーゼ姫が立っている。
 「将軍から話を聞いたよ。」
 「是非とも見たいですわ。」
 なんと、城中の者達が旅芸人家族の芸を観に来ているのであった。
 皆に歓迎された一座は、城内で最高の芸を披露した。拍手喝采を受け、ライエル城での
公演は大盛況のうちに終わった。
 「本当にありがとうございました、ありがとうございました・・・」
 旅芸人家族は、たくさんの土産をもらい何度もお礼をいいながら城を後にした。
 手を振って去ってゆく一座を見ながら、ボビーとペドロは呟きあう。
 「よかったッスね、喜んでもらえて。」
 「ああ、本当に良かった。ミィさんも白雪姫様も、あの笑顔を守るために戦ってるんだ
よな。最高の笑顔を守るために・・・」
 2人の見上げる晴れた空に、優しい魔戦姫達の笑顔が浮かんでいた。
 「いつかきっと、また会えるよね。ミィさん・・・」
 ミスティーアの笑顔に、そう告げるボビー。
 いつかきっと、必ず会える・・・あの優しい笑顔に・・・
 微笑む彼女達の名は魔戦姫・・・
 弱き者を助ける正義の使者である。






      ミスティーア・炎の魔戦姫2 伏魔殿の陰謀
                 END
 
      次回作に続く・・・





NEXT
BACK
TOP