魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫14)


  第66話  凱旋した偽のガルダーン軍
原作者えのきさん

 荒涼たる貧民街の中央に、首都へと続く街道が通っている。
 その街道を、幾千もの軍隊が足並みを揃えて行進してきたのは、その日の昼前であった。
 それらは、ノクターン攻略のために進軍した(新)ガルダーン軍である(はず)・・・
ならず者で構成された彼等は、極めて粗暴で貪欲なる連中だった(はず)・・・
 身形は(新)ガルダーン軍であったが、なにか、どこか違う・・・連中は大人し過ぎる・
・・
 軍勢だけではない。連行されるノクターンの捕虜や奴隷もまた、無表情で足並み正しく
歩いているのだ。
 遠巻きで軍勢を見ていた民達は、口も開かず、無表情で歩く一群を不信に見ている。
 「なんだあいつら?まるで人形じゃないか。」
 誰かが呟いた。だが、本当に人形だと言う事に、気がついた者はいない・・・
 
 先に、マリーがウソの報告をしていた事もあって、首都の中ではガルダーン軍凱旋を心
待ちにするムードが最高に高まっていた。
 そして待ちに待ったガルダーン軍が、ようやく御到着とあいなった。
 「ガルダーン軍が戻って来たぞーっ!!」
 衛兵の声が首都に響き、貴族達は挙って外に飛び出す。
 軍勢は首都のすぐ前まで進んでいた。そして軍勢を導いていたドレスの姫君が、片手を
上げて進軍を止める。
 「兵は喜んだ顔で、虜囚の者は悲壮な顔を。観衆の歓迎には笑顔で、上位者の命には従
事する。」
 その言葉に、(人形達)は一斉に表情を(作った)。
 兵は意気揚々と、虜囚の者は意気消沈に。人形の軍勢は、完全にガルダーン軍になりき
って首都の門を潜った。
 門を開けた途端、凄まじい歓迎の嵐が軍勢を迎える。
 津波のような歓声を受けた兵士達は、にこやかに手を振って貴族達に応えた。
 出陣した時は下品極まりなかった(新)ガルダーン軍だったが、今は妙に行儀が良い。
 でも貴族達は、そんな事にお構いなしだ。戦利品以外興味がないからである。すでに視
線は、軍勢が引く荷台の戦利品に目が行っていた。
 「おお〜っ!!すごい量の金銀財宝だっ。ノクターンの連中、まだこれだけ隠してたの
か。」
 幾台もの荷車が進み、そのいずれにも金銀が山と積まれている。唸るほどの財宝の山。
それは豪勢に慣れきっている貴族達ですら息を飲む量であった。
 首都の、ほぼ全域から貴族達が詰めかけ、戦利品の山に見入っている。それを遠巻きに
確認したアンジェラとマリーは、次の作戦段階へ行動を開始した。
 首都に囚われている人々の救出である。
 「救出隊は総員配置についているかしら?」
 アンジェラの問いにマリーは頷く。
 「すでに準備万端やそうです。救出が終わり次第、うちらは城に乗り込んでグリードル
をやっつけるんですよね。」
 「ええ、手抜かりはありませんわ。今度こそ、グリードルの息の根を止める事ができる・
・・」
 首都の騒乱を見るアンジェラの目が、怒りで燃えていた。あの愚劣な貴族達の前で、自
分は何をされたか・・・思い出すだけで、凄まじい憎悪と殺気が、マグマのように腹の中
で煮えたぎる。
 そんなアンジェラに、マリーは心配そうに声をかけた。
 「ねえ姫様。あのゴーレム軍団、ちょっと行儀良過ぎるんちゃいます?あれやったらバ
レるかも・・・」
 そんな質問に、ゴーレム達に動きを入力したアンジェラは(頭の後ろに大きな汗を浮か
べて)戸惑った。
 「し、仕方ありませんわよ(焦)。私はチンピラの言葉使いや行動なんて知りませんも
の。それに・・・軍勢を首都に入れればこっちのものですわ、ゴーレムの正体がバレたっ
て、貴族達に逃げる道はないわよ。」
 「姫様・・・」
 どこか冷静さを欠いているアンジェラを心配するも、マリーは次の行動に着手する。
 「ほな、城に乗り込む前に、一仕事しましょか。」
 「ええ、まずはあの3人・・・アントニウス、ブレイズ、ズィルク・・・彼等は私達の
手で地獄に送らねば気が済みませんわっ。」
 暴帝グリードルの手先となって、数々の苦しみをアリエル姫に強いた3人・・・
 彼等に復讐するため、アンジェラとマリーは動いた・・・
 
