ダーナ氷の女王 第二部 第7話 1
キラは眠りについたダーナを背負ったまま、猫族の村に向かった。
『ダーナ様もう少しでマナにあえますよ・・』
キラはダーナにそっと耳打ちした。
ダーナはまだ、そのことを知らない。キラはダーナの寝顔に微笑んだ。
そして、目を覚まさないように気を使いながら村へと急いだ。
既に夜も更けている。猫族の村は眠りについているに違いない。
明日の朝になれば姫はマナとあえる。しばらくの辛抱だ。
だが、キラのもくろみははずれた。
猫族の村はたいまつが灯されあわただしい。
村の入り口に人が集まり、物々しい雰囲気だ。
「どうしたと言うんだ。またなにかあったのか。まさか、また、あいつらが責めてきたとでも言うのか?」
キラは先の一件で村を追放されている。暗闇にまぎれてガインの家に忍び込もうとした計画が水の泡だ。
いや、キラ一人ならばそれも可能だっただろう。だが、キラはダーナ姫を連れている。
それはとても不可能な事に思えた。
仕方なく、茂みに隠れ様子をうかがう。
「まずい事になった・・・」
キラは予定外の出来事に考え込んでしまった。
姫の救出は思った以上にうまくいった。
狼族であるキラは夜目が利く。狼族の身体能力を持ってすれば、アンデッド達の動きなど交わす事はたわいもない事だ。
だが、問題はダーナ姫の居場所だった。幸いにして、当たりを着けた地下牢をさぐり、ダーナ姫を助け出す事に成功したのだ。
だがここに来てそのもくろみはまんまとはずれた。
村にもどり、マナとの再開を果たさなければならない。それに、疲弊した姫のことを思うと一刻でも早く休ませてあげたかったからだ。
「う・・ん・・うう・・・・・」
そのとき、姫が突然うめき声を上げた。
さっきまでの安らかな寝顔は消え、顔面から、汗がしたたっている。
「姫?・・どうしたんだ?・・急に?」
姫の変化に、おもわず上げた声。それが、猫族の耳にとまってしまった。
彼らとて、並はずれた聴力の持ち主だ。
「だれだ、そこにいるのは誰だ!」
「しまった!」
猫族の男達が茂みに入って来た。
大男だ。
ダーナ姫を連れて隠れる事は不可能だ。
「だれだ?・・そこにいるのは?」
たいまつを持ち、近づいてきた男・・。
「キラ?・・キラか?・・もう一人は誰だ?マナか?」
近づいてきたのはガインだった。なんという幸運だったのか。
たまたま、マナを探し歩いていたガインと巡り会ったのだ。
「・・ガイン?・・ガインか?」
「そうだ?・・そこにいるのはだれだ?」
近づいてくるガイン。ダーナの姿に目をうたがった。
「姫?・・ダーナ姫?・・・姫様か?・・・・」
そういうと、信じられないと言うように目を瞬かせた。
「う・・・うう・・うん・・うう・・」
ダーナのうめき声はだんだんと大きくなってきた。
表情も辛そうだ。
「ガイン!・・・お前の家まで連れて行くぞ。このままでは姫が・・・」
「あ・・ああ」
ガインは姫を担ぎ上げた。そして、家へと向かった。