魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜
第2話 琥珀の風 part24
Simon
「ねぇ、ユーディ――リンスちゃん、疲れてたのかしら?」
――アタシは、リンスの目を抉り抜こうとしていた指を、もう片方の手で押し戻
した
まだまだ――我慢しなきゃ
「きっと、アリーシャ様に逢えて、興奮しちゃったんだと思いますよ――別室で
休んでもらえるよう、手配してもらいましたから――」
アタシは、軽すぎるほど軽い彼女を背負って――
「それではアリーシャ様――失礼いたします」
――パタン
扉の外では、マドゥとローロの二人が、息を潜めて待っていた
「ファズ様に言われてるから、あんたたちに任せるけど――」
――くれぐれも、アタシが戻るまで、余計なことはするんじゃないわよ!
釘を刺しながら、背負っていたリンスをマドゥに押し付ける
「――それでギニーは?……外で待ってるの?――分かった、じゃあアタシも、
もう行くからね!」
これ以上ここに居ると、我慢できなくなりそうだったから――アタシはもう一人
を迎えに行くために、屋敷を出て行った
「――おっかねぇな――丸っきり別人じゃねぇか」
「あんな目に遭わされちゃあな」
――誰だってぶっ壊れちまうぜ
背中の少女を揺すり上げながら、二人は背筋を震わせた
「ユウナさんと言ったね――よく来てくれた、私がファズ=ラーナンダだ」
私が最初に疑って――最初にそれを解いてしまった相手
外見も、身に纏う空気も、貴人としての風格に溢れている
それでも骨にまで染み付いた淫臭は、隠せるものではない
「――一目見れば分かることなのに――いったいどうやってあれだけの人の口裏
を合わせることができたのかしら?」
「なに、たいしたことはしていないよ――ただ、私のために働いてくれた人に、
何度かお礼をしただけだよ」
――そのことが知れ渡るまでね
「――つまり……この街では、誰もが望んであなたのために動くということなの
ね」
「人というのは弱いものだよ――そしてそれは、誰にも責めることはできない―
―違うかね?」
「そのことと、あなたのやっていることが許されるかどうかは、別の問題でしょ
う? ラーナンダ卿」
「フム――流石に簡単には引っかからない…か――お茶が冷めてしまったね、代
わりを用意させよう」
「いえ、すぐにお暇しますから、結構です」
「そうは言っても、お連れのお嬢さんは、もうお休みになっているよ」
――たしか……リンスさんと言ったか
キリリ――爪が掌に食い込む
「まぁ、飲みたまえ――きっと君も気に入ってくれると思うよ」
つまり――そういうお茶なわけね
「……頂きます」
私はティーカップを、ゆっくりと傾けた
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