 その頃、首都の城では、ガルダーン軍凱旋の報を聞いたグリードルや幹部達が、城の窓
から貴族達に迎えられた軍勢を見ていた。
 貴族に晴れ晴れしく手を振るガルダーン軍を見て、幹部達は喜びの声を上げる。
 「やりましたね帝様、これでノクターンに完全勝利する事ができました。それに、あれ
だけの財宝があれば他の諸国へ侵略する軍資金となります。ガルダーン帝国の栄華は永遠
に保証されたようなものでありますな・・・・帝様?」
 幹部はふと、グリードル帝が怪訝な顔をしているのに気付く。周りは喜びに浮かれてい
るのに、グリードルは不信な表情を露にしているのだ。
 「・・・ガルアとガラシャはどーした?まだ帰ってねえのか?マリエルの首を持って帰
れと命じていたはずだが・・・」
 「さあ、あの軍勢にはおられないようですが。後から来られるのでは?」
 「だといいが、俺はマリエルの首を見るまで、ノクターンに勝ったとは思っちゃいねえ
っ。」
 悪しき皇帝は、山のような財宝に目を向けていない。確実なる勝利・・・その証たるマ
リエルの首こそ、彼が求めているものだ。単なる略奪品の山になど興味はない。
 彼は更に、妙に行儀良い軍勢にも不信の目を向けていた。
 「それに・・・あの連中おかしいぞ、チンピラらしくねえ。何か・・・嫌な予感がする
ぜ・・・」
 百戦錬磨の大悪党であるグリードルは、他の者が気付かぬ事を冷静に察していた。
 粗暴な兵達の豹変、ガルアとガラシャの不在。それに、今まで音信不通だったガルダー
ン軍が、急に意気揚々と金銀財宝を携えて凱旋した事・・・全て不可解と言わざるを得な
い。
 不審なる事を確かめるべく、グリードルは幹部に命を下した。
 「おい、今すぐ軍隊の責任者をここに呼べ。俺が直々に取り調べるっ。」
 「帝様が御直々に?そんな事なされなくとも、他の者に調べさせて・・・」
 「うるせえっ!!今すぐ責任者を引っ張って来いっ!!」
 怒声に驚いた幹部は、大急ぎでガルダーン軍の元に走った。
 軍隊の責任者を連れて来るのに、そう時間はかからなかった。帝の命に素直に従った軍
の隊長は、戦利品の一部を手にして、早々に入城してきたのだ。
 帝を前にして、丁重で礼儀正しく頭を下げる隊長。
 「親愛なるガルダーンの大帝グリードル様。帝様の御尊顔を拝せる栄誉を頂き、恐悦至
極に存じます。この度は帝様がご不信との事であらせられますゆえ、戦利品の一部を参上
いたしました。どうぞ御検分の程を・・・」
 恭しく差し出す彼の手に、街が一つ買えそうな程の宝石があった。
 それを手にしたグリードルは、訝しげな顔で検分する。そして何か確信する事があった
のか、隊長に尋ねた。
 「ご苦労だったな、俺の思い過ごしだったようだ。約束通り、財宝の三分の一は貴様ら
にくれてやるぞ。」
 その言葉に、隊長は深々と感謝の礼をした。
 「おお、約束を果たして頂き、誠に嬉しゅうございます。そのご配慮に報い、七生報国
の想いで帝様への忠節を貫く所存であります。」
 すると・・・グリードルはカッと目を見開いて隊長を睨んだ。
 「フッ、語るに落ちたな。俺は貴様らに、財宝は半分くれてやると言ったのだ。それを
知っているならこう言うはずだ。(約束が違う、三分の一は少ない)ってな・・・貴様、
ガルダーン兵じゃねえなっ!?何者だっ!!」
 グリードルの言葉に、幹部達は騒然とする。
 だが隊長は、顔色を変えずにグリードルに応答した。
 「私は帝様の忠実なる家臣、帝様の御意向に背く事など致しませぬ。どうかお怒りをお
静めくださいませ。」
 「ふん・・・てめえの胸クソ悪い言葉使いにゃヘドがでるぜっ。チンピラが行儀良くす
るわけねえだろーがっ!!」
 グリードルの手にした剣が隊長の頭に炸裂し、隊長は頭を割られて昏倒する。
 驚いた幹部が駆け寄り、オロオロとグリードルに言い寄る。
 「み、帝さまっ。こ、このような事を・・・」
 しかしグリードルは、目を鋭くして倒れている隊長を指差した。
 「こいつを見ろっ、ガルダーン兵どころか人間でもねえぞっ。」
 幹部が隊長を見ると、その割られた頭部には血が一滴も流れていない。
 その額に(Emeth)と字が浮かび、頭文字が消えて(meth)の文字に変化する。そ
れと同時に、隊長の身体は土の塊に変化して崩れた。そう・・・この隊長は、人間ではな
かったのだ。
 愕然とした幹部が、グリードルに向きなおった。
 「帝様・・・これはなんでしょうか・・・いったいこれは・・・」
 「ゴーレムだよ。魔法使いが作る、土塊の人造人間だ。どうやら、外の兵隊どもも全員
ゴーレムらしいぜ。ついでに、この宝石も偽物だっ!!」
 グリードルが宝石を握ると、宝石は木っ端みじんに砕け、元の石と土塊に戻った。そし
て暴君は、怒りに全身を震わせて叫んだ。
 「どこの誰かは知らんが、ゴーレム兵を送り込んで来るとは・・・ふざけた真似しやが
って!!」
 グリードルは、狡猾な頭脳と獣のような直感によって、凱旋した偽ガルダーン兵が(自
分達より遥かに凶悪な輩)である事を察していた。
 激しく鳴り響く警鐘は、怯える幹部達にも伝わっていた。
 信じられぬ真実を前にして、幹部達は恐る恐る窓の外を見る。
 外では相変わらず、多くの戦利品を前に貴族達が勝利の喝采を上げ、(外見はチンピラ
の)ガルダーン兵が、にこやかな笑顔で声援に応えていた。
 だが、それは全て・・・グリードル達を闇に送る悪魔の幻影なのである。
 悦びの幻影が覆る時、そして麗しく笑うガルダーン兵が、残虐な本性を露にする時・・・
歓喜は絶叫に変わるだろう。
 悪魔は、グリードル達を陥れ、地獄に引きずり込むために城へゴーレムを送り込んだに
相違ない。無論、本物のガルダーン軍は悪魔によって消されているだろう。
 そして・・・悪魔の正体は正義を司る闇の者。弱者を虐げたグリードル達を地獄に叩き
落とす断罪の使者・・・
 真実を知ったグリードルは、顔面を引きつらせて幹部に指示した。
 「今すぐ、首都内の兵を集めて凱旋した連中を叩き出すよう命じろっ!!財宝も全部だ
っ!!」
 「し、しかし・・・首都の兵力は僅かです。あのゴーレム達が暴れ出したら、とても太
刀打ちできません。」
 「腑抜けた事を・・・言うんじゃ・・・ぐ・・・畜生っ!!」
 悔しそうに声を詰まらせたグリードルだったが、太刀打ちできないのは事実だった。
 首都を守る兵力は数少ない。いきなり手の打ちようがなくなったグリードルは、逃亡の
道を余儀なくされた。
 「くそっ、こうなったら一時首都の外に脱出するぞ。ゴーレムどもが暴れ出す前に、逃
げるしかない・・・お、俺が逃げにまわることになるなんて・・・地下道で逃げる用意を
しろっ。」
 グリードルは叫んだが、しかし・・・彼等を追い詰める悪魔は、すでに逃げ道をも奪っ
ていたのだ。
 
