魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


第2話 琥珀の風 part1
Simon


照りつける午後の日差しは、路上に色濃く影を落とし
人々は茶店の庇の下で、一時の涼を得る

「お客さん、鳥のスープの饅頭が蒸しあがったけド、一つどうだイ?」
「? シチューなのにおまんじゅうなの?」
「この暑さなのに、蒸し物ですか?」
「まぁ、食べてみれば分かるガ、これが結構合うんダ――うちの女房の得意料理
だヨ」

初めてこの日差しを浴びたときには、リンス様と二人して眩暈を起こしてしまっ
たものだ
その時は思わぬ助け手のおかげで事なきを得たが、後で聞いてみると、中々際ど
いところだったらしい

「あ! お姉さんたち、まだ食べたことがなかったンダ! これは絶対お勧めダ
ヨ――おじさん! アタシには2つネ!」

表面の水滴がいかにも涼しげな大ジョッキを、両手で抱えるようにして傾けてい
たオチビさんが、茶店の主人に元気よく注文を飛ばした
彼女の前にはもう空になったお皿が3枚――見ている方が気持ちよくなるほどの
食べっぷりだ(私とリンス様は、冷麺の小鉢を一皿ずつ頂いていた)
運ばれてきたお饅頭は、浅いスープ皿に載せられて、ホクホクと湯気を立ててい
た

「こレは、こうヤって手で千切りながラァ、中のスープを絡めテ――うん! 今
日のもおいシイ!」
「ハハハ ありがとうヨ!」

少女が実演してくれるのに倣って、私たちも頂くことにした
少しお行儀が悪いとも思ったが、他の客も同じようにして口に運んでいる
郷に入っては、ということだろう
そうして口にしてみれば――なるほど、これは確かに

「から〜い! でも――おいしい!」

リンス様が驚いたように目を丸くし、少女がしてやったりと笑顔を浮かべる
スープも喉越しがよく、これならこの暑さでも食べやすい
それにこの辛さと熱さが肌を火照らせ、吹き抜ける乾いた風を、より心地よいも
のにしてくれる
この気候だからこその郷土料理ということか
似たような料理でも、北とはまたずいぶんと趣が違うものだ

「ね? この宿にシテ、よかったデしょ」

ご飯が美味しいのが一番だよ――そういって笑顔を浮かべる少女
この街で最初に知り合えたのがこの娘だというのは、私たちにとって本当に幸運
なことだったと思う

「ねぇ、やっぱり貴方には、ちゃんとお礼をさせて欲しいと思うのだけれど――」
「あハハハ そんなノ、いいって言ってるのニ」
「でもユーデリカのおかげで、すごくたすかったって、ユウナがいっていたよ?」

――あたしは、よくわからないけど

リンス様が小首をかしげて――ああ、欠片をほっぺたに付けて――
思わずそれを、指でつまんで自分の口に運んでしまい――
はたと我に返ったところで、彼女と目が合ってしまった

ニンマリ――って
――そ、それ、子供のする目じゃないわよ

「あ〜お腹いっぱい! じゃ、アタシもう行くね!」

――ご馳走様でシた♪

笑顔で椅子から飛び降りたとき、シャラン――しなやかな細い手首で銀の腕輪が
鳴った
噂に名高いミスランの舞踊――きっとこの少女も、踊りをよくするのだろう
外していた白いヘアバンドで前髪をかき上げると、形のいい額と大きな瞳がいっ
そう際立つ

「やっぱりユーデリカには、白が似合うわね」
「あリがとう! これ、アタシの宝物なの!」
「ねぇ、ユーデリカ――」
「ユーディでいいヨ」
「じゃあ、ユーディ――あのね、あしたもきてくれる?」
「もちろン! 一緒にお昼食べようネ」

――また話の続きを聞かせてね!

そう言って軽やかに日差しの中に駆け出していく
黒髪も褐色の肌も、光をはじいて輝いて――

「ユーディって、すごいげんきだね」
「真似をしてはいけませんよリンス様――夕方になったら、帽子を買いに行きま
しょう」

少しは慣れてきたけれど、やはりこの日差しは、私たちにはまだきつい

「そうしたら、ユーディといっしょに、はしれるかなぁ」

――そうだといいな

嬉しそうなリンス様のために、私は2杯目の薄荷水を注文した










――ギシギシギシギシ――

「――はぁはぁはぁ――」

やだ――もうやめて――

「あぁっ――い…くぅっ!」

――でも、あたしにはどうすることも

「――ふぐっ!…ぅぅ…ん――んちゅ――」

――ゆるして――ゆるしてください――


「――あん、あ、あ、あ、く、は、あ…ぁ!――――あぁぁぁぁ!!」



――……………………


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