『魔戦姫伝説』


 魔戦姫伝説 ふぶき〜初陣編〜4.「北大路 頼基」
恋思川 幹

「やぐらの上にふぶきさまの亡霊が現れました!」
「二の丸にふぶきさまの亡霊が!」
「大手門にふぶきさまが!」
「厨(くりや)に!」
「……!」
「ええ〜い!! 黙れ! 黙れ黙れ!! そんな報告、聞きとうないわ!」
 北大路 頼基は甲高いキンキン声で怒鳴り散らす。
 数日前からひっきりなしに現れるふぶきの亡霊に、頼基はいらだちを募らせているのだ。
「よいか! ふぶきはもう死んだのだ! 亡霊などと馬鹿馬鹿しい! 今後、そのような
モノが現れるのであれば、構わぬ! 矢で射殺すなり、槍で突き殺すなり、成敗してしま
え! 報告はせんでいい!!」
 頼基はその端正ではあるが軟弱そうな顔をしかめて、報告にきた家臣たちに怒鳴りつけ
た。
 頼基は三十路を越えたばかりの壮年であり、普通なら脂ののった年齢と言われるものだ
が、頼基はそういった覇気を持ち合わせていなかった。
「されど、殿。血を分けられた御兄妹ではありませぬか。もし、ふぶきさまの亡霊が本物
であらせられるならば、亡霊となってまでこの世を彷徨われるふぶきさまのご無念、お聞
き届けになるべきは、殿を置いてはありませぬ!」
 報告に来た家臣の一人が頼基に進言する。
しかし、頼基は何も言わずに席を立つ。
「殿! どちらへ?」
「奥だ! 今日はもう休む! ふぶきの亡霊、報告無用のこと、重ねて命ずる。よいな!」
 頼基は家臣たちを一喝すると、部屋を出ていった。




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