魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫11)


  第41話 谷底に響く悲しき叫び
原作者えのきさん

 吊り橋から墜落するアリエルとマリー。
 谷は底無しとも思えるほど深く、2人はどこまでも闇に吸い込まれていった。
 やがて、2人を凄まじい水圧が襲った。
 アリエル達は川に落ちたのだった。かなりの水深があったのが幸いし、最悪の状況は免
れる。
 急流に飲まれたアリエルとマリーは、やがて流れの緩やかな場所の川原に辿り着いた。
 「ゴホゴホッ・・・ま、マリーッ、大丈夫!?」
 辺りを見回し、マリーの名を呼ぶ。
 ガルダーン軍との交戦で巻き上がる炎が谷底を照らし、川原に横たわるマリーの姿を見
つける事ができたアリエルは、動かない手足を捩り、這いずりながらマリーの元に近寄っ
た。
 「マリーッ、返事をしてっ、マリーッ!!」
 呼んでもマリーは動かない。
 血相を変えたアリエルが、肩でマリーを仰向けに起こし、何度も名を呼んだ。やがて・・
・マリーの弱々しい声が口から漏れた。
 「う、うう・・・姫さま・・・無事ですの?無事なんですね・・・よかった・・・」
 マリーの声を聞いたアリエルは絶句した。
 「ま、マリー・・・あなた、まさか・・・」
 虚ろな目でアリエルを見るマリーの容態は深刻だった。水面に直撃した時に腹部を激し
く痛打したらしく、あばら骨が複雑骨折し、内蔵を突き刺していた。
 同じように水面に叩きつけられたはずのアリエルは無傷だった。マリーが全身でアリエ
ルを庇い、その衝撃を全て受けとめていたのであった・・・
 もはや風前の灯となったマリー。アリエルは叫んだ。
 「マリーッ、しっかりしてっ!!起きてっ、起きなさいっ!!私の声が聞こえないのっ!
?」
 「あ、あうう・・・聞こえてますって・・・大丈夫ですって・・・うちは・・・身体が
丈夫なんが自慢・・・ですさかい・・・に・・・」
 気丈に笑顔を浮べるマリーだったが、彼女の命が消え行くのは時間の問題であった・・・
 「ダメよマリーッ!!死んじゃいやーっ!!私より先に死なないって約束したじゃない
っ、友達の約束を破るつもりなの!?私を1人にしないでえーっ!!」
 「・・・えへ・・・ちょっと動かれへんだけです・・・よってに・・・姫様との約束を・
・・破るわけないやない・・・で・・・すわ・・・わ・・・」
 徐々に薄れ行くマリーの意識。そして身体の温もりも消えて行く・・・
 暗い谷底に、アリエルの絶叫が響き渡った。
 「マリィィィーッ!!目を開けてえええーっ!!死なないでえええーっ!!」
 喉も裂けんばかりに叫ぶアリエルの心に、激しい慟哭がこだまする。
 邪悪なグリードルに対する怒り、憎しみを滾らせ、そして己の無力さに憤慨し、絶望し、
そして呪った。
 強大な悪に対して、弱き正義など、なんと脆弱な事か・・・
 悪の手で辱められ、メチャクチャに壊された今の自分に何ができる?手も足も動かない、
イモムシのように惨めな自分に・・・
 自分がもっと強ければ、父も母もノクターンも守ることができた・・・大切な友達を失
わずにすんだ・・・
 今まで感じた事のない、マグマの如き激憤がアリエルの心から噴出していた。
 血の涙を流す彼女の目に、邪笑いを浮べて、愛する弟を追い詰める兵士の姿が浮かぶ・・
・
 辛うじて逃げてはいるが、後から沸くが如く攻めて来る敵兵の猛攻は、いずれマリエル
を捕え、蹂躙するであろう・・・
 
 ―――もはや・・・神の慈悲に縋るなど愚の骨頂でしか無い・・・
 ―――悪を倒すには、悪をも平伏させる絶対の力がなければならぬ・・・愛する弟を守
るなら、最強の魔神とならねばならぬ・・・
 
 口を動かす以外の、全ての自由を奪われているアリエルは、声の限りに叫んだ。
 「誰か・・・誰でもいいっ、悪魔でもいいっ!!闇の王よっ、私に力を与えてっ!!暗
黒の強き者よっ、私の身体も魂もっ、全てを捧げますわっ!!私に最強の力を与えてええ
ーっ!!」
 絶望の叫びは闇に吸い込まれ、全てを貫き、魔を司りし者の元に届いた・・・



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