魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第11話 
Simon


ラムズたちの乗る馬車は街道を南下し、日が落ちる前にはレナンドの街に入った

レナンドはこのローデシア王国でも、最大の歓楽都市として名を馳せている
大通りでは日の暮れる前から煌々と灯を燈し、華やかな演奏と白粉の香り、娼婦
や男娼の嬌声が幻想的な祭のような賑わいを見せるのだ

十数人もの娼婦を抱える大店から、一人の娼婦とそのヒモだけの小店まで
主な花街だけでも大小百を越える娼館が軒を連ね、小路や裏通り――非認可の店
を合わせればいったいどれほどの淫華が夜毎咲き乱れているのか
この街の顔役ですら、その全ては把握しきれないと言われている

当然ここには娼館のみならず、客の多彩な要求に応える様々な店がある
飾り物や香水を扱う店があれば、禁制の媚薬を鬻ぐ店もあり、娼婦と客とが一時
の恋を語らう甘味屋は、過ぎ去った日々の甘酸っぱい想いを胸に蘇らせてくれる
また時にはごく普通の恋人たちが夢のような一夜を過ごすべく、あるいは公にで
きない想いに胸を焦がす恋人たちが、様々な趣向を凝らした連れ込み宿を訪れる
のだ

馬車は大通りを避け、比較的地味な構えの連れ込み宿へ横付けされていた
周囲の静けさのせいもあるが、少し他の宿とは様子が違う
できるだけ目立たないように偽装されているが、知っている人は知っている――
この建物には、窓が一つもないことを
窓に見えるのはすべて、壁に埋め込まれた濃碧の色硝子なのだ

――嗜虐プレイ専門の連れ込み宿
それも一げん客お断りの、いざと言うときの『後始末』まで面倒を見る店だ
民家の3倍はある分厚い石壁は、苦痛の悲鳴を遮るためではなく、断末摩の絶叫
を繋ぎ止めるためのものだと囁かれている

「――ラムズさん いつもの部屋を用意してあります」
「さっさと運び込め――こいつは下手な衛士よりおっかねぇからな、油断するな
よ」

手下たちが巧みに人の壁で視線を遮りながら、人目を引くことなく少女たちを運
び込む
この宿もまた組織のものであり、こういった仕事の拠点の一つとしても利用され
ている
彼らはここで攫ってきた女たちの味見をし、ある時は調教を施し――またある時
は『始末』をつけるのだ

ラムズたちが通されたのは、『0号室』と呼ばれる調教部屋で、充実した責具と、
この手の宿でもまだ珍しい排水設備を備えている

重々しい音を立てて分厚い扉が閉まり、続いて3重の鍵が耳障りな音を立てた
鍵の音が一つするたびに、ラムズの中で何かが解き放たれていった
性欲――というよりもより原始的な獣性が、背中をむずむずと這い回る

        ――さぁ、これでもう二人は逃げられないわ

「もう、お前らは逃げられねぇぜ」

     ――お姫様には少し待ってもらいましょう?

「おい、姫様を『黒椅子』に乗せな――まだ寝てんなら、拘束は取りあえず手首
と脛だけでいい」
「え? 黒椅子……ですか?(こんなガキを?) わ、わかりやした」

向かう先――部屋の一角を占める不必要なまでに頑丈な革張りの椅子からは、皮
ベルトが無数の舌のように垂れ下がり濡れ光っていた
両手首を頭の上で、両足を『M』字型に開いて固定する――女性の羞恥を煽るた
めの異形の椅子が、未だ眠りについている小さなお姫様をすっぽりと飲み込んだ
両足を大きく広げられ、頭を背もたれにあずけて眠るその姿は、容姿が整いすぎ
ているだけに色気よりも奇妙な人形芸術を思わせた
手下たちも『黒椅子』と少女とのギャップにどう対応していいのか、戸惑ってい
るようだ
もちろん男たちは様々な手管に通じているから、この少女を媚肉に変えることは
できるだろう

だがラムズは、今更焦るつもりはなかった

――今貪るべきなのは
          ――今貪るべきなのは

「――待たせたな嬢ちゃん さっきは舐めたマネしてくれたじゃねぇか」

                  ――この娘ですものね


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