魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第12話 
Simon


壁に持たれかけたまま、少女は抵抗らしい抵抗は見せなかった
もっとも簀巻きにされた状態では、なにができるというわけでもなかったのだろ
う

「分かってるだろうが、お嬢ちゃん 暴れたら大事なご主人様がひどい眼に遭う
んだぜ」

布越しに少女が頷くのを見てから、ラムズはロープをブツブツと断ち切った
まるで蛹から羽化するように顕わになった秀麗な美貌に、手下どもがため息を漏
らす
少女の固く結ばれた唇とこわばった表情は、ラムズの嗜虐心を大いに擽った

ふと思い立って少女の手首をつかみ上げると、一瞬ピクリと強張ったがすぐに力
を抜いてなすがままに任せてくる
どこまでも柔らかな極上の手触りを楽しみながら、繁々と眺めてみるが、どう見
ても扇子や茶器ぐらいにしか縁がなさそうな華奢な手だった
細くてしなやかな指の先には形のよい桃色の爪――逆に一緒にある自分の手の方
が、岩を削り上げたような粗雑なものに思えてくる
この繊手があの時自分の腹をえぐったとは――この眼で見ていても、やはり信じ
られないものがある

だが、さすがにいつまでもこうしているわけにはいかない
ラムズは少女のあごに指をかけると、自分と目を合わさせた
この状況にありながら、澄み切った碧い瞳はひどく静かだった

――こいつ やっぱり見た目どおりの玉なんかじゃねぇ

「――上等だ、お嬢ちゃん まずは名前を教えてもらおうか」
「――――――ユウナ……です」

少し驚いた
聞くだけで快感を覚える声など、初めてだった――耳の後ろを柔らかな布でなで
られたような心地よさだった

――たまんねぇな、オイ

思わず手下たちが未を乗り出してくるが、ユウナの視線はぴたりとラムズに据え
られたままだった
誰と交渉しなければいけないのか――はっきりと分かっているのだろう

――益々たまんねぇ

こんなにワクワクするのは、もしかすると本当に初めてかもしれない

「質問その2だ――ユウナちゃんが『絶対に譲れない条件』ってのを言ってみな」

――この流れだ

いつか一度は――そう思いながら、いつもくそみてぇな連中を相手にくそ下らね
ぇいたぶりしかできなかった
本物だったら、絶対にこの後こういうはずだ!

「姫様には――リンス様には指一本触れないでください」

――言った! そしたら次は――

「私をどうされようとかまいません 全て仰せのままに従います」

一片の迷いも僅かな怯みもない、真実の響きがそこにはあった

「――いいだろう 約束してやるよ あのお姫様には手は出させねぇ」

――見事なもんだ 少なくともここにいる連中は、完全にあんたに呑まれちまっ
た たとえ命令されたって手は出せねぇだろうよ

だがそれは同時に――

「たった今から、ユウナちゃんの全ては、俺たちのもんだぜ」


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