魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


第2話 琥珀の風 part23
Simon


――奇麗な人


大きなお屋敷を、ユーディに案内されて――あたしは初めて、ユウナよりも美人
な女の人に逢えた


「――アリーシャ様、この子がいつも話していたリンスちゃんです」

少しぽけっとしていたあたしは、慌てて頭を下げた

ユーディの目が、自慢げに笑っていた――アタシの姫様は美人でしょう――って
なんだか悔しいけど――でも、しょうがない

ユウナは美人と言うよりも、奇麗っていう方がぴったりだもの

……負け惜しみじゃないもん


「いらっしゃい――リンスちゃん、でいいかしら?」

「あっ はい! えっと――アリーシャさま、はじめまして リンスです いぜ
んユーディにたすけてもらってから、なかよくしてもらってます」

「まぁ! ユーディって、呼んでるのね?」


なぜだろう?凄く嬉しそうにユーディの方を見て――ユーディも、真っ赤になっ
ちゃってる


「アリーシャ様! アタシはまたお使いがありますから、リンスちゃんの相手を
――その……あ、あんまりへんなことは言わないように――って、いえ、アレは
ちょっと、アタシとしても恥ずかしいかも……違うの、リンスちゃんは気にしな
くてもいいことだから――アリーシャ様、何でそこで笑うんですか〜!」


話してるうちに、どんどん赤くなって――アリーシャ様は、ただニコニコ見てる
だけなのに


「と、とにかく!――そういうわけですから……行ってまいります!」


つむじ風みたいに出て行っちゃった
一瞬ドアに跳ね返されたと思ったけど、あれってお辞儀だったんだね


「あぁ、でも嬉しいわ――ユーディに、こんなに可愛らしいお友達がいたなんて」

――今、お茶を入れるわね?


お姫様なのにいいのかなって思ったけれど、凄く自然で奇麗な動きだったから、
つい見惚れちゃった


「ファーゴ産の蜂蜜茶なの――少しレモンを落すと、風味が増すのよ」


フワリ――って、テーブルにティーセットが置かれて、アリーシャ様から、とっ
ても甘い匂いがした
ユーディのとは少し違うけど、細い銀の腕輪がアリーシャ様の細い手首にも光っ
ている

――3つの腕輪は、舞姫の証なんです

この間、ユウナが教えてくれた――ユーディの腕輪は2つだから、舞華だって言
ってたっけ
それでもあの年で銀の腕輪を許されることは、素晴らしいことだって

――今度、踊って見せてくれないかなぁ


「――このお茶はとても甘味があるから、お茶請けはこういうシナモンの風味の
焼き菓子が合うのよ」

「――うわぁ! ほんとうに、あまい」


凄く澄んだ甘さ――それに、この香りが胸いっぱいに広がって――


「この間、ラーナンダ様に頂いたの この辺りではまだ珍しいから、大切なお客
様用にね」

「は、はい――とってもおいしいです!」

大切なお客様だって――どうしよう
ユウナが居てくれたらよかったのに

なんだかドキドキしていたら、アリーシャ様がお茶のお代わりを注いでくれた

お姫様っていうより、優しいお姉さまっていう気がする



それからあたしたちは、ミスランの踊りのお話とか、北の国のお祭のお話とか、
いっぱいしたけど――ユーディのお話を、いちばん沢山聞かせてもらっちゃった



――楽しかった…な……











――そっと扉を開けて、部屋に戻る


ニコニコと微笑んでいらっしゃるアリーシャ様と――ぼんやりと視線を宙に彷徨
わせているリンス

念のためリンスの瞳を覗き込んで――焦点が合っていない
小さな口の端から、少しだけ涎が垂れてる

ペロリと、舌で舐め取ると――口の中の血の味と交じり合って……


「――リンスちゃんの唾って、甘いね」


唇の端が吊り上がる――哂ってる――そう、アタシは嬉しい――嬉しくて、ウレ
シクテ、思わずこの爪で――





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