ダーナ氷の女王 第二部 第7話 5

「まさか、また姫君になにか・・」

キラとガインの顔色が変わった。
素早く立ち上がるキラ、だが、ガインは動こうとしない。

「どうしたんだ?姫様との事が気にならないとでも?」

ガインの行動に露骨に不信感をあらわすキラ。

だが、ガインは

「いってやってくれ・・・」

そういって動こうとしない。

「勝手にしろ!」

吐き捨てるように言うと、キラはダーナの眠る部屋へ。

「うう・・う・・うう・・・」

ベッドの中で、ダーナがうめき声を上げている。苦しそうだ。

「姫・・・!」

キラはダーナに近づいた。
特に変わった事はないようだ。だが、顔色は悪く、うなされているようだ。

「悪い夢でも見ているというのか?」

無理もない、あんな事があったばかりだ。
夜具が乱れ、白い肌が露出している。
地下の牢獄にいた時から、なにもまとっていないのだろう・・。

額の汗をぬぐい、乱れた夜具をなおしてやる。

「・・うっ・・・」

地下牢から救い出すときは、キラも必死だったのだろう。
意識する事はなかった。

だが、今改めて見ると、つややかな肌にどきっとする。

高貴な姫君故の美しい肌、子供を産み、母親となったダーナ。
若くして成熟した肌が、真っ暗な部屋の中で、なまめかしく蠢いている。
閉じた窓のわずかな隙間から差し込む月明かりが、銀色の御髪をきらきらと輝かせる。

「美しい、本当に美しい姫様なんだ。それがこんな目に遭っているなんて・・・」

キラは思わずつぶやいた。

だが、

「なにを考えているんだ、俺は、俺は・・獣主様の命でこの姫君を助けにきたというのに」

キラは感情を押さえきれずにつぶやく。
だが、キラの中で何かが変わろうとしていた。
猫族や、狼族と言った獣人達は自分たちに誇りを持っており。本来なら普通の人間とは結ばれる事はない。従って他の種族に、恋愛も欲望も感じる事はないはずなのだ。
が、ガイン達によってダーナがマナを産んだように。まれに、異種族の結婚もあり得なくはない。
感情の高まりには時はいらない、一瞬のふれあいであっても、熱く燃え上がる事はある。
若いキラにとっては自然な事。

だが、ダーナは姫君。
しかも清瀧の巫女という気高い存在だ。
キラの手に及ぶような存在ではあり得ない。
それに、これは、獣主さまのご命令なのだ。

キラは自分に言い聞かせる。

「う・・あ・・う・・あうう・・・・・」

再び、ダーナが、切なそうな声を上げる。
キラはおもわず姫の手を握りしめた。
その手は小さく、小刻みに震えている。

「姫・・ダーナ姫・・大丈夫です。なにもないのです・・おそれることはなにも・・・」

キラは自分の感情に苛立ちながら、それでも、姫の苦しみを和らげようと、
手を握りしめ、同じ言葉を繰り返す。

「・・あ・・・あ・・・・乳が・・・乳が張って・・あ・・」

姫が思いも寄らない言葉をつぶやいた。それはキラにとっては以外とも思える言葉。
一度出産経験のあるダーナ姫だ。
おぞましい、触手の卵を産まされたというのに、ダーナの身体は乳飲み子をいつくしむ
母へと変わっていていた。

生まれた子供に与える乳が体の中で作られ、ダーナの身体に蓄えられる。
・・それは、自然なことなのか、それとも魔女の力なのかキラにはわからない。

「赤ちゃん・・わたしの赤ちゃん・・・・」

、はだけたダーナの乳は、張って・・。授乳する赤ん坊を待ちかねている。

そして、赤子を待ちかねる母の手が、キラを導いていく。

「姫・・・姫・・・なにを・・・」

「赤ちゃん・・わたしの赤ちゃん・・・・」

高熱にうなされながら、我が子を求めるダーナの胸に、キラは吸い込まれるように飛び込んでいった。

「姫・・・・・」

赤子のようにダーナの乳房に吸い付くキラ。

「わたしの・・赤ちゃん」

ダーナはキラの身体を両手で包み込んだ。

前へ  メニューへ次へ