魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫11)


  第42話 闇より現れたる黒衣の淑女
原作者えのきさん

 アリエルとマリーが転落した谷の上では、転落を免れた娘達が谷底を見て叫んでいた。
 「ひめさまーっ、マリーさぁーんっ!!」
 いくら叫んでも、漆黒の底から返答は無い。この高さでは、奇跡でもおきない限り助か
りはしない・・・
 絶望が娘達を苛むが、絶望に悲しむ暇すら彼女達には与えられなかった。
 娘達が渡った場所では、先ほどのマリーの爆弾で吹き飛ばされた兵士達が延びていたが、
やがて呻き声をあげて起き始めたのだ。
 「んん〜、くっそお・・・小娘どもがーっ!!」
 激しい憤慨も露に、兵士達が娘達に襲いかかる。悲鳴を上げる娘達は、漆黒の闇へと逃
亡する。
 「いやああーっ!!」
 雄叫びを上げる兵士に、向こう岸で槍を振り翳すゲバルドが檄を飛ばす。
 「いけいけ〜っ!!1人も逃がすンじゃねぇぞおっ!!」
 狂気に追いたてられ、娘達は無情の闇をひた走る・・・
 
 恐怖に追われる者は娘達だけではなかった。
 ゲンカイの陽動作戦で無事逃げ果せたマリエル王子とミュートの民だったが、完全に助
かった訳ではない。
 ガルダ―ン軍が、怒涛の勢いで追ってくるのだ。
 ゲンカイを飲み込んだ炎を、呆然と見つめている一同。
 「げ、ゲンカイ・・・ムロト・・・」
 だが、彼等に止まっている暇は無い。
 「みんな進めーっ!!すぐにガルダ―ン軍がくるぞーっ!!」
 必死で逃げる民の後ろから、武装した兵士が迫る。
 絶体絶命と思われたその時・・・
 突如、(何か)が平原を包むように覆い被さってきた。
 音も無く、霧が視界を遮るがごとく、(暗黒より暗い闇)が、平原を逃げるミュートの
民達を覆ったのだ。
 その(闇)は民とマリエル達を隠し、ガルダ―ン軍から守った。
 驚いたガルダ―ン軍兵士達が、広がる(闇)の前でうろたえる。
 「な、なんだこりゃ?ま、前に進めねえっ!?」
 (闇)に足を踏み入れようとしても進めない。唖然としていた兵の1人が、不意に夜空
を見上げて叫んだ。
 「お、おいっ。空を人が飛んでるぞ!?」
 その声に、他の兵士達も空を見る。
 そこには、月を背にした何者かが・・・美しき黒いドレスを翻しながら、夜空に浮かん
でいたのだ・・・
 
 平原に起った異変を、峡谷にいたゲバルドも目撃していた。
 ポカンと口を開けたまま、広がる闇を見ている。
 「・・・民どもが見えなくなっちまった・・・どーゆー事だあ?」
 そして、同じように呆けた顔をしている手下に命令する。
 「おいっ、今すぐあの変な暗がりを調べて来いっ。」
 「へ?あれをですか。あの、めっちゃ危ない気がするンですけど〜。」
 「ツベコベ言うなーっ!!さっさと行って来〜いっ!!」
 手下はゲバルドに蹴り飛ばされ、転がるように平原へと走って行く。
 しかし、手下の悪い予感は当っていた。この(闇)をもたらした者こそ、悪党を滅ぼす
恐怖の者だったから・・・
 
 上空に浮かぶ人物は、(美しき黒衣の淑女)であった。
 漆黒の美しいドレスと、同じく闇のような黒い鎧で身を固めた淑女は、兜を目深に被っ
ており、その素顔を伺うことはできない。
 しかし・・・その身体からは、気高き闇の女王としてのオーラが放たれており、地上に
這いつくばる下賎な兵士達は、声を上げることもできぬまま、女王が放つ黒き後光に慄い
ている。
 そして、上空に浮かぶ人影から雷撃の如き砲撃が発せられ、地上を襲った。
 
 ―――ズドオオ―ンッ!!
 
強烈な爆発で、呆気にとられている兵士達が吹き飛ばされる。突然の事にガルダ―ン軍は
パニック状態に陥った。
 「うわわっ、たた、助けてくれーっ!!」
 上空の人影の手には、大型の銃があった。その巨大な銃から再度砲撃が発射される。
 固まって逃げていた兵士達が木の葉のように飛ばされ、砲撃を免れた兵士が、クモの子
を散らすように逃げ始めた。
 それを見た上空の人物は、なぜか、手にした(銃)に声をかける。
 「弾の変更をしますわ。散弾を装填なさい。」
 すると、銃の方もそれに応答する。
 (了解しました。15mm魔道式散弾を装填します。)
 銃の中からカシャッと音がして、弾の装填が完了する。そして銃口を地上に向けた黒衣
の淑女は、兵士を狙撃した。
 連続して銃声が響き、無数の散弾が逃げる兵士を次々掃討する。
 邪魔者の掃討を行う黒衣の淑女は、仕上げに強力な弾を使用した。
 残った兵士目掛け、拡散した銀色の粒子が襲いかかる。
 その弾は水銀弾であった。超重量の水銀が弾け、細かい粒子となって兵士を肉片残さず
粉々に砕く。
 瞬く間に兵士の全てを駆逐した黒衣の淑女は、生き残った兵士がいないか調べた。
 「平原には兵士の生き残りはいませんわね。」
 淑女が呟くと、今度は淑女の被っている(兜)が応答する。
 (平原の兵士は駆逐しましたが、山に数人の兵士が残っていまして、3名の婦女子を追
いかけております。)
 そして(兜の声)を聞いた黒衣の淑女は、散弾銃を細身のライフルへと変化させ、森に
向けて弾を撃った。
 数発の銃弾が撃ち込まれ、森から断末魔があがる。
 それを見届けた淑女は、何事もなかったようにアリエルの転落した峡谷へと向った・・・


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