魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜
第2話 琥珀の風 part3
Simon
「あ、あの――」
「あんたは黙ってナ!――兄さん、この女は、もう水揚げまでちゃんと詰めてあ
るんだからネ!」
――がっつかないで、店に出るのを待てばいいんだよ!
ぽんぽんと、威勢良く捲し立てているけど――水揚げ…ですって?
話している内容より、その勢いに押されて男が引いたのを見計らって――
「分かったラ、アンタはこっち――じゃぁお兄さん、西区の『ウクタ楼』で待っ
てるからネ〜!」
そう言い放った少女は、私の手をぐいぐい引っ張って一本の路地に入っていく
リンス様も訳も分からないままに、私に手を引かれて
水揚げ――要するに女性を……そういうことのための――
それでも私が少女について来たのは――
「――走るヨ! できるだけ、静かニ、急いで」
角を2回曲がったところで、切羽詰ったような囁き声と共に、少女が走り出した
少女の手の強張り、震え、汗――緊張
必死に握る、その強さが伝えてくる
――私を信じて――と
後ろから近づいてくる――足音!
私は迷わず、リンス様とその少女を両脇に抱きかかえて――
「――エッ!?」
「しゃべると、舌を噛みますよ!」
――――行きます!
――キャァァァァ!
――きゃぁぁぁぁ♪
声にならない悲鳴――でも、片方は……歓声だったような気も…
――ほんの数十秒
それでもう、完全に男を引き離すことができた
「――ここを抜ければ、もうすぐだヨ」
少女も緊張を解いて、今は私たちの先に立って、宿への道を案内してくれている
彼女の話によると、港の傍には、その……何と言うか、その手の店が多いのだと
いう
無事に帰って来れた開放感――殺し切れない航海への不安
そういったものが、男たちの血を高ぶらせるのだと言われれば、こちらも、そう
いうものかと頷くしかない
「――だけど、お姉さんたちハ、違うでしょ?」
「そうね――でもあのままだったら、きっとそういうお店に連れて行かれてたん
でしょうね」
「仕方ないヨ、具合悪そうだったし――」
――でも、お姉さん強そうだし、余計なお世話だったかな?
そうやって冗談めかして笑う――きっと凄く怖かったはずなのに
「あれは――必死だったから、少しだけ速く走れた――ただそれだけのことよ」
「ん――そういうことにしておいてあげル」
「でもほんとうは、ユウナはすごくつよいんだよ♪」
「リ、リンス様?」
「――プッ」
――アハハハハハ♪
少女――ユーデリカの楽しそうな笑い声が、ようやく落ち着いてきた日差しの中
に響いた
「――着いたヨ! ここなら、よそからノお客さんも多いし、安心だヨ」
「ありがとうユーデリカ――本当に助かったわ」
せめてお礼をしたかったのだけれど
「気にすることないっテ! じゃあネ、ユウナさん――リンスちゃんも、またネ!
」
日が落ちると、すぐに驚くほど真っ暗になるから、急いで帰らないと
「ユーデリカ、あしたは? あしたは、あえる?」
少女はちょっと驚いたように目を見開いて――それから、ニコッと笑った
とても素敵な笑顔だった
「うん! あした、一緒にお昼食べようネ!」
走っていく少女を見送りながら――
「リンス様、ずいぶん気に入られたみたいですね」
「うん――いっしょにいると、なんだかいいきもちになるの」
――ユウナは違うの?
「もちろん、私もです」
――明日が楽しみですね
翌日――私たちの昼食は、予想通り、とても楽しいものになった
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