『魔戦姫伝説』
魔戦姫伝説 ふぶき〜初陣編〜6.「北大路の家臣たち」
恋思川 幹
一方、頼基が出ていかれ、とり残された譜代の家臣たちは嘆息していた。
「……やはり、あの噂は本当であったのでしょうか?」
若い家臣が声を潜めて聞く。
「そうであろう。でなくば、頼基さまのあの取り乱し様、納得できぬ」
年配の家臣がそれに答える。
「では、やはりふぶきさまは頼基さまの手によって……」
「これ! 滅多なことを言うものではない!」
年配の家臣が若い家臣を諌める。
「……されど、我らは少し頼基さまを蔑ろにしすぎたやもしれぬ」
「亡き頼貞さまのご子息は頼基さまとふぶきさまのみでございました。そして、当主たり
える器はふぶきさまのほうが上であったのは、厳然たる事実にございます。惜しむらくは
ふぶきさまが女であった故に、家督を継ぐことが叶わなかったこと一事のみ。なればこそ、
頼基さまを一応の当主として実権はふぶきさまにと……」
「頼基さまは暗愚であらせられるが、お人好しではない。我らの企みをどこからか聞きつ
け、傀儡にされるのを恐れたのであろう。とはいえ、頼基さまお一人ではどうこうできる
ことでもないと思っておったのだが……」
彼ら、北大路の譜代家臣は明らかに主君である頼基を蔑ろにしていた。普通であれば、
不忠者の謗りを受けることであろう。しかし、同時に彼らの北大路家に対する忠誠は、こ
の下克上の戦乱の世にあって美しいまでに強固なものであった。
彼らの意識は、古い歴史を持つ名門・北大路家に忠義を尽くすことを誉れとしているが、
無能な頼基という個人に忠義を尽くす気などないのである。むしろ、北大路家を自滅させ
かねない頼基など排斥したいのが本音であった。
「最近の頼基さまは、私たち譜代の家臣がふぶきさまにかまけている間に、身辺に谷江の
旧臣を置いていらっしゃるとか」
「そうであるらしいな。頼基さまは手飼いの戦力を作ろうとして…… !」
年配の家臣はそこで言葉を止めると、刀の柄に手をかけた。
「何者か!?」
障子の向こうにいる気配にむけて、年配の家臣が詰問した。
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