魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫15)


  第67話  怒りの戦女神、狂乱の魔神と化す
原作者えのきさん

 土塊の人造人間ゴーレムの軍団を率い、アンジェラはガルダーンの首都に潜入を果たし
た。
 祖国を、愛する人達を、全て踏みにじった憎きグリードルを倒すため、アンジェラは復
讐の牙を研ぐ。
 彼女は、かつてノクターンの姫君であった時に、ここガルダーンの地で悪夢の凌辱を受
けた。汚された彼女の憎悪は激しく、闇から静かにガルダーンを伺うアンジェラの眼は怒
りに燃えていた。
 鮮明に浮かぶ屈辱と苦痛の記憶・・・
 魔界で無敵の力を身につけた彼女は、悪夢の記憶を憎悪のエナジーに変え、復讐を遂げ
ようとしているのだ・・・





               
 
 首都の至る所から、大勢の貴族たちが喜んで街の広場へと集って行く。
 その広場では、凱旋したガルダーン兵が戦利品をばら蒔いていた。
 「さあ皆さ〜んっ。帝様は戦利品を、全員で仲良く分かち合えと申されておりますよお
〜っ。帝様の御好意に感謝致しましょう〜っ。」
 カーニバルのように景気よく戦利品を投げると、集まった貴族達が我先に宝石や貴金属
を拾い集める。
「こ、この金貨は俺のだぞ〜っ。」
「何を言うかっ、独り占めするんじゃなあ〜いっ。」
 貴族達は浅ましく大騒ぎし、広場は興奮のルツボと化していた。無論、戦利品を投げる
兵士達は、グリードル帝から戦利品を貴族に分け与えよなどと命じられていない。
 全てアンジェラが、兵士達・・・ゴーレム軍団に指示した事だった。この混乱に乗じ、
囚われの人々を救う手筈なのだ。
 アンジェラは、混乱の様子を上空から静かに見つめていた。
 宙に浮かぶ黒い光は、地上の誰の目にも映らない。その中にアンジェラとマリーはいる
のだ。
 無言で首都の隅々を見ているアンジェラの脳裏に、首都の各所で辱められた時の記憶が
過っていた。
 辱められた場所だけではない。自分を辱めた輩1人1人の顔まで克明に蘇る・・・それ
がどれだけの狂気を呼ぼうかは、言わずとも知れた事だ。
 全てを思い出しながらアンジェラは、陰々とした呪いを呟いた。
「・・・あそこで、犬相手に凌辱されましたわ。演劇場で恥ずかしい踊りをさせられて・
・・あの男達は、私の裸を卑しい目で見てましたわ、父上や母上を侮辱する言葉を吐きま
したわっ。どうやって復讐してやろうかしら、思い知らせてやろうかしら・・・ククク・・
・」
 アンジェラの全身から、憎悪がオーラとなって沸き上がっている。
 瞳に憎悪を宿し、口元に狂気の薄笑いを浮かべるアンジェラを見て、マリーはオロオロ
とうろたえている。
 いつもとは明らかに違う・・・こんな憎悪の虜になっている主君を見るのは初めてだっ
たからだ。
 極限まで徹底的に凌辱され尽くした悪夢の場所で、下劣な笑いをあげて浮かれ騒ぐ輩共
を見れば、誰であろうと激怒する。そう・・・たとえ戦女神であろうとも・・・
 同じ悪党であっても、戦士たるガルアとガラシャと、この浅ましい貴族達とでは雲泥の
差がある。
 ガルアとガラシャは、ワルであっても確固たる信念と誇りを持っていた。
 でもこの貴族達は、信念も誇りも全く持っていない。真っ当な仕事もせず、ただ弱者か
ら財を奪い取り、豪遊と散財にふけるだけの愚か者なのだ・・・
 こんな愚劣な連中に、ゴミ以下のクズに・・・自分は辱められたのか?弄ばれたのか?
そして・・・祖国は踏みにじられたのか!?
 その思った途端、アンジェラの心に狂気が生れた・・・(愚か者共を、残らず叩き殺し
てやる・・・)と。
 怒りを静めれないは無理なき事ではあろうが、今のアンジェラにキレている暇はない。
奴隷として囚われている人々を助けねばならないのだ。
 なんとか主君の憤慨を静めようと諫言するマリー。
「ひ、姫さま。復讐もええですけど、先に囚われた人を助けなあかんでしょう?少し落
