魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫19)


  第83話 悪霊の咆哮、そして首都の消滅・・・
原作者えのきさん

 悪は滅びた・・・諸悪の根源である暴君グリードルは、戦女神アンジェラによって誅滅
された。
 暴君が最後を遂げた時、城から歓喜の声が上がった。それはグリードルを憎む悪霊達の
声だ。そして悪霊達の憎悪の矛先は、残ったガルダーンの貴族達に向けられる。
 悪の帝国が滅びる時・・・
 まもなく、堕落と諸悪に満ちた首都は・・・消滅する・・・

 首都では、恐ろしい怪物達が憎悪と怨念を込めて暴れ狂っている。
 怪物の正体は、快楽を貪り欲に溺れた貴族達によって虐げられた人々の悪霊である。そ
の復讐を遂げるため、怪物は怨敵に襲いかかる。
 怪物の顔に浮かぶ、虐げた者達の怨念の顔・・・餌食にされる貴族達は、ただ泣きなが
ら己の罪を悔い、謝罪するのみ。
 首都はまさに、血と絶叫の地獄となっていた・・・
 だがしかし、例外的に怪物の餌食を免れている者達がいた。
 数十人ほどの人垣が、怯えながら首都の外壁付近に集まっている。彼等は貴族の最下位
に属する者達で、あまり派手な也をしていない。
 派手でないという事は、略取行為をしていない証でもあった。ガルダーン貴族の全員が
悪しき所業に手を染めていた訳ではない。中には悪虐な行為を忌み嫌い、質素な営みをし
ていた貴族もいる。
 恐ろしい悪霊達も、恨みのない者は餌食にしない。ただ侮蔑の目で睨み、鼻先で嘲笑っ
て背を向けるだけだ。
 だが、たとえ餌食を免れたとはいえ、絶望から逃れられた訳ではなかった。
 悪行を行わなかった者達にも、確実な罪がある。それは・・・我が身可愛さに、見て見
ぬふりをした罪、弱者を見捨てた罪だ。
 心ある貴族達も血の饗宴を前にして、自分達にも裁きが訪れるを知る。
 首都と外界を隔てる正門の扉が、絶望を伴って固く閉じられているのだ・・・
 
 地獄から逃れようと、多くの人々が懸命になって扉を押している。だが裁きの地獄は小
さな罪であろうとも逃さない。
 心ある貴族達にも、裁きの時は刻々と迫っていた・・・
 絶望に苛まれ、1人の少女が両親に縋って泣いた。
 「パパ・・・ママ・・・私達助からないの?」
 娘を抱く両親は、絶望の事実を告げるしかなかった。
 「ああ、助かる道はないだろう・・・我々は多くの人々を見殺しにした、その報いが来
たんだ。」
 「神様も私達を許してくれないでしょうね。でもあなただけは守ってみせますわ、たと
え神様が許してくれなくても・・・」
 父と母の優しさに懐かれ、少女は己の最後を覚悟した。
 「パパ、ママ。愛してるわ・・・」
 固く抱き合う親子・・・
 だが、その時である。
 絶望に苛まれる人々の前に、黒い人影が現れた。
 それは黒衣の淑女であった。漆黒のドレスを纏い、血のように紅く美しい瞳をもつ淑女・
・・
 彼女を見た人々は、黒衣の淑女を見て思った。(美しい魔女だ・・・)と。
 その美しさ、闇のような妖艶さ・・・この世の者とは思えない。そして(魔女)は静か
に口を開いた。
 「私は悪しき者に裁きを下す者。虐げられた者の悲しみと狂気を理解しましたか?」
 清楚な声だが、絶対的な威圧感を伴った声だ。それは裁きを告げる声に相違ない。貴族
達は固唾を飲み、そして魔女を見つめる。
 「裁きを下す者だって!?あ、あんたは裁きの魔女かっ、我々をどうするつもりだっ!!
」
 美しき魔女は淡々とした口調で答えた。
 「あなた方の判決は虐げられた方々が決める事ですわ。もし悪しき所業に手を染めてい
れば、復讐の餌食にされるでしょう。」
 「私達は悪い事をしていないっ、何も疚しい事はしていないぞっ!?」
 懸命に弁解する貴族達。だが、魔女は彼等の罪を見逃さなかった。
 「ええ、あなた方は何もしていませんわね。虐げられた人々を助ける事も・・・ですわ。
」
 絶対の罪を突き付けられ、人々は絶句する。もはや言い訳の余地はない、冷徹な裁きが
下されるのだ・・・
 絶望に崩れる貴族達。だが、両親と抱き合っていた少女が、前に進み出て救済を求める。
 「裁きの魔女さま、どうか私達を許してください・・・苛められるのが怖かったんです・
・・苛められている人を助けたら、今度は私達がイジメられるから・・・本当にごめんな
さい・・・」
 だが魔女は冷たく言い放った。
 「私に謝っても意味はありませんわ。苛められる人々を無視した罪は重いですわよ。そ
れに、あなた達の持ち物は全て、間接的であるにせよ、略取した物である事に違いありま
せん。謝罪したいなら、全てを捨てる決意をなさい。」
 魔女の言葉に、少女は心を決めた。
 着ている物を全て脱ぎ、それを魔女に差し出すと、全裸で土下座し、許しを乞うた。
 「わ、私の持っている物はこれしか残ってませんが・・・これをイジメられた人々にお
返ししますっ。これでも足りないなら・・・私を生贄にしてくださいませっ!!私の命と
引き換えに・・・パパとママと・・・みんなを助けてくださいっ!!」
 懸命になって懇願する少女に、両親も人々も涙した。
 「生贄なら私がなるぞっ。ミランダ、お前を生贄にはさせられないっ。」
 「私の命も差し上げますっ、どうか娘を助けて・・・」
 両親も人々も皆、涙を流して土下座した。
 「どうかっ、どうかお許しくださいっ!!」
 皆の心を受け入れたか、魔女は微笑み、静かに頷いた。
 「その心意気や良しですわ。今後2度と苦しむ人々を見捨てないと誓いますね?」
 魔女に言われ、少女は顔を上げて返答した。
 「はいっ、誓いますっ。」
 それを聞いた魔女は手を挙げ、それまで固く閉じられていた扉を開けて、救済の道を示
した。
 「間もなく首都は大爆発しますわ、さあ、今すぐお逃げなさい。決して振り返ってはな
りませんよ。」
 振り返るな・・・それは過去の全てを捨てよとの意味だ。
 魔女に罪を許された者達は、命の限り懸命に走った・・・前だけを見つめ、どこまでも
遠くへ。
 それを安らぎの笑顔で見送る美しき魔女は、魔戦姫の長リーリアなのであった・・・



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