ダーナ氷の女王 第二部 第6話 6
ダーナ姫は、地中の檻の中で、横たわっていた。
かってはドモン達であった、アンデッド達の責めに疲れ、つめたい牢獄の床に。
すでに着衣は許されてはいない。浴場から連れ去られ、そのままの裸体で攻め抜かれていたのだ。
わずかの間の安らぎ?・・いや、ダーナ姫の安らぎなど与えられ用もなかった。
ドモン達が、見回りに出ている間、こうして時を与えられているに過ぎない。
船の下層で責められたときと何ら変わることはない。
あえていうなら、あの時はまだ、人の形をしていたというのに過ぎない。
身体は軋み、傷だらけとなっている。
横たわってはいてもねることさえできない。こんな状況でも身体は睡眠を求める。
そのたびに、触手の怪物と化したドモン達の責めが待っていた。
「このままここで死んでしまうのかしら?」
ダーナ姫の頭をそんな言葉がよぎる。そして、毎日触手になぶられる日々よりよほどまし・・。
そう考えることすらあったのだ。
「でも・・・」
そんなダーナ姫の命の灯火をつなぎ止めているのは、娘の存在だった。
「一度で良いから・・娘を。この手に・・」
姫としてではない、一人の母親としてのダーナの思いがその命をつなぎ止めていた・・。
こんな状態になったというのに、砂漠の魔女がなぜ、ドモン達の残虐な行いを許しているのかがわからなかった。とらわれの身とはいえ、仮にも姫としての扱いを受けてきたというのに・・。
その影には、砂漠の魔女のどすぐろいたくらみがあろうとは思うことすらできなかった。
そのときだ。
「・・・・だれ・・・?」
地下牢に、人の気配を感じ。ダーナが小さく声を上げた。アンデッドでも。触手でもない。
およそ、血の通った者のいないこの城に、誰かが入って来たのか?
ダーナの心が揺れ動いた。
だが、暗闇の中、その姿を確認することはできない。
「お静かに・・・ダーナ姫様ですね・・・・」
男の声。その声には生命が満ちあふれているようだ・・。
「声を上げずともかまいません。こちらからは姫の姿が見えます。・・姫であればうなずいてください」
小声だが、はっきりと聞こえる。
ダーナの目から涙が溢れた。
やがて、牢が開かれ・・。若い男が入って来た。
キラである。
どのような手段を使ったのか。キラは広い城の中からダーナ姫の存在を見つけ救出にやってきたのだ。
キラは、乾いた布でダーナ姫をくるむと・・。
「失礼・・・・時間はかけておれません・・」
ダーナを肩に抱え上げて闇の中に飛び出した。
ダーナ姫は久々に感じる人の肌のぬくもりに、安心を覚え、そのまま従った。
キラの動きは素早かった。灯り一つない地下の牢獄を素早く走り抜ける。
たとえ、アンデッドと出くわしたとしても、キラを捕らえることなど、できはしないだろう。
ダーナはどこをどう走っているのか、見当も付かない。
それほど、狼族(キラ)の動きは素早かった。
しばらくすると、ダーナの目に満天の月が写った。暗闇になれた目には眩しいくらいだ。
だが、とても美しかった。
砂漠の魔女の城を出たのだ。
どのくらいの間閉じこめられていたのか。ダーナには既にわからなくなっていた。
夜の風がここちよく頬に当たった。
ダーナは、久々の心地よい夜の空気に、キラの背中で心地よい寝息を立てていた。