ダーナ氷の女王 第二部 第7話 6
翌日、日が昇ると、それまで澄み切っていた空が、暗雲に包まれていった。
朝の早い猟師達も、その日は出漁を取りやめたほど。
海の向うは晴れ渡っているというのに。その雲は内陸部から沸いてくる。
いや、それは砂漠の魔女の城から沸き上がっているようにも見える。
その雲は空を覆い、日を遮り。まるで夜のようだ。
村人達は怪しげな雲に、よくない兆候を感じていた。
「あいつらが、あの化け物達がまた来る!」
「今度こそこの村を滅ぼしにやって来るんだ!」
村人達は口々にそうつぶやく。
辺り一面に張りつめた緊張が猫族の村を覆っていた。
化け物の襲来以来、村の入り口にたった警備の者たちは、更に敏感になっていた。
「この前なんか比べ物にならない、恐ろしい事が怒りそうだ」
「俺たちもこの村を捨てた方がいいんじゃないのか・・」
すっかり弱気になって、そんな言葉をつぶやくもの。震えて座り込んでしまう者。
昼夜を問わず、焚かれた薪が細くなっても、だれも気が付かないほどだ。
アンデッド達には驚異となるはずだというのに・・。
「おじさんたちだらしないなあ・・・そんな格好じゃ魔女には勝てないよ!」
突然、暗闇の中から子供の声が響いた。
すっかり暗くなっているというのに・・。
「ああ?」
警備の男が顔を上げた。小さな人影が見える。
闇が人が近づくのを容易にしている。
薪もすっかり消えていた。
「だれだ?お前?」
「お、大人をからかうもんじゃないぞ!」
そしてやっと、薪が消えているのに気づく。
「火が消えているぞ!」
あわてる男達。思ったように火は付かない。
無理もない、自然に消えたのではない、砂をかけられている。
「お前がやったのか?ただの悪戯じゃあすまされないんだぞ!」
男達が子供をしかりつける。だが、子供は逃げようともしない。
それどころか、男達に近づくとにやりと笑った。
「お、おまえ!・・」
それはマナだった。だが、マナとは思えない凶悪な表情に包まれていた。
「おじさんたち、しんじゃえ!」
「なに?」
マナの叫び声は地獄のそこからでも響いてくるかのようだった。
「お、おおっ!」
マナの後から奇怪な触手が伸び、男達を絡め取っていった。
「きゃは・・きゃはははは・・・・しんじゃえ!みんなしんじゃえ!」
マナが信じられないような言葉を叫んだ。
マナを包む衣が風になびき。まるで背中に羽の生えたように羽ばたいた。
そう、まるで悪魔の翼のように。