魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜
第2話 琥珀の風 part2
Simon
ミスラン――西域最大と言われる貿易港スワシュを始め、幾つもの良港をその国
土に抱え、貿易の要衝として古くから栄えてきた海洋大国
褐色の肌をしたミスランの商人は、文字通り世界中の海にその手を伸ばしている
そんな彼らの拠点というだけあって、首都であるスワシュの港では、私たちのよ
うな北方系の白い肌はほとんど見られなかった
もっとも、私たちの訪れを拒んでいたのは、ミスランの人々ではなく、この――
「なにこれ まぶしーい!」
船室から上がってきた私たちを最初に迎えたのは、強烈な太陽の洗礼だった
話に聞いていたよりも数等――目が痛いくらいだった
「今が丁度、日差しが一番きつい時ダ 入港までまだあるかラ、下に降りていな
せイ!」
「そ、そうさせていただきます――さ、リンス様、こちらへ」
「う、うん」
北方の民の中でも比較的色素の薄い私たちには、確かにこの日差しは強烈過ぎる
とてもこの日差しの中を出歩く気にはなれそうもない
それでもリンス様は、船室の明り取りの小窓から外を珍しそうに眺めていた
海の色がだんだん変わっていくのが楽しい――と
船が停泊しても、太陽はまだ僅かに傾いたばかりといったところ
船室のミスランの人たちは、日差しも気にならないのか、すぐに降りて行くよう
だが、見渡せば3分の1ほどは、人が減ったことでゆとりの生まれた室内で寛い
だままだ
もう少し日差しが弱まるのを、ここで待つつもりらしい
船員たちもそんな乗客を急かすでもなく、お茶を供し、彼らの他愛のない噂話に
相槌を打っている
客船としても高級に属する――こうして客の無聊を慰めるのも代金の内なのだろ
う
私たちも、初めての異国の海の話に耳を傾けることにした
日が傾きかけ、さすがに残っていた客たちも、三々五々船を降りていく
船員たちも、そろそろ明日の出航の準備にかかるのだろう
私とリンス様も、この1週間お世話になった彼らに謝意を述べて、港へと降り立
った
――眩しい
やはり第一印象は、それに尽きた
船で手に入れた薄手のスカーフは、けれど日差しを遮るには役不足で――
「ユウナ、めがショボショボするよー」
傾いた太陽を、うっかり目に入れてしまったのだろう
リンス様が困ったように私の手を握り締める
かく言う私も、似たような状況だった
目の奥が赤くなって、建物等も影になってしまってよく見えない
「――娘さんたち、スワシュは初めてかネ?」
立ち往生している私たちを見かねてか、同じ船から降りてきた男が話しかけてき
た
「本当ハ、少しずつ光に馴染ませて行くものなんだガ――船の中でもしっかりし
ていたかラ、慣れているのかト思ったんだヨ」
「いえ――話半分に聞いていた私のせいですから」
彼のすまなさそうな声に、私も苦笑交じりに応じた
「眩しいと言うより、強い――この言葉の意味を、もっと真摯に受け止めておく
べきでしたわ」
「ふム――たしかに明るさで言えバ、北もミスランも変わらんからナァ」
――ここの太陽の下で育つと、北の日差しは頼りなく思えるけどな
そんなことよりも――眩しくて目をまともに開けていられないというのに、つい
目蓋を開けようとしてしまうのは、どういうことなのだろうか
暑さと眩しさで、眩暈まで感じてきそうだ
「――すまんナ、妹さんも早く休みたいだろウ?――とりあえず、近場の宿を紹
介してあげよウ」
――汗を流せば、気分もよくなるさ
先に立って歩き出した男の後を付いていく
リンス様の手だけはしっかり握っていたが、やはり少しぼうっとしていたのだろ
う――
――――ガシッ!
突然、開いていた手を握られて、声も出ないほど驚いてしまった
その上――
「ちょっと! なに勝手にフラフラしてるんだイ!」
いきなり怒鳴りつけられて――でも、この手――この人って、もしかして――
「あんたらは、黙ってアタシに付いて来りゃいいんダ!」
やっぱり……精一杯に気合を込めて睨み"上げて"くるのは――
「あんたも!――この娘たちは、うちのモンだヨ! 手ぇ出してんじゃないヨ!」
小さな可愛らしい『女の子』だった――
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