ダーナ氷の女王 第二部 第7話 3
「あ・・・う・・うっ」
ダーナは、ショックから言葉を失っていた。
地獄のような魔女の城からようやく抜け出したというのに、突然の破水、そして出産。
しかもそれは悪魔のごとき魔物の卵・・。
生み出されるやいなや飛び出してこようとする魔物。
だが、幸いにもキラとガインが火に投じて、事なきを得た。
「なんという・・。なんというおそろしいこと・・」
城での数々の責めでダーナは心も体も疲れ果てていた。
そして出産。思いもかけぬショックの連続に、ダーナは疲れ果て、そのまま眠ってしまった。
ダーナの眠ったベッド、そこはマナが使っていた物だった。
ダーナは愛しい娘のベッドとも知れず、すやすやと寝息を立てている。
「マナがいなくなったというのか?いつのことだ・・」
「昨日だ、いつものように夕方でかけていってそのまま帰ってこない。こんなことは初めてだ・・」
キラとガインが別室で、声を潜めて話している。
「まずいな。それは・・魔女の仕業かもしれないな・・」
「なに?魔女が・・・なぜなんだ?・・・魔女はあの子をマナを・・俺に」
キラの言葉にガインが反論する。
それもそうだ、元はと言えばガイン達の悪行がマナを産んだのだ。
だが、産まれたマナがガインを変えたのだ。いまのガインにはマナはかけがえの無い宝だ。
しかし、あのとき魔女はあっさりと、ガインにマナを手渡した。
それが、ガインを救ったのだが。
なのになぜ今になって・・。
「魔女の気まぐれなのか?それとも・・・」
「それともなんだと言うんだ!?」
ガインには理解出来なかった。それはキラとて同じこと・・。
やっとの思いでダーナ姫を捜し出したと思えば、今度はマナが行方不明。
いきどおりと惨めな敗北感が、キラを支配していた。
「わからない・・魔女の考えなど俺にはわからない・・・」
キラはそういって、テーブルを叩いた。
「どっちにしても、今度はマナを救い出す。俺にはそれしかできない・・」
「あ・・あう・・うう・・っ」
隣で寝ていたダーナ姫のうめき声だ。
「うなされているのか無理もない、あんなことがったあとだ・・・」
キラはダーナのいる部屋を振り返ってつぶやいた。
「姫様をあんな目に遭わせたのは・・・オラ達の責任だ・・・」
ガインがうめくように言った。机に突っ伏して、頭をかきむしっている。
「・・お前のせいじゃない・・お前は魔女に操られていたんだ・・ドモン達もな・・」
キラはそんなガインを見つめ慰めの言葉をかける。
ガインは自己嫌悪に陥って頭をかきむしる。そしてうめくようにつぶやいた。
「なのに・・俺はマナと一緒に・・こんな生活をして・・・」
「・・・・聞いてくれるか?」
「いいとも・・」
「獣神様やお前達狼族がいなくなって・・・オラ達はこの海辺に追いやられた。森は全部砂漠になってしまい。数少ない者たちがなれない海に出て、命を落としていった・・」
「・・そうだったのか・・」
「・・そんなときだ、砂漠の魔女が船をどこからか持ってきてくれたんだ・・」
「魔女が?・・・そうか・・・」
「ああ・・・魔女のたくらみなのはわかっていたさ・・。だが、俺たちはおかげで安心して海に出れるようになった・・・」
「そして・・グリンウエルへいったのか?」
「・・ああ・・・」
「・・だが、ドモンだって最初はあんな奴じゃなかったんだ。すべては・・・魔女が・・・」
「わかっている・・・わかっているさ・・」
「・・だが、俺のした事は・・姫様を・・・・・地獄に突き落としちまったんだ」
そこまで話すとガインは男泣きに泣いた。
キラにはガインの気持ちが痛いほどわかった。だが、それでガインの罪がゆるされるはずもないのだが。
「だから・・俺はあの子を・・マナを・・・」
「せめてもの罪滅ぼしという事か?」
「ああ・・だが、あの子が成長するに連れて・・・・あの子は俺の心をいやしてくれる・・・まるで天使のような存在だよ・・多少の悪さはするがな・・・」
「・・多少か?・・・」
「・・少し悪さが過ぎるかな・・・・」
「・・ま、まあ・・それはそれとしてだ・・。あの子が来てからと言うもの。暗かったこの村に灯りが灯ったかのようだ・・・」
「・・姫様の子だからだな」
「そうだ・・俺があの子を育てるのは、姫様へのせめてもの・・罪滅ぼしだったはずなのに・・」
「・・うん・・」
「うっ!・・うううっ・・・うううっ!!」
隣部屋のダーナが突然激しくうめきだした・・。