 同じ頃、城の地下道への脱出準備をしていた兵士が、地下道に不審な男がいるのを見か
けた。
 スキンヘッドに灰色の肌、そして陰険な眼差しの男が、地下道で佇んでいるのだ。
 「だ、誰だお前はっ、ここで何してるっ!?」
 すると、その不審な男は不敵な笑いを浮かべて答える。
 「フフフ・・・私は魔導師でありますよ。」
 「ああ?魔導師だって?ふざけるなハゲッ!!」
 ハゲ呼ばわりされ、その男・・・魔導師は目を吊り上げる。
 「君達、私をハゲと言いましたね。許しませんよ。」
 魔導師が指をパチンと鳴らすと、兵士の立っている場所が轟音と共に崩れた。
 「うわっ、うわわ〜っ!!」
 悲鳴と共に、あっと言うまに地下道は崩落し、グリードルの脱出できる道は閉ざされる。
 「この頭は剃ってるだけですからね、まったく・・・」
 魔道兵器を用意した魔導師は、感情を昂らせ、冷静さを失っているアンジェラを危惧し
て、地下道を封鎖したのだった。
 地下道だけではなく、首都の周囲全て、逃げ道を潰している。
 「アンジェラ殿は魔戦姫になられたばかりと伺ってましたから心配したのですが、やは
り詰めが甘いですね、敵を取り逃がす所でした。まあ、私の出番は後ですし、アンジェラ
殿のご活躍を拝見するとしましょうか・・・」
 呟きながら地下道を去る魔導師。
 これでグリードルもガルダーンの貴族達も、残らず袋のネズミとなった。
 怒れる戦女神が、悪党どもへ怒りの鉄槌を下す時は来のだ・・・
 

 To・Be・Continued・・・



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