ち着いてください。」
 だが、憎悪に心を支配されているアンジェラは、友の諫言にも耳を貸さない。
「マリー。私は今、この腐りきった街を、どう切り刻んでやろうか考えてるのよ。マリ
ーの変身した剣なら建物でも切り刻めるのでしょう?」
 アンジェラは本気で首都を両断してしまおうと思っているらしい。すかさず、とんでも
ない事だとマリーは首を横に振った。
「すんませんけど、うちの変身した剣では建物は切れしまへん。街を切るやなんてとて
も無理です。」
 諦めさせるような口調でマリーに言われ、アンジェラは怪訝な顔をする。
「何言ってるの?ガルアの軍勢は切れたじゃないっ。」
「あの時は人間相手やったし、姫様の剣術に頼ってたからですねん。うちはパワーとか
肉体強度は弱いですし、剣に変身しても普通の剣にしかなられへんのですわ。」
 機械化人間(オーガメイド)であるマリーは、変装が得意だった事もあり、変身能力も
形を正確に模写する能力に優れている。しかし形を模写しても、オリジナルの能力や武器
の強度までは模倣できない。それがマリーの、オーガメイドとして最大の欠点でもあった。
「そーゆー訳ですから、もうアホな事考えるのは止めましょ、ね?」
「ふん・・・そうなの・・・」
 納得したアンジェラは、しばらく考えて返答する。
「わかったわ、剣で切るなんて事はやめる・・・ゲンコツで叩き壊してやりますわっ!!」
 力を込めて拳を握る主君を見て、マリーは頭を抱えてしまう。
 「あ〜あ、こらあかん・・・」
 憎悪で完全に我を失っているアンジェラは、もはやマリーにも止められなくなっていた。
 「マリー、フルアーマーモードいきますわよっ!!」
 アンジェラが叫ぶと同時に戦闘ドレスが宙に舞い、鎖カタビラとなって全裸体を包む。
白い肌に黒い鎖が食込み、アンジェラに凄まじいパワーをもたらす。
 そしてマリーも渋々鎧兜に変化した。
 「ぶ、武装変化・・・フルアーマーモードッ。」
 変化した鎧兜が、カシャンと音を立てて分離し、アンジェラの裸体に装着された。
 足、両腕、ボディー、乳房、そして頭部を兜が覆う。
 完全装甲したアンジェラは、魔力を全開にし気迫を高めた。
 「はあああ〜っ!!」
 高まった魔力が裸体と四肢を巡り、パワーが急激にアップする。元々はスピードタイプ
のアンジェラであるが、パワーを必要とする戦闘ではフルアーマーモードを使う。
 高速移動や瞬間移動の能力は落ちるが、その分パワーは強化されるのだ。
 鎧にも注入された魔力は、変化したマリーにも影響を及ぼす。
 強度の足りない装甲が、ダイヤよりも強固な鎧となる。それは超魔鎧と呼ぶに相応しい
ものだ。しかし魔力にはアンジェラの憎悪も籠もっているため、鎧に変身したマリーは憎
悪の感情をモロに浴びるはめになる。
 (う、うああ・・・こ、これが・・・姫様の恨み・・・あ、あかん・・・抑えられへん・
・・)
 怒濤の如き憎悪に翻弄され、マリーの鎧形態も変化する。
 憎しみ深き闇色に染まり、怨敵を切り裂く鋭利で残虐な造形となる。剛拳は鉄をも砕く
ほどの獰猛さをかもしだし、そして・・・兜までもが復讐の狂気に支配される。
 兜の鉄仮面が美しいアンジェラの顔を覆うと、鉄仮面の口がザックリと耳まで裂ける。
そして目の部分の隙間から、爛々とした憎悪の炎が燃え上がった!!
 その姿・・・もはや美しい戦女神たるアンジェラではなかった・・・
 怒りと憎しみに狂った魔神であった。
 両眼から燃え上がる炎の視線は、地上の2人の男を捕らえていた。
 「フフフ・・・アントニウス、ブレイズ・・・待ってなさい、今すぐあなた達を地獄に
叩き落としてあげるわ・・・」
 呪詛の言葉を吐き、アンジェラは空を蹴った。黒いくさびが地を穿つ如く、狂乱の魔神
は地面に降り立った・・・




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